水無月の一 / 大坂なおみの力

●6月某日: N事務所、月次ミーティング。執筆。BTSのデビュー8周年を祝う「FESTA」が始まった。これから約2週間にわたって、ほぼ毎日のように何らかの新しい供給(笑)がなされることになっている。ほんと、プロモーションが並じゃない。ちょうどビルボードホット100の初登場1位も記録したのでTLが祭り。FESTA、これを見越して今日から始まったんだろうな‥‥! 

夜ごはんは、麻婆豆腐、白身魚フライ、サラダ。

facebookより)

大坂なおみの「波風立てる能力」ってすごいな。彼女の言動はいつも気づきと議論をもたらす。あまたの日本人選手の場合、「試合後の記者会見に堪えられるコンディションじゃないから」って時点で大会を棄権する人がほとんどなんじゃないかな。
でも大坂なおみは「会見は拒否して大会に出る」というワンステップを挟んだ。

そのことについて、著名な選手たちからは「会見に応じることもテニスのひとつ」という見解も出ている。

そーだそーだ、と虎の威を借るキツネ的にネットで彼女を叩く人らもいるけど、
これは、昨年の全米オープンのボイコットや「黒いマスク」をしての登場のときとまったく同じで、
「んなこたぁ、プロ(しかも一流の)テニス選手である彼女が、私たちの一万倍よくわかってらぃ」
って話なんだよね。そのうえでの、
「選手の心に負担をかけてまで、毎回毎回記者会見するべきなのか?」
という問題提起であって。

いや、特に今回の場合「問題提起してやるぞ」「議論すべき」なんて意気込んだわけではなく、単純に「会見つらい」「ムリ」って状況だったんだろうけど、
前述のとおり、その時点で大会を棄権するのではなく、「でも会見ナシでプレーだけならできるかも」「それが可能になればいいな」という言動をとれるのが彼女なんだよね。

もちろん、そんなことしたら異論反論が起きネットでぎゃーぎゃー言われることだって織り込んだうえでの言動だろう。

先週、選択的夫婦別姓について議論していたときもちょっと話したんだけど、「これ言ったら波風が立つな」と想像できることを、ふつう私たちは避けようとする。面倒だから。議論は大変だし、批判されるのはしいんどいから。

そうやって、前例を踏襲したり、規範に従うほうを選ぶ。んで、疑問を呈する人や、違う言動をとる人を「みんな我慢してるのに」「これが文化だ」「けしからんけしからん」と言い立てる。

でも、もっと長い目で見れば、どんな時代や地域でも、大きなことから小さなことまで、私たちは必ず変化してきた。たった一人の行動から変わったことだって、数えきれないくらいあるだろう。
大坂なおみは、そんな変化を起こせる人なのだ。

プロ選手とメディア(つまり、その背後にいる観客)とのコミュニケーションが大切なのは当然のこと。
私も、試合や演技の “ 直後の ” 選手のメディア対応にはよく注目している。その生々しい言葉や表情は、それぞれの選手やスポーツの本質を見せてくれる。
「でも」
って話なのだ。

白か黒か、ゼロか1かじゃなく、質や程度の問題なのだ。

たとえば、一見、同じしつらえの会見のようでも、男子か女子か、白人か非白人か、「時の人」かどうかで、質問の内容やツッコまれ方が違うことも起こりうるだろう。

黒人だから、若くして成功したから、ミックスだから、という理由で根掘り葉掘り質問されたり、回答を切り取られたり捻じ曲げられたりして報じられたり、きっといろんなことがあっただろう。

また、ネットやSNSが発達した今、会見の映像が出回る量もスピードも昔の比ではない。
それらが、選手にどれだけ負担をかけているとしても、また負担のかかり方が選手によって違うとしても、疑問を呈さず、粛々と続けることだけが正しいのか?
別のやり方や、何らかの工夫があってもいいんじゃないか?
彼女の「会見拒否」によって、そんな論点が提示された。

彼女はもともとコミュニケーションを拒む人ではないから(SNSだってずっとやっている)、心の不調が上向けば、しかるべき時期にもっと説明するだろうし、彼女が示した論点は、テニスやメディアの関係者すべてがあらためて議論する価値のあるものだと私は思う。

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もうひとつ思い出したのは、フィギュアスケートの国際大会。
ショートプログラムが終わったあとに、3位までの3人の選手が並んで記者会見するのが通例だ。
暫定3位を喜んでいる選手もいれば、暫定2位でめちゃくちゃ落ち込んでる選手もいるが、その心理状態を問わず会見は行われる。

見ものは、特にロシアの女子選手で、疲れを隠そうとしなかったり、肘をついたりする子もいて、自由だ。

また、まだ14、5歳の華奢な選手が、記者にクソみたいな質問をされると、まさにクソでも見るような目つきで、たった一言で瞬殺したりする。「ワーオ! そっか、これでいいんだよね」と思ったw

アスリートへの質問は、政治家への質問とは違う。嘘や隠し事を暴いたり、監視することが目的ではない。
真剣勝負の場にいて、世界中にその顔や名前をさらしているアスリートに対して、質問する側にも知性や品位が求められるのは当然のことだと思う。