『平清盛』 第24話「清盛の大一番」

長丁場で歴史を描く大河ドラマでは、息もつけないほどハードな回もあれば、「お江戸でござる」ばりにゆるゆるの回*1もあるのがお約束。『風林火山』では、由布姫が死んだ次の回で、勘助とGacktが仲良く(?)並んで高野山で修行したり、『新選組!』の寺田屋大騒動の回が有名であるように、ゆる回は、ことさらハードな回の翌週にもってこられることも多いです。緩急ってやつですね。

そう、だから、長年の大河視聴者ほど、「今週はゆるいな」と思ってたわけですよ。予告を見てなおさら、「ギャグ回だな。どーかスベりませんように・・・」と祈ってたほどなんですよ。

軽かった。確かに軽めだった。先週までしばらくがハードすぎたから。ええ、あくまで相対的な話。いつも以上に、「絵面で楽しませる」意図もあったと思う。でも、これ、絶対的に見たらゆるくないよね。息抜きって感じゃない。息継ぎぐらいはできたかな?ってぐらい。強い推進力で、今週も本編の話がどんどこ進んでいった。

まずは絵づらの記録から。

その1.大宰府。今は「太」宰府」ですが昔は「大」宰府なんだよね。『龍馬伝』の長崎しかり、『北条時宗』の博多しかり(って古い話だな)、異国情緒ただよう絵づらに放り込まれた主人公、って面白いよね。あの円卓、ほんとに「龍馬伝」を思い出したわ、余貴美子たちが麻雀やってたやつ。で、お茶、よかったねー。そうか、お茶って珍しいんだよな。鎌倉時代ぐらいから(もちろん上流階級でだけだろうが)メジャーになるんだっけ? でも、宋との(密)貿易のさかんな大宰府にはあってもおかしくないよね、と。清盛にしろ、後白河にしろ、お茶が注がれるときの顔がおもしろい、思わず首が上下しちゃうんだよね。

その2.相撲節会(すまいのせちえ)。現役力士たちが大河ドラマに登場するのは初めてだとかいって、ちょっとした話題作りにもなっていました。縫い合わせてない着物みたいなのを着て登場するとか、まわしがふんどしでしかない(!笑)とか、見た目はやっぱり凝ってました。決まり手はわりと普通だったかな、豪快に投げとばしてはいましたが。しかし相撲シーンで一番面白かったのは、こういう余興に真っ先に飛びつきそうな翔太・後白河帝が、ことのほか相撲に興味をお示しにならなかったことですね。デブなら受け付けないどころか好物のはずなんですが。だって塚地の信頼さんと懇ろにやってるわけだし…(以下自主規制)

その3.婚礼。「高砂や〜」普及以前の婚礼をがっつり映像で見られるのも珍しいことでして。古代や中世の大河は、こういうの一つとってみても面白いですね。典礼としての記録はやはりあまり残っていないのか、それほど珍しいことやってるわけじゃなかったけど。それにしても、平氏方のヒゲメンズが歌い踊ってたけど、宴の座興のあーゆーの見ると、「どじょっこホイ♪」from天地人 を思い出す…。忘れたいのに忘れられない、これぞトラウマ。

で、今週も前に進んだお話の数々。

・税金とか、内裏の修繕とか、鎮西の役人とのやりとりとか、実務的な仕事の話で面白かったです。そういえば、鎮西為朝の島流しについては完全にスルーなの? スルーといえば、このドラマでは、信西が後白河の乳父であることだけはやったけど、池禅尼が憲仁(崇徳の子)の乳母とか、時子が二条帝の乳母とかいう史実は、全部スルーなの?

・清盛が完全に大人になったーーー! 

