皐月の七: 断乳

●5月某日: 前日までは頭をかすめもしなかった断乳を、いきなり決意。

ここ1〜2か月、夜中の授乳回数がやたら多くて、といっても、夜中に次々と生産されるほど私のおっぱいにもはや昔日の(?)勢いはないし、奴も本気で空腹なわけではない。とにかく、ちゅっちゅちゅっちゅとおしゃぶりし続けたいようなのだ。本気でくわえるでも、ごくごく喉を鳴らすわけでもなく、中途半端にちゅぱちゅぱとやられ、しかも反対のおっぱいを指でいじいじされるのはなかなかに不快。それを20分も30分も続けて、もうよかろうと離すと号泣、それが毎日、明け方に2回も3回も…ってので、実際、疲れてはおりました。

が、外で働いてるわけでもなし、土日は夫が完ぺきに食事の世話(子どものだけじゃない、私の世話もだ)してくれるしで、多少疲れてもさほど支障はないのである。

だいいち、大人だって、大好きなもの(私でいうビールですかな、むはははは)を取り上げられるのはすごくつらいのに、いわんや、ある日突然、わけもわからずおっぱい中止を宣告される子どもをや(係り結びの法則)…と思っていたのだ。この世の終わりとばかりに泣きまくるだろうサクの前で、心を鬼にしていられる自信がなかった。

周りを見てると、1歳2〜3か月とか、1歳半とかで卒乳する子が大多数。それをここまで(1歳10か月半ば)やり続けてきたんだから、私自身、おっぱいをあげるのが苦痛でたまらないってわけじゃなかったんだとも思う。授乳ってほんと、良くも悪くも子どもとの一体感で、「良くも」の部分は幸福感と言い換えることができるんだもん。

…だというのに、この明朝、いつものようにひたすら中途半端飲みをし続けるサクに「もうやだ、きつい。おっぱいおしまい」と宣告のうえ、実力行使。結局、最後は自分の都合です。段階を踏むとかありません。しょせん私ってこんな親。や、ある程度、親の都合に振り回されるのが子どもってもんなのさ、この自然界においては(と、無理やり話を大きくする)。

明け方5時半におっぱいから放り出されたサクは当然号泣。私、眠いのと罪悪感とで、ふて寝。とはいえ、子どもが泣きじゃくっていれば熟睡なんてできないのは母親というもんですが。夫が起きだして、テレビの部屋に連れてゆくと、最初はえーんえん言ってたけど、じきに、テレビを見て元気になってきた。

朝ごはんのときも、「先におっぱいくれなきゃ食べないもんね!」と主張することもあるんだけど、子ども心にもうもらえないと悟ったのか、求めることはなし。昼間はまあ、もともとほとんど飲まなくなっていた。

朝が早かったので、11時ごろから昼寝。ベビーカーに乗せたら3分で落ちて、ふとんに下ろしてもそのまま寝続けた。

そして問題の夜ですよ。「もう寝るよ〜」と言われ、いつものように喜び勇んでふとんの部屋に入ってくるサク。普段は、「もう寝るよ〜、おっぱい飲むよ〜」と言って誘ってた。おっぱいの一言は葵の御紋より強いのだ。

「おしゅみ(おやすみ)」と言いながらゴロンと横になり、添い寝の体勢になっている私の胸元をまさぐる。「ごめんね、おっぱいはもうナイナイなんだよ」と言ってそれを制すると、

「よ る も く れ な い の か !」

と衝撃を受けた模様。これまで、寝かしつけのパイを拒んだことはない。今朝は朝方に拒まれ、昼も飲まなかったけれど、夜になれば飲めると思っていたけど、でもうすうす、なんか拒まれる予感もしてたけどやっぱり…! どうしてどうして! なんでくれないの! ぼくのおっぱい! やだやだ、おっぱいなしじゃ眠れないもん。おっぱい出せ、出しやがれ、出して、お願い飲ませて、やだやだ、ないなんてやだ、ありえないーーーー!

て感じで、大粒の涙をぼろっぼろ流して泣きながら大暴れするサクを添い寝で抱きしめてトントンしながら、私も号泣。(…しつつ、ここで、立ち抱っこでユラユラしてやったりしないところが、ものぐさな私の私たるゆえんだ笑)。サクー、ママもサクにおっぱいあげたいんだよ。でも、明け方眠い時に起こされてあげ続けるのはもう嫌なの。ははは、勝手でスマンね。

その日、寝かしつけまで、ずっと考えてた。ほんとにやめるの? やめきれる? もうあげなくていいの? さんざん泣かせて、かわいそうだからやっぱりあげる、ってなるのは最悪よ? うん。いいの。だってもう毎朝堪えられないもん。1歳10ヶ月まであげたんだし、もう十分でしょう。おっぱいやめたほうがごはんも食べるよ。いや、ダメダメ、やっぱり、おっぱい見つけてにっこりしながらパクッちゅっちゅってするサクが見られないなんてーーー。だいたい、いきなりすぎる。サクにも、「明日でバイバイね」とか言ってあげたほうが、まだいいんじゃないのか。や、「思えば、あれが最後だったんだな」ってぐらいでちょうどいいのかも。カウントダウンなんてしたら感傷的になるし。

何が正しいと決まってるわけじゃないから、考えれば考えるほど悩んでしまう。あげく、どれだけ考えても正解が決まってるわけじゃない、というループに陥るだけ。あんまり考えすぎないで決めちゃったほうがいいな、というのが結論。みんないつかはやめるんだ。

30分ぐらいで泣き疲れてサクは寝てしまった。その寝顔を見ながらもうちょっと泣いて、夫に「これでやっと、酒が飲めるな」と言うと、夫が、「もうとっくに飲んでるじゃんか。」と正しく突っ込んでくれました。ははは、そうなの。とっくにやめるべきだったのよね、その観点からいっても。

その日は、夜中の2時過ぎに一度起きただけだった。そのときはやはり泣いたけど、枕元に用意していたマグで麦茶をごくごく飲むと、ひとりでに寝た感じ。明け方の4時半から1時間半くらい、眠れなかった。ときどき体をビクッとさせたり、「ふぇ・・・」と言ったりするサクに必要以上に敏感になって、「目を覚ます? 覚ますの? 泣くの?」とドキドキしてたのもあるけど、習慣でもあったと思う。いつもこの時間におっぱいあげてたな。もうあげないのかな。子どもが小さいのなんて、ほんとにあっという間のことなんだろうな。いろんな考えがとりとめもなく巡った。