師走の十一 / 新聞取材
「事前に許可を得て、3歳児を連れて市議会を傍聴した。物音はほとんど立てなかったが、子どもが席を移動し始めたら議長から『ウロウロしないで』と注意され、結局退席した」。福岡県内の女性から特命取材班に困惑の声が寄せられた。地方政治への関心の薄さが課題となる中、子育て世代に気軽に足を運んでもらうためにどんな工夫がされているのか。九州各地の議会の現状を調べてみた。
北九州市議会の議場を見渡せるガラス張りの「特別傍聴室」。一角をカーテンで仕切った授乳スペースにはおむつ替えの台があり、軟らかい素材のマットが敷かれている。壁は防音が施され、議会の審議は室内のスピーカーで聴ける。改修費用は90万円。段差がないため、親子だけでなく高齢者、車椅子利用者も使いやすい。
九州各県・政令市のうち、こうした特別傍聴席を設置しているのは北九州市のほか福岡市と長崎県。福岡市は、ほとんど使われていなかった貴賓室を改修し、2004年度から親子向けに開放。議会事務局によると、18年は17組、19年は10組が利用したという。長崎県は県庁舎移転に合わせて2年前に設置した。
個室設置以外の取り組みもある。福岡県福津市は、傍聴人の託児サービスを10年ほど前から開始。1回300円で、14年以降の利用は6組という。
全国では、東京都町田市や堺市、鳥取県米子市などは親子傍聴室を設置。長野県松本市は無料で保育士に預けられる「議会子ども控室」を設けており、昨年は10人の子どもを預かった。
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一方、福岡県志免町は18年、女性議員からの提案で託児サービス導入を検討したものの、託児室のスペースを庁舎内で確保することが難しいなどの理由で見送った。自宅で本会議などを視聴できるネット配信もなく、担当者は「議場の音響と映像の設備を付け替えるには相当の費用がかかる」と話す。
そもそも小規模自治体では若い世代の傍聴人は珍しく、児童や乳幼児の傍聴に消極的な自治体も少なくない。ある自治体の担当者は「子ども連れの傍聴を想定した施設はニーズが無い」と言い切る。
ネット配信や庁舎内のモニター放映など、議場外でもリアルタイムで審議を見られる取り組みは徐々に広がっている。ただ、子育て世代の議会傍聴イベントを企画する福岡市の40代女性は「政治と自分の暮らしとの距離を近くに感じられたり、寝ている議員が分かったりと、議場での傍聴ならではの良さがある」と強調。その上で「自治体によるばらつきをできる限り解消してほしい」と求める。
福岡県は、議場の構造上「親子傍聴席の新設は困難」としつつ、空き会議室を開放し、保護者が一時退席したりおむつ替えができたりするよう対応している。
専修大の小林弘和教授(地方議会制度)は「特別席の確保などの市民サービスは、子育て世代に限らず車椅子利用者などあらゆる人が議会に出向き、当事者意識を高めるための第一歩になる」と評価する。一方、地域差に関しては「ニーズが無いから配慮が不要と捉えるのではなく、市民と議会が対話するきっかけづくりと考え、各議会で工夫すべきだ」と指摘する。(国崎万智、黒田加那)