・や、とっくの昔から大人だったんですけどもさ。以前にも書いたけど、このドラマは、本当に順を追って、ちょっとずつ、主人公が成長していくので、本当に見応えがあります。ややもすると「主役が空気」「周りのほうがかっこいい」なんて言われてますけど、冷静に考えると、やっぱり丁寧にその成長や変化が描かれているのは、断然、清盛です。主役は主役らしく、ライバルはライバルらしく、その他のみなさんはその他らしく、筆に軽重が置かれてるなと感じます。

大宰府では、悪代官をあっさり支配下に。見るからに素行の悪そうな郎党たちをちょーっと暴れさせて、自分は美味しいお茶をぶんどってニッコリして一言、「つべこべ言わずに俺に従え」って、やり口が明らかにやくざですからぁぁぁぁ! 悪をもって悪を制す。こんな芸当もお手のものになってきた〜! これ、妙に明るい感じでやってのけたのがよかったよね。二度目に部屋に入ってくるときの、体を傾けてひょこっと笑ってる顔から入る感じとか。

・嫡男・重盛が本役になり、中二病を発症。しかしまったく取り合わず。「一門のため」とあっさり政略結婚を命じ、婚礼の場で「やっぱ無理」と言いだしたら、一応言い分こそ聞くものの、たわ言と言い切って、顔色も変えずに庭に片手でぶん投げる。「さっさと子でももうけよ」っていう捨てセリフがよかった。明らかに童貞カタブツそうな重盛だから、「女に夢中になってみれば変わるさ」ってふうでもあり、「子どもができれば変わるさ」ってふうでもあり、もちろん、「子どもができれば家と家との結びつきもさらに盤石だからな」ってふうでもあり。年かさの男として、父親として、そして棟梁として、いろんな顔がすべて反映された、あの一言って感じだった。

・そんな修羅場をびっくりした顔で見つめる時子と、清盛を、新しい平氏を測るように見据える池禅尼。前回「棟梁の妻」として覚醒した時子だけど、先代レベルになるには、こちらもまだまだ修行が必要なようで…。そいえば、先週の回から2年くらい経ってるようですが、滋子ちゃんはもう宮仕えに出てるのかしら?

・重盛(中二)は「信じらんない」なんて言ってるけど、父ちゃんはすんげー立派にやってるよー。一見、時の権力者・後白河と信西の支配下にあり、相変わらず財も惜しみなく投じているんだけど、媚びへつらうことなく、信西に向かってはちゃんと牽制もするし、帝が譲位しないのを「美福門院とガチの喧嘩するのが楽しいから」とバッチリ見抜いてるし、自分が出席できない(公卿じゃないからだよね?)相撲パーティーで、後白河相手に一手仕掛けるし。案の定、後白河は好物のはずのデブちんたち(だから自粛)には眼もくれず、お茶に夢中。

・そんな清盛の立派さはさぁ、重盛、息子で中二まっさかりのあんたにはわかんないだろうけどさぁ、ここまで見てきた視聴者にとっては、「おまえ〜どの口で言うか!」「まあまあ、立派になっちゃって…」の連発なんだよ。あんたの父ちゃんも相当なもんだったんだよ、昔は。

・「静」の芝居をするとき、清盛は今回も父・忠盛を彷彿とさせた。言葉少なに、小さな笑みさえ浮かべ、すべてを見透かすようにじっと見つめて、口をひらけば穏やかに、でも有無を言わせぬ言葉を放つ。中井貴一のそんなたたずまいがすごく素敵だったので、それに近付きつつある清盛にぐっときます。それでいて、大宰府で見せたような生来のお茶目さ、やんちゃさが垣間見えるのが、清盛の魅力ですね。

・前半、信西と師光と3人で鎮西について話すシーンがあったけど、清盛、袖から出るような出ないような微妙な手つきで書類を操っているのが実にうまいと思った。この時代の衣服は、戦国・江戸期のような普通の時代劇ともまた違う。あまりにさらっとやってるので全然評価する声が聞かれないけど、本格的な時代劇のキャリアはほとんどないはずなのに、松ケンの所作、やっぱりかなりうまい。

・さてさて、そんな中二こと重盛、みんなが大好きな窪田正孝くんが初登場でしたよ〜〜〜! 初回から期待に違わないすばらしい演技。清盛と後白河に挟まれて右往左往する彼を想像するとキュンキュンしますね。波乱含みの婚礼だったけど、びっくりしつつも優しい眼、落ちついた様子を見せていた新妻・高橋愛ちゃんとの並びもかわいいですね!

