『信長の棺』(加藤廣) (『夜は短し歩けよ乙女』(森見登見彦))

信長の棺〈上〉 (文春文庫)

信長の棺〈上〉 (文春文庫)

信長の棺〈下〉 (文春文庫)

信長の棺〈下〉 (文春文庫)

あれだけ有名でありながら今なお謎の多い桶狭間の合戦・本能寺の変という信長関係の2大事件にまつわる本格歴史ミステリー。

信長の忠実な犬(猿か・・・)であった秀吉と、時の帝・正親町天皇の朝廷の重臣であった近衛前久が黒幕であるという見方は、かつて安部龍太郎が新聞連載していた作品(名前忘れた)においても披露したように、昨今の定説のひとつにもなっているのだが、安土城の細密な構造や、当時の日本における暦の混乱を統一しようとした信長の為政者たらんとする姿が明らかになる過程はぞくぞくするほど面白かった。

ラストでついに発見される信長の真の墓所においてのエピソードも、彼の「天下布武」という崇高な志をもった英雄であるという面、しかしそのために大量の無辜の民をも屠り続けたという「人道に対する大罪人」たる面とが、両方ともに後世の読者の胸に迫ってくるもので、私としては大変満足した読書だった。

筆者の加藤廣はもともと高名な経済学者だったそうだが、70歳を過ぎた2005年、この処女小説を上梓し、本書を受けてさらに『秀吉の枷』『明智左馬助の恋』という作品を書いて3部作としているらしい。続く2作はまだ単行本のみの刊行なので、文庫化を楽しみに待ちたいと思います。

さて、その後は同時に購入していた『夜は短し、歩けよ乙女』(角川文庫)という、数年前の単行本出版当時、かなり話題になった、今をときめく若き作家である森見登美彦の作品の文庫本に手をつけた。いかに廃人とはいえ(?)1日かからず読み終わったのだから、面白い作品だったとは思うのですが・・・うーん、こう、イマイチ、素直に賞賛できないっていうか・・・。感想を書くまで、もうちょっと寝かせておこうっと。