『現代の地政学』 佐藤優

 

現代の地政学 (犀の教室)

現代の地政学 (犀の教室)

 

 

『恐怖の地政学』 を読んで面白かったので、地政学についてもっと読んでみたいなー、前のはアメリカ人の著作なので今度は日本人が書いたものがいいな、と検索して出てきたこちらを購入。

面白かった。講義形式ですすめられるので、読みやすいっちゃ読みやすい。でもこれ受講生はどんな人たちなんでしょう(笑)。この講義をするっとまるっと理解できるには地理や歴史(日本史・世界史両方)、政治経済、その他、各種の学術的な素養が必要だなと思う。私は、はー、ほへーって感じで口開けて聞いてる(読んでる)みたいな箇所もしばしば。でもそれを含めて面白かった。自分に足りないものがわかるしね。とりあえず、やっぱり山川出版社から出てる大人のための世界史の本を読むことを2学期の目標にしたい。

で、そういった基礎的知識が不足していても、さまざまな小ネタが楽しめるのがこの本である。

たとえば、領海とか排他的経済水域といった言葉はニュースでもよく見るし何となくわかってるけど、その線を実際にどうやって引いているのか? 

領海って、一年で一番高潮になったときに海面に出ている地面の線から測るんですって。本州だの九州だの大きな島だけじゃなく、もちろん小さな島からも領海を数える。だけど岩や暗礁は除外される。

じゃあ、島と岩の区別は? 日本最南端の島、沖ノ鳥島は現状、本当に「島」なのか?

なんて話が、中国の人工島問題と絡めて示される。何が正で何が偽か、何が善で何が悪かという単純な話ではない。さまざまな現象現実に対してできるだけ整合性・連続性のある理屈付けをして国益を得ていくのが政治なんだなと思わされる。それは会社員時代の企業経営でも感じていたことで、だからといって上の地位にある者が冷酷だったり非道だったりして良いという言い訳にはならないけど、そういう「土俵」にまったく無知・無関心なままでは議論や提言も分断されたままだよなと思ったりする。

何とか頑張って読んでいると、この人が唱える「海洋国家」「ハートランド」の話は何となく見えてくる。日本史についても、衒学的とまではいかなくてもなかなか独自の認識を感じるところもあるので、何から何まで鵜呑みにするのはちょっと危険かなとも思うけど、「自分の言説は独自ですよ」という雰囲気をちゃんと出しているので逆に誠実なのかも、とか。

日本軍は日露戦争(1904)からノモンハン戦争(1939)まで実戦から遠ざかっていた、だからその34年間の間に軍人は官僚化し、書類づくりや図上演習、派閥運営に長けた人が評価されるようになっていた。企画立案も、実行も、評価するのも自分たち(軍人)。だから評価は成功か大成功かしかない。これは現代の日本外交と同じで、外務官僚が企画立案し、実行し、自分たちで評価する。自分が現役だったころは、自民党の政治家はもっとしっかりしていて、官僚の仕事を評価するのは政治家と世論、そしてマスコミだった。今は「機密だから」といって事前に目標も言わない。終わってから「こういう目標を想定していて、それはすべて達成した」と言う。・・・・・って話、なんか、納得してしまう。