・婚礼の席の「どじょっこホイ♪」(違)に、頼盛さんも加わってた、しかも普通に楽しげに踊ってた。彼の「清盛の兄上が憎い」の気持ちはきっと消えてない、でも、死を目前にした叔父・忠正の粛然とした言動も忘れられるはずはないだろう。彼がこれからも一門の中でどこか異端の人として描かれるのは明白だけど、でも、重盛らに対しては含むところはないんだろうなあ、と。大叔父の忠正が、重盛らに対していつも優しかったように、頼盛もまた甥っ子はじめ、一門の年少者たちには優しい叔父さんであり続けるのかな…、と。この辺も繰り返されるのかな(しんみり)。

・しかし、中二病を克服したとしても、重盛も胃の痛い日々が約束されているようなもんだし(笑)、時忠はもとより一族の中の変わり者。滋子も相当なおてんば娘の設定。で、頼盛でしょ。なんか、割と異端者ぞろいなんじゃないでしょうか平氏一門。

・重盛を平然と投げ飛ばす清盛を見て、「清盛もえらくなったもんだナー」という感嘆と同時に、ふと頭をもたげたのは、「一門のためってなんだろう?」ってことでした。まさに「一門の繁栄のため」手を尽くすマキャベリストに変貌した清盛。重盛は、「叔父の斬首を命じた信西と手を組むなんて」と言いますが、清盛に言わせれば、「叔父を自らの手で斬るという代償までもを払ったのだ。これで後戻りなんかしたら、冥土で彼に合わす顔がない」ってところでしょう。だから、嫡男たる重盛を一門のために使うことなんか、屁とも思わない。

・そうやってこれから栄華を極めてゆく平氏ですが、誰もが「一門のため」に働き、けれどそのために己を殺したり、出世したがゆえのトラブルに巻き込まれてゆくのなら、その栄華ってなんなんでしょうね? そしてその先に滅亡があることもわかりきっている。ほんっとうに切ない話ですね。

平氏の大統領、もとい大棟梁になりつつある清盛を見て、ちょっと怖くもなるじゃないですか。今、ドラマでは、頼れる、かっこいい武家の棟梁だけど、もとは有名な「専制君主エピソード」もたくさんもってる平清盛じゃないですか。このドラマでも、なんせちゃんと(?)もののけの血が入ってるし。成長…を通り越して、“もののけ化”していくんじゃないのかな、ていうドキドキ感は常にあるわけですよ。「ヒーロー」「純粋まっすぐちゃん」続出だった近年の大河ドラマの主人公が、こういう属性をもってるってのも稀有で楽しいんだけど。

・新世代の朝廷がまた、いい感じに小物ぞろいなわけですよ。明らかに政治的信条なんてなさそうな、日和見っぽい成親。こちらは野心はありつつ、源氏に同情的な一面を見せる師光。いずれ太政大臣になる清盛が、のちに彼らに対して行う仕打ちを想像するとねぇ…怖いわけですよ…。

・朝廷といえば、旧世代の象徴である崇徳さまは、うらぶれた様子で讃岐に流されていきました。だいじょうぶ、崇徳さまの出番はまだこれで終わりではありません! 出家以来、西行は「おまえ、なんのために出てきた?!」という場面しかなく、これがある意味おもしろいです。

二条天皇も今日から本役。あれ、保元の乱前のときも、この子だったっけ? とにかく喋ったのは初めてだよね。顔の系統的には、頼朝の少年時代くんと似てるんだけど、声が高くて印象的でした。この大河では、白河に始まり、鳥羽、崇徳、近衛、後白河、二条(今ココ。New!!)ときて、この後も数代続くという異例の「天皇だけで野球チームが作れるぜ!」大河でもあるんですが、誰ひとり記号化せず(ま、記号になりようもない個性的な人も多いですが笑)ひとりひとりをちゃんと描こうとしててすごいですよね。王家に限らず、本当に登場人物の多い大河で、一般的にはそれがネックにもなっているんでしょうが、ずっと見てると、誰一人として「捨てキャラ」がいなくて、キャスティングにもキャラクター造形にもものすごく力をかけているなあと感じます。

・とりあえず、今回の最後で、松雪さん<清盛 と遊び相手の序列を変更した後白河帝…あらため院。しかし、松雪さんには今後もまだまだ暴れていただかねばね〜。

・そいえば、話はずいぶん戻りますが、万事端正で几帳面な盛国と、万事ええかげんな兎丸だけど、このふたりはなぜか相性いいのよね。今回も大宰府で仲良く席を並べて飲んでました。清盛の子飼いの郎党同士、気が合うのかしら。盛国さん、若干酒乱の気を見せてたこともあったしね。彼と水と油なのは、伊藤忠清なんだよね。忠正さん捕縛のとき、久々にそれを思い出させる描写があって、「お。」と思いました。

