小沢健二 『フクロウの声が聞こえる』 複雑な世界はシンプルに美しい

小沢健二『フクロウの声が聞こえる』。
たくさんの人に聞いてほしいなあ。って思う曲。
ミュージックステーションでのライブ、見ました? 泣いちゃったよ。

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「晩ごはんのあと パパが散歩に行こうって言い出すと・・・」

と始まる、この歌。
パパの提案に子どもたちは1も2もなく賛成して、出かける。

そこは夜の世界。
フクロウの声が聞こえる。
大きな魚が水音を立てる。

昼間とは違う、ちょっと不思議で怖い世界。

でも、この歌の子どもたちは、全然怖がってない。
夜のお散歩が大好き。
“枯葉と枝を飲み込む沼” を「チョコレートスープ」と呼んでいる。

パパと一緒だから怖くないんだよね。

フクロウや魚たち、プラタナスの木や暗い沼とともに、
轟音を立てるエンジンや、真空管を燃やすギターも歌われる。
それらに否定的なニュアンスはない。

海や、雨や、緑を、宇宙を感じながら、都市で生きる。
意思をもって言葉を使い、
ただただ楽しく歌を歌う。踊る。
それが、小沢健二の世界だ。
矛盾はないのだ。

飛行機のことを、「天を縫い合わせている」と歌う。その姿が美しい、と。
なんてすてきな感性。
そんな感性や想像力をもてるのが、人間のすばらしさだなって思う。

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思えば彼は、これまで一貫して、世界の美しさを歌ってきた。

真珠色の雲が 散らばってる空に 
誰か放した風船が飛んでゆく 

月が輝く夜空が待ってる夕べさ 
突然 ほんのちょっと誰かに会いたくなるのさ

左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる
僕は思う! この瞬間は続くと! いつまでも

そしてうっとりとブルース かなり切ないブルース
部屋片づけたら さあ ちょっとだけ踊ろう

長いあいだ沈思黙考したあと、おもむろに語りだした若者が、
恋のすばらしさ、仲間とのパーティーの楽しさを高らかに歌って、
やがて商業主義に嫌気がさして去っていったのだけれど、
長い時を経て戻ってきた、「間違いに気づいて」(『流動体について』)。

世界は美しいものだと思えること。
その中にいる「僕」を肯定できること。
繊細で迷いのない言葉の選び方。
そんな感性を育てたのは、きっと、親を始め周りの人々だったんじゃないかと思う。

父親の小澤俊夫はドイツのメルヘンが専門で、ほかに洋の東西を問わず昔話に造詣が深い。

昔話のすばらしさについて、

「“人が育つとはどういうことか”を描く人間の集合知」
「ルール違反や人間の未熟さを大目に見る、ゆったりとした人生観」
と語っていた。

小澤さんの著作や講演からは、現代の気ぜわしい成果主義や、厳しい自己責任とは真逆のものを大切にして、子どもを育てたふしが見受けられる。

 息子の好きな絵本を(それはたとえば『おおきなかぶ』)、何か月でも、何百回でも繰り返し読んであげたと言っていた。

 自分もまた父親になった小沢健二がいま詩に書く「世界」は、
より大きく、より複雑、なのにシンプルに見える。

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「いつか本当と虚構が一緒にある世界へ」
「いつか混沌と秩序が一緒にある世界へ」
「いつか絶望と希望が一緒にある世界へ」
「いつか孤高と共働が一緒にある世界へ」
「ベーコンといちごジャムが一緒にある世界へ」

繰り返される対立概念。
世界が複雑だなんて当たり前のことだよ。と言ってるみたい。
複雑な世界はこんなに美しくて楽しいよ、と。

「いつか○○な世界へ」
というのは、

●いつかそんな世界になったらいいな

とも解釈できるのだけれど、
この歌に出てくる子どもたち・・・
今は、お父さんに守られながら夜のチョコレートスープの沼まで歩く子どもたちが、

●いつかそんな世界にひとりで踏み出していく

とも、とれる。

希望だけじゃなく絶望もあり、秩序だけでなく混沌もある世界。
でも、「そんな世界は怖くないよ」と言っている。

ちゃんと食べて寝て、泣く夜はクマさんを持って寝ればいい。
僕たちは(君たちは)宇宙にだって祝福されているから。
塩味のベーコンも甘いジャムも、どっちも美味しいんだからと。

複雑で矛盾した世界が子どもたちを待っている。
いつか、

『「はじまり、はじまり」と扉が開く』

その高音を、高らかに歌いあげる小沢健二を見よ!!

