長月の三 /「あまちゃん」で震災が起きた 2

●9月某日: 寒いぐらいの涼しさ。福岡市、この日の最高気温は23.6度だったらしい。けっこうな雨が降っているが、サクに傘をもたせ長靴を履かせて家を出る。「どこいくの?」と聞かれて「郵便局と買い物だよ」と答える。郵便局のあと、スーパーAでもBでもない道のりにサク、「セブンイレブン?」と尋ねる。あー、そうそう、と答えつつ、セブンイレブンの前を素通り。角を曲がるに至ってサク、「びょういん いくの?」と真相に気づく。たはっ。ここまできたらしょうがない。「そうだよーん」。ピタッと足を止めて「びょういん いかない!」と決然と言い張るサクの手を引いて病院へ。「やだよーっ、いかないよーっ」と抵抗していたが、「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」となだめていると、扉を開けるあたりで突然、開き直ったのか、ふと力を抜いてすんなりと靴を脱ぎ、「これを はく」と新幹線の子どもスリッパを選んで履き、名前を呼ばれると返事をして入室。しかしまあ、やられるわけですな、日本脳炎予防接種2回目。泣きました。てか怒ってた。「オメーがだいじょうぶっていうから信じてやってきたのに、結局やるってどういうことじゃ、われー!この裏切り者ー!」って感じだったでしょうか。だいじょうぶとは言ったけど、やらないとは言ってないもーん♪ しかし床に座り込んでひとしきり泣いたあと、これまたスッと気持ちを自分で切り替えて涙を拭い、「アンパンマンのほん みる」と言う。待合室に蔵書されているそれをしばらく一緒に読んだ後、また強い雨の中、傘をさしてちゃんと歩いて帰った。買い物、と言った手前、セブンイレブンにも寄った。サクちゃんがんばったもんね〜、ってことでリンゴジュースを買う。

今日の「あまちゃん」。アバン、帰宅難民、アキ。トンネルの先から線路がなくなっているのを見てしまったユイ…。OPテーマ。震災から5日で走り始める北鉄。ひと駅区間だけど1日3便、時速20kmでのノロノロ運転。料金はタダ。けれど電車に向かって笑顔で手を振る人々。並んで走る子どもたち。ウニ丼を売るためにフラフラで乗り込んで、その様子に目を細めるでも涙するでもなく、硬い表情をしている夏ばっぱ。車窓から見える変わり果てた風景に胸ふさがれているのかもしれない、でも「こんなことには屈しない」と毅然としているようにも見える。現地の様子は希望と決意とにみちた北鉄の描写だけにとどめて、東京の人々が迷い、立ち止まり、打ちひしがれているのを描く。店頭から消える水、インスタント食品。節電。売名行為。帰ったところで何ができる、と思うと踏み出せないアキ。