・源氏…。もう書くのもつらい…。

・由良ちゃん倒れる。統子内親王さまが優しくて、ううっ(泣)。義朝と結婚する前からの仲だし、以前、夫と舅に挟まれて苦悩する由良ちゃんを励ましてたこともあったし、ここも良き主従なのよね。この人を演じているのはつかこうへいさんの娘で、宝塚の元トップ娘役だとか。ん、愛原美花? あれ、てことは、ラブちゃんと交際したり破局したり、またくっついたりしてる、あの…? ともかく、お化粧といい、声音といいせりふまわしといい、いかにも生まれついてのやんごとなき御方、て感じで素敵です。今後もちょいちょい出てくれることを望みます。同母弟たる後白河と絡むシーンも見たいな。

・「父の首と引き換えに手にした殿上人の位」と貴族たちに陰口たたかれてる義朝…。由良ちゃんが倒れても、さらに任官を求めることでしか報いることができないと思ってる義朝…。それで邪険にされて、常磐のもとで苦渋の面持ちでこちらの息子たちを抱きしめる義朝…。清盛の、威風堂々たる重厚な黒の衣に比べ、5位の真っ赤な衣が痛々しくさえ映る義朝…。

・落魄っぷりがもう、半端じゃない。快活に馬を駆り、清盛相手に意気揚々とへらず口をたたき、女と見れば襲いかかっていた(一部、記憶が盛られてますw)あのころの義朝はどこへ…(泣)。こちらはこちらで、父の面影ありすぎです。でもね、今、こんなにもけちょんけちょんになってるってことは、逆に、きっとまた、かっこいい姿も見られると思うの。そう、それは、“最後のひと花”ってやつかもしれないけど…(号泣)。

・で、気になるのはやっぱり、頼朝だよね。どうやら、もうすぐ、清盛と頼朝との対面があるみたいなのよ。そこがどういうふうに描かれるのかはむちゃくちゃ興味をそそるよね。初回の冒頭であったように、平氏を滅ぼしつつも清盛を憎んでいない、それどころか崇敬すらしているみたい、それがこのドラマの頼朝だ。対して、一般に、清盛は「葬式なんて出さなくていいからとにかく俺の墓前に頼朝の首を供えよ」と言って死んでいった…と伝えられているわけじゃないですか。相当な恨みってことでしょ。

・まあ、最初は憎しみなんてないよね。清盛は明らかに義朝に対して友情をもっている。今後は平治の乱につながっていくわけだけど、けして憎しみをもって義朝と戦うわけじゃないだろう。まして彼の忘れ形見に憐憫を抱かないはずがない。ま、そういう、いわゆる「かわいさ余って憎さ百倍」的な憎しみが芽生えるのか…でも、今や、藤本有紀の筆に対しては、そんなのの斜め上をいくよね?!て期待してる私。

・それにしても、清盛といえば熱病ってのもお約束。熱病演技。想像するだけですごいことになりそうだ。

・(比較的)軽めの回だったので、感想もあっさりすませようと思ったのに、やっぱりこんなことに…。日ごろの描き込みがすごいから、もう、どこもかしこも餌が撒かれてるようにしか見えないのよ!

*1:おっと、お江戸でござるを馬鹿にしてるわけじゃないですよ。敬愛する杉浦日向子さんの監修のもと、大人気だった番組だ

『リーガル・ハイ』 第9話

録画を見るまでは、twitterでもブログでも、感想などには極力触れないよう心がけているのですが、どうしても眼に入ってしまった各所での「すごい」「すごい」の大絶賛…の第9話を見ましたよ。すごかった! 

