『軍師官兵衛』 第13話「小寺はまだか」

今週も、with 針仕事での感想です。今週は、まあまあ良かったです。戦絡みでない回としては、このドラマの中では、「なんとかいける」ものだったのではないかと。サブタイは安定のセンスなし。

秀吉に挨拶に来るか来ないか、という他愛ないトピックのように見えて、小寺家の内情や播磨の情勢が見え、他方、隣国の摂津では荒木村重が追いつめられていく様子も描かれ、人知れず喀血していた半兵衛の「軍師官兵衛殿」呼びなど、今後への布石もまとまり良く挿入されていた気がします。まあ、諸領主が来るか来ないかの一点だけで、三谷さんあたりなら、むちゃくちゃ凝ったシチュエーションを多数用意して見せてくれるんだろうなーとか思わずにはいられないのですが、今作は今作の作風(作風らしき作風はないという作風)で見るしかないですからねぇ。

何より、今作の信長は、「信長という役名のキワモノ」でしかないんだけど、秀吉はまだしも秀吉にとどまっている。道化を気取っても、つねに一貫して「できる男」「出世魚」といった雰囲気を漂わせているんですね。「播磨風邪が流行っているようだな」の対応の仕方や、半兵衛・三成らとの話など、官兵衛を気に入って、彼の目の前では大感激してみせたりしても、常に心の中は冷静な戦略にみちているあたり、主人公より一枚も二枚も上手の、天下人の器を感じさせます。

確かに、三傑の中で官兵衛ともっとも関係が深いのは秀吉だから、大味な信長と有能な秀吉(そして未熟な官兵衛)、という今作の割り切った描き方は、大枠では間違ってないのかもしれない。官兵衛も、今(小寺時代)はまだやや遅めの青年期であり、孵化する前の卵として描かれているのだとは思う。ひょっとすると有岡城までは「若気の至り」を盛り込んで、その後、老成した軍師になって、変わってゆく天下人・秀吉に疑問を抱き…という意図で描かれるのかもしれない、それはそれでアリかもねとしか言いようがありません。

でも、今の段階で、官兵衛のキャラが豹変しすぎなのは、いかがなもんかと思うのよね。

  • 光と出会ったころ…「これで仲直りです」だなんてスマートな紳士ぶり
  • 青山・土器山の戦い…堂々たる戦いぶり
  • 小寺家を毛利でなく織田家につかせるための大評議での熱弁…天下一品
  • 半兵衛に試される…やたらムキになって急にガキくさく
  • 毛利襲来…ガクブルガクブル。
  • 命がけの宴…秀吉が来ない、とヒステリー起こしまくり。秀吉に謝られるとイチコロで滂沱の涙。ちょろい。
  • 松寿丸を人質に…乱世のさだめを弁え、しかも息子への愛情深い、大人の態度に終始。
  • 今回…秀吉に義兄弟認定されたヒャッホウ!


「賢いし胆力もある、けれど一本気や過信のあまりポカすることも」ってのは官兵衛の正しい造形なのかなーとは思うんだけど、その根っこに「10歳になっても厠へ行くのを忘れて漏らしてた」ってエピソードを置いてたびたび蒸し返す脚本のセンスには共感できないし、「いいときは理想の上司であり理想の夫、てか出木杉くん的な優等生で魅力に欠ける。ダメなときはダメすぎ。ワーワー喚く姿も見苦しく、うんざりする」って感じで、官兵衛が魅力的でないの。官兵衛の好感度は、ほとんど、岡田くん本人の好感度によってのみ構築されている、わたし的には…。

姫路城の引っ越しは、いかに当時小さい城だったからとはいえ、大事業だったはずなので、実務面をもうちょっと書いてほしかったですね。家臣一同まで含めて引っ越し先をどうやって確保したのか、とか。それはどこか、とか。鶴太郎にだけ打診してサッサと進めたような描き方だったけど、そこは官兵衛が(納得されなくても)評議の席で堂々と引っ越しのメリットを説いて、正面切って対立すべきだったと思う。他の家臣らがいかにみんなバカとはいえ、あんなやり口されたら反感かうにきまっとる。「浮かれ官兵衛」を描くための脚本としても、視聴者の反感かうまでに浮かれさないでぇー。

松寿が市松、虎之助らと共に育つ姿の描写を欠かさないのは○。この松寿の子役ちゃんが超かわいいから、朱に交わって赤くなるのが何だか惜しくなりますねww

冒頭に書いたとおり、磊落な中世的単細胞として登場した荒木村重が、信長の近代合理主義精神(そこまでのものは描かれていないがw)にだんだん追い詰められていっている様子は、なかなか見ものです。田中哲司に失敗はない。でも、信長に対する言上で噛んだのを「焦ってる感じが真に迫ってていい」って感じでそのまま採用した(と予想)のはどうなんでしょ。自分には違和感がありました。あと、高山右近の生田さんのしっかりしたセリフ回しにおおっ!と思いましたね。そうやって感心した次の瞬間、「演技力が宝の持ち腐れになりそうな人がまたひとり…」と脚本や統括を憾みに思う気持ちが芽生えるのは、もう致し方ありません(泣

半兵衛の喀血に「ウソッそんなに早くタニショーに退場されたら困る!」て真っ青になったんだけどよく考えたらそういう頃合いよね…。これで半兵衛は、「自分の死後を託すに足りる者」として「軍師官兵衛」を育てる決意をした…という意味でのラストの呼びかけなんでしょう。感動的なシーンのはずなんだけど、大河で「太平の世を作る」って言われた瞬間にじんましんが出てくるのが大河オタクの悲しい性でおます。