本気で本気を引き出す人よ・1

つらつらと書いていると8,000字にも及んでしまい(原稿用紙20枚分)、こんなん誰が読むんだよう、と泣きかけたのだが、まあもともと自分のために書いているブログだし、これを800字に圧縮したところで、大半の人にとって興味のないトピックであることに変わりはなかろうと思いなおした。そもそも、読み手の気もしらず、駄文長文を垂れ流すのはいつものことなのだった。ということで、ちまちまと数日に分けてアップすることにします。

(動画はvol.7まである。「完全版」と銘打ったシリーズがオススメ! 全部合わせると45分ほどにもなるが、関係者各位以外でも、情熱大陸やプロフェッショナル仕事の流儀が好きな人、子育て中の方など、一見の価値ありますよん。vol.1は要旨的な面もあるので、これだけでも面白い。)


これまでも何度か書いてるが私が卒業した高校はラグビー部が強い。在学当時(15年以上前)もけっこう強かったんだが、ここ5−6年ときたらなんかもうべらぼうに強く、毎年のように福岡県大会の決勝まで進んでいる。まあ、そこで毎年のように盛大に散って涙をのんでいるわけだが、福岡って高校数も多いし、後述するがラグビーのレベルも高いんだから、県立高校たる我が校の健闘は推して量るべしなのである。ただし、ラグビー部の強化に反比例するかのように全校生徒の学力および進路状況が低下する傾向にあるらしいのは、卒業生として複雑な気分だ。

強い部には当然ながら優れた指導者がいる。そのラグビー部の監督を私はよく知っている。彼は私たちの学年が入学するのと同時に当校に着任し、しかも私たちの学年を3年間担任した先生だからだ。とはいえ担任されたことはなく、私はもちろんラグビー部の部員でもなかった。もっというなら運動部出身ですらない。先生とのかかわりは、体育の授業と、学年全体、学校全体で行われる集会やイベントなどに限られた。

そもそも私の高校時代の課外活動は一にも二にもアルバイトで、授業が引けた夕方から夜22時まで、むろん土日も、自宅近くのチェーン系飲食店でせっせと働いてはお小遣いを稼いでいた。それはそれで部活よりももっと長い活動時間だったりするので、授業中はもっぱら睡眠に費やすことが多く、濃く厳しい部活動とがっぷり四つに組み合うラグビー部員などとは対極のところで高校生活を送っていたといっても過言ではない。

それでも、先般ふとしたきっかけで、筑紫高校ラグビー部のドキュメンタリーをyou tubeで見て、なにか胸が熱くたぎるような思いがした。これは2009年に福岡のローカル局が制作、放送したもので、尺も45分ほどあるし、取材期間もけっこう長く、かなりちゃんとした番組である。ま、「情熱大陸」的な、というと如実にイメージをつかんでもらえるだろう。

それまでにも、母校のラグビー部および西村監督をモニターを通じて見る機会はあった。県大会の決勝は(録画だが)ローカル局で放送されるので、ラグビーを好きな夫と毎年のように見ている。また、先日は全国ネットしかもゴールデンタイムの番組で、彼が取材される一幕もあった。チャンネルをまわしたら(まわしてないけど)もうコーナーは終わるところで、ものの1分ほどしか見られなかったんだけど、思わず吹けない口笛も吹いたよ(吹けなかったけど)。なんたって、MCはウッチャンナンチャンという超メジャー番組だったからね〜。

そんなときは、卒業生として単純に、母校や恩師(というほどの間柄ではない)に対して、「うれしい、懐かしい、誇らしい」という気持ちだった。でも、you tubeでくだんのドキュメンタリーを見て胸奥から沸き上がった熱には、まったく異なる種類の感情も含まれていた。久しく忘れていたイヤーな感じ…嫌悪感、に近いものである。

我が校とまったくかかわりのない人がこのドキュメンタリーを見たら、まずきっと、驚くだろうと思う。「こ、これって、いつの話?!」みたいな。すんげーーースポ根なのだ。最近は熱血といってもせいぜい松岡修造的な「夢にときめけ!明日にきらめけ!」タイプが主流で…って、あ、これは「ルーキーズ」か。ともかく、生徒を怒鳴りつけ首根っこ押さえて強制的にやらせるような指導法なんて流行らなくなって久しいはずだが、今日も元気にスパルタ教育が行われている場所って、ここを含め、意外とたくさんあるんだろうね。

もちろん監督だけが張り切っているわけではない。生徒がついてくるからこそそれなりの結果がついてきているわけだが、このドキュメンタリーのクライマックスたるその年の福岡県大会決勝の試合直前のようすを見ると、正直なところ「ああ、これでは、決勝に勝てないわけだな」と思ったりもする。

だって前日も、試合直前のミーティングでも、みんなすでに泣かんばかりなんだもんよ。部員たちの輪の中心になって、監督の訓示は小さく始まり、徐々にトーンが上がって、ついには咆哮にまで達する。つらい練習を振り返り、そこで得た仲間との絆や克己心を思い起こさせ、自尊心とモチベーションを最大限にまで高めていくそのアジテーターぶりはなかなかのもんなのだが、なんたって半端じゃない熱量である。「仲間を信じろ!」「はい!」「自分を信じろ!」「はい!!」「奇跡起こすぜ!」「はい!!!」みたいな激しい応酬で、生徒はすでに汗どころか涙まで流し、あわや師弟全員卒倒するんじゃないかというほど(実際には日ごろの鍛え方のレベルが違うんで、誰ひとりとして倒れたりしないけどね、もちろん)。いや〜、あの小さな円陣の中で飛び交う唾の総量を誰か量ってほしいよ。

かたや、例年きまって対戦相手となる東福岡(ちなみに男子校です)はというと、こちらは全国大会つまり花園に毎年出場…どころか毎年優勝する勢いの私立の雄。ドキュメンタリー当時の名将・谷崎監督は、生徒の自主にまかせた練習法をとるタイプでもあり、試合直前のミーティングも淡々としたもの。「いいかおまえら、120%(で戦うこと)はいかんぞ。かといって、80%はもったいない。何%や?」静かな監督の問いに、キャプテンひとりが「100%です」とこれまた静かに、いくぶんふてぶてしく答える。「よし、行ってこい」。監督がパンと手を叩くと、生徒は小さな気合を発して散っていく。

これぞ、王者の余裕。それでも彼らの中では静かな闘志と集中力がほどよくあたためられていて、試合となると点火されて効率よく燃焼していくのだろう。

比べると、爪の先まで緊張と気合と悲壮感でぱんぱんに膨らんでいる筑紫ラガーたちは、ちょっと突っつくとその大きな体がまたたくまに破裂しそうにすら見えてくる。(つづく)