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「のぼうの城」

映画

のぼうの城 通常版 [Blu-ray]

のぼうの城 通常版 [Blu-ray]

地上波初放送を録画して視聴。映画にさきがけて発売された小説はずいぶん売れたと記憶してましたが、これ、小説を映画化したというのは正確ではなくて、まずシナリオありきで(城戸賞という脚本賞を受賞している)、それを映画化前提としてノベライズしたものだったんですね。

私も珍しくこの人気小説を事前に読んでまして、その感想は こちら( http://d.hatena.ne.jp/emitemit/20110209 )でござるが(侍口調)、短くまとめると「面白くて一気に読める、考証もしっかり考慮されてる、でも多分に少年漫画的。これが現代の歴史小説か…(やや慨嘆)といったものでした。だから小説にさしたる思い入れがあったというわけでもなく、それでもなお、読後に映画のキャストを知って呆然としてる。

私の脳内妄想キャストは以下↓

そして実際のキャストはこれ↓

武蔵(K-1で活躍してた、あの、格闘家の方ね)→野村萬斎 だよ?! 

しかし実際に映画を見てみたらば、とても面白かった。むしろ小説版より好きかも。誰もミスキャストと感じなかったし、小説で「ねーわ」と思ったいろんな部分が、映画では「あり!」になってた。筆者の技術の問題ももしかしたらあるのかもしれないけど、まずもって「小説と映画との媒体の違い」が大きい気がする。

まず主人公の“のぼう”が、小説ではなぜあんなに求心力があるのかわかりづらかった。武も知もからきしダメな、愚鈍の大男。百姓との垣根がないだけで、別に百姓思いなわけでもない。百姓思いであれば、そもそも大軍相手に戦を選ぶわけがないし、敵前での田楽踊りも、いくらわが身を犠牲にする覚悟のあったとはいえ、味方を「死ぬ気で戦う気にさせる」ためだけの作戦。圧倒的少数が死ぬ気で戦えば、死ぬだけである。確かに自分で「わしは悪人になる」と言ってるけど、自覚があれば許されるわけじゃない。小説では、のぼうを英雄だとも、魅力的だとも、ついに最後まで思えなかったのです。

ところが映画では、野村萬斎だもん。そら英雄でしょ。魅力的でしょ。どんなに道化芝居をしても典雅。時折、スッと目を細めたり、不敵な笑みを浮かべたりすれば、「これはただ者じゃないんだな」と思わせるものがある。そう、平時は「でくのぼう」でいい(まあ萬斎さんは大男ってほどじゃないけど)、作戦も奇天烈でいいけど、結局「傑物かもしれない」という造形でないと、やはり座りが悪いというか、説得力がないのだ。

クライマックスの田楽踊りにしても、小説だとイマイチ描写が弱かったように思うんだけど、映像では、そらもう萬斎さんだもん。萬斎さんありきでの企画…ていうか萬斎さんありきでの忍城攻防戦という歴史じゃないかと思えるほど(註:もちろん忍城攻防戦で田楽踊りが披露された史実はないはずw)。

ふんだんに金をかけているだけあって、人数もすごいしVFXもすごくて(←目が肥えてないだけかもしれんけど)、出陣のシーン、夜のかがり火の中の行軍とか、非常に見ごたえがあるんですね。迫力ある映像でテンポよく見せられると、「細けぇことはいいんだよ!」ってなる。

まあ脳内キャストの竹野内豊佐藤浩市になったからといって、実際に佐藤浩市を見ればかっこよくてしょーがないわけで、佐藤浩市って、今でもこういう「苦み走ったツラしてるけど実は意外に重みのない中年」の役を自然にやれる・・・ってかむしろ似合うのがすごくいいなと思う。成宮くんも、キャスティング聞いたときはえらいトウが立った酒巻になるなーと思ってたけど、初陣で全然いけてた。成宮くんって、どこで見ても違和感のない役者だ。「酒巻靫負は姫に惚れておりまする」と、ラストの「姫よ」に始まる二大決めゼリフがしっかり決まってたので最高でした。

平岳大はイヤな奴を好演。山田孝之さん・・・いいお尻を惜しげもなく、ありがとうございました(最悪)。市村さんも(笑)。市村さんの、全然小兵でも猿でもない、堂々たる肢体で精力ありあまってる感じの秀吉も、映画で見ると納得させられる。この大きな秀吉だからこそ、三成は憧れてやまなかったのだろうと。

そう、三成ですよ…。上地雄輔。バカな、と思われるかもしれないけど、とっても良かったです。実は「天地人」の小早川秀秋のときも、「なんだよ全然悪くないじゃん」って思ってました。この人、ヘキサゴン以前に地味な下積み時代があったからか、野球がすごくうまいぐらいだから身体能力的センスがあるのか、時代劇にもハマるんですね。セリフ回しにも何の不安もなく、線の細いからだから声を張ったり哄笑するのも、三成っぽくてとても良かった。この物語は、その一本気と稚い野望が憎み切れない三成像がキモなんだけど、似合ってたと思う。

もう一人の不安材料・・・ていうかイメージ違いすぎな甲斐姫も、見ると「なるほどな」と。小説を読んだとき、私の脳内「のぼう」は武蔵さんだったもんで、つまりひどくもっさりとしたイメージだったんで(実際は武蔵さんは超強い人なんですけどね)、それに対するところの甲斐姫栗山千明的にシュッとした女性でないとダメだ、と。しかし映画では萬斎さんなんですよ。萬斎さんに栗山千明を充てると、ふたりしてシャープすぎ、お似合いすぎるんですよね。そこで、かわいらしい榮倉さんをもってくると、ふたりのイメージの違いが、カップルのミスマッチ感が際立つ、と。

この物語では、最大の見せ場である田楽踊りが割と早い段階で起こる。映画でもそれは同じだったんだけど、映画はそのあとの流れが良かった。役者が良い演技を見せ、役者同士でぶつかり合うので、城での相対も面白く見られるんですね。姫を秀吉の側室に求められた長親が笑みを浮かべて「…承知した」と答えてからラストまでの流れが、スッキリしててとても良かった。良い映画でした。