『社会の抜け道』 古市憲寿、國分功一郎

 

社会の抜け道

社会の抜け道

 

 

約3年ぶりに再読。あれからテレビ出演等でネットではすっかり悪名高くなった古市氏ですが(笑)、この本は気軽に手に取ってみる価値あると思います。

社会学者の古市憲寿と、哲学者・國分功一郎による対談形式で進んでいく。とても示唆的なのですね。日常の中で、「これってどうなの?」「心配だなあ」と思うこと。あるいは、「全然意識したことなかったけど、言われてみれば…」と思うこと。そんないろいろが散りばめられている。専門書ではないので議論を突き詰めていくわけではないんだけど、考えるきっかけを与えてくれる。(学者や文献についてはフットノートの形でそれなりに紹介されています)

3年前にこの本で読んでからというもの、物事を見るとき考えるとき、いつも心に留めていることがいくつかあります。

國分: 一見ものがあふれているように見える消費社会では、知恵が奪いとられちゃう。自分で探さなくなる。だから、みんなつまらなさそうにしている。で、つまらさなさそうにするからどんどん商品が投げ込まれるんだけど、結局のところは、もっとつまらなくなってしまう。
古市: 永遠に満足しないサイクルに組み込まれてしまうわけですね。
國分: 消費社会の根底には、消費と不満足の悪循環があると思うね。

 

國分:うまく遊べないときに、人は退屈する。だから、うまく遊べなかったり、楽しめなかったりすると、人は外から仕事や課題を与えられることを求めるようになる。自ら自由を捨てて、何かに従いたくなる。人間が従属へと向かう契機のひとつには、自分で楽しめないということがあると思う。自分で楽しめないと退屈してしまうから、外から仕事を与えられた方が楽だという気持ちになるんだよ。だから俺は、人はきちんと遊べるようになる必要があると思ってる。小さいときからとにかく遊ぶことが大切だと思うね。それができていないと、隷従したがる人間ができあがってしまう。

 

主体的であることの大切さ。受け身な姿勢が集合すると、大企業とか国家とか、「人々をこう誘導したい」という企図に乗せられやすくなる危険があるということ。

國分:自由とは選択肢が多いこととはまったく違うし、そもそも、用意された選択肢が十分なのかどうか検討しなければならない。

國分:議論を二項対立にもっていくと絶対に答えは出ない。けれど問題についての情報をたくさん仕入れて知識を増やしていくと、二項対立は消えていく。その対立で隠されていた真の論点が見えてくる。

 

「二項対立の罠の克服の仕方」が鮮やかに示されていて、私これを読んだときすごく希望を感じたんだよなあ。

 

それから3年、現実には世界の分断はさらに進んでいってるけれど、「二項対立の問題じゃないよ」「第三の道を見つけよう」という論調もあちこちで見るし、テレビドラマにもそういった機運を感じます。やはりこれしかないんだと思う。

この本のタイトル「社会の抜け道」も、そういう意味だ。抜け道って言葉はどうにもちょっとネガティブイメージだけどね。オルタナティブを探そうということ。もっとも願ってはいけないのは革命だという。「反革命」の思想をこの本は書いている。世の中をガラッと変えたい、新しい政治家に諸悪の根源を倒してもらいたい。人はそう願ってしまいがちだけれどそれは思考停止なんだということ。

「社会はちょっとずつしか変わらない。」

そのためには、市民の成熟が必要なんである。本当に解決しなきゃいけない細かな具体的問題から目を背けず、現実的解決を探っていける成熟。

以下、目次を列挙。

1.IKEAコストコに行ってみた
2.「暮らしの実験室」の幸福論
3.デモと遊びと民主主義のアップデートされた関係性
4.人類史的重要プロジェクト 保育園の話
5.理想社会と食の問題
6.僕たちの「反革命


身近な問題ばかり。2人のスタンスは必ずしも一致しているわけではない。たとえば食事についても、自炊が好きな國分に対し、古市は食事は空腹がみたされれば何でもいい、というタイプ。國分には子どもがありしかもシングルファーザーの経験もあり、古市は独身で子どもの可愛さがあまりわからないという。でも、だからこそ偏らず、議論が一面的にならないところがある。現場に足を運んで語り合う、というのも良い。

2人は学者ではあるけど、1人の市民としての生活環境の面から語ってる部分も多い。私たちだってそんなふうに、特別に構えずに、結論を性急に求めるわけでなく、何となく話の俎上に乗せていいんだと思う。