ものすごい声量があるわけでも澄んだ声でもなく、
あるいは魅力的な嗄れ声でもない49歳が、

そんなの、ものともせずに、
一片のかげりも疑いもなく、
出し惜しみしないで、
思いきり大きく、明るく、歌うのだよ!

その圧倒的な肯定感! 幸福感! 
扉の向こうの世界へ進みゆく子どもたちへの留保ない祝福!

マイクを持たない方の右手から、目に見えない何かがウォンウォン出てるよ。
この “右手から底知れないパワーが出る” のは、小澤家のDNAなんだろうかw

とにかく小沢くんが楽しそうなんだよ。
一緒に歌ってくれるSEKAI NO OWARI さんも楽しそうなんだけど、まぁ、えらい年の離れた、かつてえらい売れたアーティストが作った今日だしさ、とても慎重に、一言一言確かめるように歌うんだけど。
49歳、めっちゃ元気。
“てらいがない”って、こういうこと言うんだなっていう無邪気さ(笑)。

その姿が、なんだか、とても笑えて、泣ける。

相変わらず自分がやりたいことやりたいようにやるんだね・・・って感じでもあるし、
インタビューやなんかで、ずーーーーっと年下のSEKAIさんたちを「心底すばらしい」と留保なく褒め称えてるのは全然お世辞じゃないんだな、って信頼感も伝わる。

SEKAIさんたちは、レコーディングでも楽しそうな小沢くんにびっくりしたんだって。
自分たちにとってレコーディングといえば、あーでもないこーでもないと眉根を寄せてうんうん唸る場なのに、小沢くんはすっごく楽しそうで、ちっとも座ってないで、イェーイ♪ って踊ってるんだってw おっさんwww

そういうふうに作られた1曲だなあって思うし、
そういうふうに作られたってことがうれしいんだよね。

「希望も絶望もある世界」は絶望じゃなくて希望なんだと思える。

●追記1: 

息子もこの歌を気に入って、Mステを一緒に何回・・・いや何十回リピートしたでしょうか。

彼はハイになると歌詞に合わせて歌詞を表現して踊る。フクロウの真似をし、魚が跳ねる動きをし、ギターを弾き、食べて寝て、クワッと強そうな怪物をなぎ倒して前進する。「天を縫い合わす飛行機」も、ちゃんと、「手を挙げて空を表現→ちくちく針を動かす→翼を広げ飛行機の真似」とやりますw 

でも、「絶望」とか「混沌」とか「慈悲」とか、「孤高と協働」とか、もちろん小1にはわかんない抽象的な語彙もたくさんあって、その意味がとても気になるみたいで、尋ねてくる。まだ辞書も引けないので、ごく簡単にイメージを教えた。「へえっ」て感じで納得してた。彼なりにこの歌の世界観をとらえてるんだろう。

●追記2: 
1993年発表のソロ・1stアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』に収録された「ローラースケート・パーク」にこんな歌詞がある。

ありとあらゆる種類の言葉を知って
何も言えなくなるなんて
そんなバカなあやまちはしないのさ! 

当時の小沢くん、24歳くらい。本質を突いてるよな、ってあらためて驚く。

野球やサッカーで応援してるチーム然り、
支持政党然り、
子育ての方法然り、
大人になればなるほど、いろんな人がいていろんな考えがあって、
「人前で下手なこと言わんどこ」
って思うようになる。

波風立たないように。出る杭になって打たれないように。

でも、「何も言えなくなるのはバカな過ち」なんだって。
その断言が若さってもんかもしれないけど、2017年、どこもかしこも分断されつつある世界で、響く言葉だなあ。

●追記3:
ジャケットの絵がすばらしい。松本大洋によるもの。

●追記4: 
NHK「SONGS」もすばらしかった。
『シナモン(都市と家庭)』は大人のかわいらしさだし、
モノローグ朗読もよかった!
スタッフに教えてほしいといわれたことを、インタビューや対談でなく朗読で語るアーティスト! 前代未聞では?(笑)
しかし軽みがあって、小1息子もよく聞いてた。

↓ 以前、【Life is mine】に寄稿したものです

lifeismine.me