たかがテレビドラマ、と思う向きも大勢でしょうが、そんなたかがテレビドラマで、こんなにも胸を震わされる瞬間ってのが、意外とあるわけですよ。近いところでいえば、去年の「それでも、生きてゆく」もそうだったし、「カーネーション」もそうだったし、「清盛」だってすげーとこはいろいろあります。まあもちろん玉石混交ではありますけどね、テレビドラマって意外と、というか、全然、捨てたもんじゃないな、と感じる次第であります。

それにしても「リーガル・ハイ」。「快作」「秀作」を超えて、もはやはっきりと「名作」「傑作」の域に入ったね。9話、驚きの連続でした。

まず、「テレビでここまでやれるのか?!」ってこと。いつも録画で見てるんで見逃しがちだったスポンサー企業を思わず確認しちゃったよ。日産、カネボウ、ドコモ、JAバンク…押しも押されぬ有力企業ばかりですよね。彼らはこの事態を容認してるのね?! このレベルまでセリフで言っちゃっても、スポンサーの圧力って、意外とないもんなんでしょうか。よそでは、作り手が自主規制してるだけなのか。しれっとやっちゃったのか。この枠のスポンサーが話のわかる御尽ぞろいなのか。

次に、あの怖いほど核心に迫った長ぜりふ。

「あなたたちは国に棄てられた民、“棄民”なんです」

この一言だけでも、十分にガツンときたんだけども。

「これがこの国のなれ合いという文化の根深さ」
「大企業に寄生する心優しいダニ」
「今、土を汚され、水を汚され、病に冒され、この土地にだってもはや住めない可能性はあるけれど、でも商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた」
「きっともう問題は起きないんでしょう。だって絆があるから!」

いま日本が抱えている問題を想起せずにはいられないフレーズが、容赦なく並べたてられる。

そして続くアジテーション

「誰にも責任を取らせず、見たくない物を見ず、みんな仲良しで暮らしていけば楽でしょう。しかし、誇りある生き方を取り戻したいのならば、見たくない物を見なくてはならない!」

「深い傷を負う事を覚悟して前に進むしかない! 戦うという事はそういう事だ!」

「金が全てなんですよ! 奪われた物と、踏みにじられた尊厳にふさわしい対価を得る方法は金だけなんだ!」

しみったれたみじめな老人を見てると虫唾が走る、と言い切る古美門だけど、この老人っていうのは比喩表現であって、飼いならされた日本の民すべてを指しているんだろうな、と思う。震災以来の日本について咀嚼したテレビドラマは、山田太一の「キルトの家」や、クドカンの「11人もいる!」などちらほらと出始めているところで、挙げたふたつはどちらも高く評価された。これからも長きにわたっていろいろな作品が続くだろうけど、この「リーガル・ハイ」9話のような切り口での、ここまで突っ込んだ言及は、なかなかないのではなかろうか。

古美門の徹底した拝金主義にもしっかりとした筋を通した。同じく企業側が個人の権利を侵す案件で、第4話では企業側に立った古美門だけど、馴れ合いを糾弾する姿勢が一貫していることといい、手のひら返しに思えないところがまた、脚本のうまさ。

さらに、当然ながら、この長ぜりふをこなした堺雅人の演技力。こなす、なんてもんじゃないですね、まさに鬼気迫るものがありました。あの場に居合わせたら、ガッキーじゃなくても普通に泣けるでしょう。

主演の長ぜりふを組み込むドラマってちょいちょいありますが、ほんとに演技力の差が出るからね…(悪い例が思い浮かんでいるが、挙げるまい)。当然、脚本家は役者を信じてこの恐るべき挑戦状をつきつけているんですが、しっかりと受けて立った。昨夏、やはり視聴者を震撼とさせた大竹しのぶ@「それでも、…」の長ぜりふに引けをとらない演技だった。

言葉を叩きつけ、叫んで、いったん静に転じて、そこからまた徐々に激していく。その緩急。文章の強さに、発する言葉が負けてない。叫ばれ続けるのって、ややもすれば耳をふさぎたくなるような思いに駆られるけど、思わず耳を傾けさせるセリフまわし。ほんとに見事だった…。

そして、最後のすごさは、この大盛り上がりが、最終回ではないということ。コアなドラマファンの間では、「名作がもっとも盛り上がるのは、プレ最終回」という法則もあるんだけど(あるよね?)、なんと、プレ最終回ですらない。これは、古美門と三木の最後の戦いの導入部なんです。三木が仕掛けてきたのを、それとわかって受けて立ったところまでが今回なんです。このあとには、三木との決着、澤地と服部さんの正体、そして、ガッキー黛が古美門を倒すか否か…ってところまで、やるんですよね? おおおお恐ろしいドラマじゃぁぁぁぁ。