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『神仏のまねき』 梅原猛・市川亀治郎

歌舞伎

神仏のまねき (梅原猛「神と仏」対論集 第三巻)

神仏のまねき (梅原猛「神と仏」対論集 第三巻)

梅原猛、1925年生まれ、京都大学卒、異色の哲学者。のちに仏教、神道の研究。縄文、アイヌの研究も。ものつくり大学総長(初代)、京都市立芸術大学学長、国際日本文化研究センター所長(初代)などを歴任。現在、同センター名誉教授。また、東日本大震災復興構想会議特別顧問(名誉議長)。

・・・という、なんかすごい人と亀ちゃん時代の元亀ちゃんが、2005-6年にかけて対談したものの書籍化。日本でも五本の指に入る有名な老哲学者と、元亀ちゃん(当時30歳)が、単行本1冊分、まるまる対談してます。亀! アンタいったいなんなのさ?! 

で、私はこれを2008年に買って、読んで、それから何度か、一部を抜粋して読んで、猿之助襲名を機に、一気に通して再読。

買ったころよりも随分スラスラと読めたし、内容もわかりやすく感じた。歌舞伎についても、芸能史・歴史についても、亀ちゃんについても(はぁと)、この3−4年でいろいろなものを見たり読んだりして、知識が増えたんだなあと実感。オタクとしては何かうれしい。

スーパー歌舞伎ヤマトタケル』は梅原猛が「古事記」に想を得て脚本を執筆したもの。「隠された十字架」や「水底の歌」の著書で、怨霊史観の持ち主として有名になった彼らしく、主人公ヤマトタケルに滅ぼされるクマソタケルや、ヤイラム・ヤイレポの兄弟、伊吹山の神などに感情移入して書いたらしい。ラストでヤマトタケルが言う「天翔ける心」というこの作品のキラーフレーズにして市川猿之助の魂を言語化したようなセリフは、なんと「なんかこれだと私が悪者みたいで・・・私にももうちょっといいセリフが欲しい」という猿之助の要望に沿って付加したものらしい! マジすか〜。

ほかにも、「ヤマトタケル」制作裏話をはじめ、ほかのスーパー歌舞伎に関する秘話もいろいろ入っていて面白い。もちろん、古典や芸能史についての言及も豊富です。

この対談のときには想像もつかなかったことに、『ヤマトタケル』は亀ちゃんの猿之助襲名披露公演となったわけだけど、これ読むと、元亀ちゃんの弟橘姫も見てみたかったなーと思う。花道とは何か、六方とは、俳優とは? 舞台になじみがある人には興味深いこと請け合い。

また、対談でしきりに語られている亀ちゃん主役での「水底の歌」、実現しないかなー。長い原作をどう舞台脚本に落とし込むかはもちろん、照明や音楽の基本的考え方に至るまで話し合っているんだもん。ま、もっとも重要なのは、興行面での見通しなんだろうね。でも今や元亀ちゃんはお客を呼べる歌舞伎俳優のひとり。宙乗りやわかりやすいケレンのない分、何かしら客を引きつけるインパクトを打ち出せば実現可能なのでは。

対談時点で御年80才になる梅原さんは、先代の団十郎海老蔵のおじいちゃんね)や尾上梅幸(現・菊五郎のお父さんね)と年が近い。30そこそこだった先代の猿之助や、20そこそこだった玉三郎を見たとき、「これからは彼らの時代になる」と強く感じたという。そしてこの対談の中では、亀治郎勘太郎七之助獅童らが出演する浅草花形歌舞伎を見て、「次の歌舞伎を背負っていく人たちだ」と言う。それが、社交辞令でなく、「昔は良かった」でなく、孫のように若い人たちを見て本当に心から感動したんだなーと伝わってくる言辞の数々で、読んでるとこっちまで感動する。亀ちゃんの猿之助襲名披露公演の初日も、奥さんと一緒にいらしてるのが映ってた。まだまだお元気そうでうれしい。