『カメ流』 市川亀治郎
- 作者: 市川亀治郎
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
- 発売日: 2008/04
- メディア: 単行本
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いかに亀ちゃんといえど、タレントさんが本業の片手間に書いたエッセイに2,000円って…と思ってたんだよね多分。や、そのころ飲み代いくら使ってたんだよ!?と思うと汗顔の至りだけれども、うん、買ってよかった。しかも、襲名して間もない今は、この本のすごい“読みごろ”でもある。発売当初買って読んでた人にも再読をおすすめしたい。
構成にも文章にもかなり編集者の手が入ってるんだろうし、枝葉をとっぱらって綺麗な形に整えられてはいるんだろうけど、なんだかすごく、亀ちゃんの魅力の核心に触れたような感じがしたのだ。
これまでも折に触れて考えてたこと。「亀ちゃんって、なんでたかが数年間でこんなにも人気が出たんだろう?」
もちろん契機は2007年大河「風林火山」。信玄という人気武将役で二番手として1年間出ずっぱりだったのは大きいけど、その後3年も4年も賞味期限が切れず、生き馬の目を抜く芸能界で、ドラマ・映画・舞台・バラエティとひっきりなしに露出してるってすごい。だって映像での亀ちゃんの演技ってそれほど…ムニャムニャ…だし、「だいこんでもなすでもいいわ、薔薇くわえて立っててくれれば!」てイケメンからも遠いし、インテリ芸能人なんて掃いて捨てるほどいるやんね。
歌舞伎でもどんどん頭角をあらわしていったのは、確かな実力があってこそとはいえ、実際に博多座を見に行っても、客席から亀ちゃんへの歓声・拍手はすごいもので、実力に人気が伴っていることがびんびん感じられた。その人気こそ、みずから猿之助劇団を離れた人が、それからわずか7,8年で猿之助の名跡を襲うことになった原動力ですよね。
じゃあ、その人気の源泉って何だろう? それは彼の“強気”なんじゃないかと、この本を読んであらためて思った。
気魄。(中略)僕はこの力を信じているので、何があっても決してくよくよしないようにしている。(中略)気が充分に満ちれば、時として運をも味方につけてしまう。
「前例」がなければ作ればいい、そう真剣に思っている。
夢を叶えるということは、必ずたどり着く目的地に向かって、それまでの道のりを丁寧に歩いていくことではないだろうか。そして、その道を歩いていく間に何度も夢を果たすための決意のほどを試され続ける。漠然と「こうなったらいいなー」と思う一方で、心のどこかに「叶いっこないなー」っていう疑いを抱いている。これを払拭できない限り、夢は夢で終わってしまう。だけど、僕にとっての夢はその疑いがまったくない。
今日会った僕と、次会うときの僕は、違っている可能性が高い。しかし、人にどう思われようとまったく気にしない。相手が悔しくなるくらい、気にしない。
よく笑い、よく笑う。笑い声は、すべてをプラスに一転させる。
昨日の失敗は悔いず、まだ見えぬ将来の不安を憂えず、今、生きているこの瞬間に一番輝いている自分でありたい。
繰り返し、言葉を変えて畳みかけられるこの強気に、すっかり気分が上がっちゃった。
いつ、いかなるときも、無根拠に思えるほど自信たっぷりな挙動。完ぺきなマイペース。「そこに引いてる人も多いだろうな〜」って思ってた。でもやっぱり、それが亀ちゃんの魅力よね! ここまで本気で強気の人ってそうそういない。しかも、追い風が吹いてるときだけじゃなくて、向かい風でも、雨嵐でも、きっと同じ感じなんだろうなーと思わせるところがある。そのキッパリ感、潔さは、敵を作りそうでもあるんだけど、それはそれでかまわない、とも思ってそうだし。
歌舞伎の家の御曹司っていっても、亀ちゃんは海老蔵や勘太郎みたいとは、生まれも育ちもだいぶ違う。アゲアゲな数年間の間に書かれたエッセイだけど、「真価が問われるのはずっと先だろう」という冷静な認識もある(あとがきより)。とりあえず、この本が出た4年後、彼は猿之助になった。しみじみするね。
慶応大の入試のエピソードとか、香川照之との出会いとか、大河・NINAGAWA十二夜・梅原猛・三谷幸喜など、彼のキャリアを語る上で欠かせないものたちについて1編ずつ割かれているのもファンにはありがたい。猿之助劇団を離れることになった端緒が「亀治郎の会」発足であることはこの本でもわかるけど、そこらへんについては今なお詳細不明だな。ここでは猿之助に勧められて会を始めたと書いてあり、別のところでは自分の意思で始めたように…。
三谷さんのエッセイ「ありふれた毎日」でも書かれていた、三谷さんが亀ちゃんにぴったりだと思っている歴史上の人物。三谷さんのほうでは挙げられてなくてずっと気になってたその人物がわかったよ! 杉田玄白だった。これは面白そう!