吉岡忍さん「なぜ、彼は人を殺したのか」
めちゃすごいインタビューだった。長いけど一読の価値あり。ほんと長いので、備忘のためにいくつかの切り口からエッセンスをまとめたい。
話者はノンフィクション作家。幼女連続誘拐殺人事件(宮崎勤事件)、神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)、オウム事件、秋葉原通り魔事件など数々の凶悪犯罪を「加害者」にこだわって取材している。理解し難い存在を排除せず知ろうとすることが、社会を知ることにつながるからだ。
【歴史の蒸発】
加害者を取材して気づくことの1つが、「歴史の蒸発」。
日本とアメリカが戦争をしたことも、広島に原爆が落ちたことも知らない。
人間は誰でも、グロテスクな妄想をすることもある。
けれど、たとえば戦争のことを知っていれば、
戦争という場におかれた人間がどれだけ残虐になれるか、どんなに悲惨な目に遭うかわかる。
そして、今生きることの命のかけがえのなさもわかってくる。
それが「脳内で考えても実行はしない」ブレーキになるのだが、加害者にはそういう歴史感覚が欠如していて、そのまま事件に突き進んでいってしまう。
オウム真理教の信者もそうだった。
彼らは高学歴。核戦争のことはとてもよく知っていた。
彼らの教義書を読むと、例えば「現在のアメリカやロシアの核の状況」まで書いてある。
しかし、実際に広島や長崎に落とされたときどれだけ悲惨なことが起きたのか、なぜ原爆投下のような事態になったのか、そこにはまったく触れていなかった。
日本で、世界で、戦争において人間がどんな愚かなことをしてきたか、彼らはびっくりするほど知らない。何の関心もない。
学校の先生は、教えたつもり。
親たちは、知っているから子どもに伝えたつもり。
地域は、地域学習やったつもり。
でも、彼らは全然、知らない、理解していない。
100年もたっていない、親たちが生きた時代のことなのに何も知らない。
日本のこの教育力のなさは、想像以上にひどいことになっている。
(以上、まとめ 終わり)
◆
…と、吉岡さんは加害者に限定して語ってるけど、不肖わたくし「子育て世代のための歴史勉強会」主宰者としては、この21世紀、歴史の風化はもっともっと広範囲に及んでいると感じている。
敗戦(終戦)の日はいつですか? 原爆投下はいつですか?
とたずねて、サラッと出てこない人は全然ふつうにいる。たくさんいる。
別に日付が絶対重要ってわけじゃないけど、
戦争を経験した人にとっては、わずか4~50年後に同じ日本に生まれた人たちが「日付すら覚えていない」というのは相当ショックなんじゃないだろーか?
子どもを育ててる親でもそうなのだ。
先生だってそれに近いもんがあるだろう。
これじゃ、子どもたちに伝わらないのは当然だよね。
「中国の脅威が」とか
「9条では国を守れない」
とかいう若い人(子育て世代含めて)もたくさんいる。
確かに安全保障については現実的に考える必要があっても、
戦争の歴史を知ったうえで、そういう勇ましいこと言ってるのかな?
…というと、知らない人がほとんどなのだ。
実際に戦争になったとき、
10代の少年すら戦場に送られたこと、
魚雷にくくりつけられて特攻して死んでいったとか、
フィリピンやミャンマーやガダルカナルのような「どこ?」って場所まで連れていかれて、戦闘以前に飢えや赤痢やマラリアに苦しみ抜いて死んでいったとか
戦後、浮浪児となって駅で餓死したり、丸裸で収容されて人間扱いされなかった子どもたち。
生き延びても何十年も「戦災孤児」とか「被爆者」だという理由で差別されてきた人たちとか。
何百万人もだよ。
それが戦争だ。
「日本の教科書は自虐史観だから~」 とか言ってる場合じゃない。
別に日本人だけがことさら残虐だったわけでもないから、
「自虐史観で自分まで傷ついちゃう~」
みたいなナイーブな人は、
村上春樹の小説(『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』あたり?)なり、
ハンナ・アーレント『全体主義の起源』なり、
フランクルの『夜と霧』なり、
他にもいろいろあるよね、
読んだり見たりしてみるといいんじゃないだろーか。
無知や無関心、傷つかないための都合いい解釈、、、そういう空気がどんな悲惨な結果を生むかわかる。
(あ、お願いだから『永遠のゼロ』とかで歴史を学んだ気にはならないでくださいね。あれはどこまでもカジュアルなエンタメだから。)
余力があれば他の切り口からもまとめたい。