スーパー歌舞伎II 『ワンピース』 @博多座 その4 亀ちゃん空前の当たり役、みんなのワンピース

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スーパー歌舞伎II 『ワンピース』 @博多座 その1 やっぱ歌舞伎すごい!歌舞伎役者すごい!大好き! - moonshine

スーパー歌舞伎II 『ワンピース』 @博多座 その2 ボン・クレーとサディちゃんにメロメロ(死語 - moonshine

スーパー歌舞伎II 『ワンピース』 @博多座 その3 怪演イワンコフ、平岳・セクシー・エースなど! - moonshine

 

そんなエースさんを一心に慕う亀ちゃんルフィーですが・・・おっとその前にあと2役のこと書いとこう。

3幕のラスト近くに出て来る赤髪のシャンクス。わずか1場面の出番だったが、ルフィーの子ども時代に麦わらを渡した重要人物らしい。びっくらこいたわよ。私、この亀ちゃんシャンクスに、不覚にも(?)ときめいてしまったのだ! それまで、かわいいルフィーと面白いハンコックに腹を抱えて笑っていたというのに。それ以前に、私、亀ちゃんの演じるキャラをかっこいいと思ったの初めてかもしんないよ! ワンピース歌舞伎にもし続編があったら、シャンクスはぜひぜひ掘り下げてほしーい。

ハンコック。これはもう、亀ちゃんが演じるのは大納得でした。1幕の見せ場のひとつでもある「ルフィーとの早変わり」シーンのためのハンコック・・・なんてもんじゃない! 今回、さまざまな役を作り若手や客演役者に惜しげもなく活躍の場を与えた亀ちゃんだけど、ハンコックだけは譲れなかったのねーそんな亀ちゃんが好きよーと思うわたくし。

女だけの島アマゾン・リリーに君臨する絶世の美女(なのですよ!なのだったら、なのですよ!)、ハンコック。島の皆の崇敬を集め、それどころか彼女の眼差しひとつでバタバタ倒れちゃう女が続出するんである。そんなハンコックを、権高く、でもユーモラスに、かつ無垢に可愛らしく(本当です!)見せて、真っ赤に燃え上がる恋の炎で小林幸子もびっくりの巨大化(笑)。あれ、東京公演ではなかったとあとで聞いたけど、じゃあ東京ではどうやってたんだ?ってぐらい必須な演出に見えた。謎の説得力があったよ(笑)。

そしてルフィー。私は今回ほんとにびっくりしたのが、

ルフィーは亀ちゃんのハマり役だっ!

てことですよ。原作は知らないから、マンガ「ワンピース」でなく、このスーパー歌舞伎の、白塗りルフィーってことだけど。いや最初のほうは「しかしなぜ・・・かなりビジュアル的に原作に寄せてるキャラクターもいるのに、エースはこんなに濃いドーラン塗ってワイルドなのに、なぜルフィーは真っ白なのだ」という思いは否めなかったけどw

クイズ番組に出まくったりBSで京都の番組やったりしてるように、亀ちゃんが秀才肌であることは歌舞伎界を超えた周知の事実なんですよ。20代にして哲学者と一緒に著書を出したりもしてるんですよ。そんな研究熱心さやインテリぶりは、芸に生かされもするけれど諸刃の剣でもあって、「頭で考えた芝居」だという批判も無きにしも非ずだと思う。実際、亀ちゃんの源九郎狐はすごくかわいいけど泣けない(笑)。歌舞伎って親子や夫婦、主従の情を描く演目も多いので、怜悧な亀ちゃんには、ちょっと不利・・・な気もするのだ。いかに、「型」を極めて泣かせるのが伝統芸能とは言っても、本人の知性がどうしてもにじんじゃうのよね。

そこでルフィー。知性とはまるきり無縁の人です。むしろおバカ寄りです。「仲間が大事」「エースを助ける」「海賊王に、俺はなる!」 彼はこの3つでできています。だから、言動に何の逡巡もありません。セリフの応酬ではほとんどが相手のセリフにかぶせ気味で、おしなべて早口です。あまり滑舌がすばらしいほうでもないので(苦笑)軽く聞き取りづらかったりもしますw 

この、計算とか思案とかからは程遠く、言動に逡巡というものがまったくない、単純な原理で動く気ぜわしい少年が、亀ちゃんにはとてもぴったりだったのです。そうだ、亀ちゃんはそういう人でもあった!そこが魅力なのだ!! と目を見開かされました。

かつて、著書『カメ流!』の感想を読み返してみた。

http://emitemit.hatenablog.com/entry/20121030/1351600053


いつ、いかなるときも、無根拠に思えるほど自信たっぷりな挙動。完ぺきなマイペース。(中略)やっぱり、それが亀ちゃんの魅力よね! ここまで本気で強気の人ってそうそういない。しかも、追い風が吹いてるときだけじゃなくて、向かい風でも、雨嵐でも、きっと同じ感じなんだろうなーと思わせるところがある。そのキッパリ感、潔さは、敵を作りそうでもあるんだけど、それはそれでかまわない、とも思ってそうだし。

 

これ、まんまルフィーやん。

インテリが高じて学者さんみたいになるんじゃなくて、メーター振り切れちゃうのが亀ちゃんなのだった。俺は何でも知ってる、人並み以上に何でもできる、名家出身じゃないのがナンボのもんじゃい、俺スゲー! 周りにどう思われても関係ない!

って亀ちゃんの稀有な資質は、これまでやったどんな役よりも、ルフィーによく添っているのだった。

エースの死後、本気で落ち込むルフィーの姿なんて、むしろ違和感あったぐらい(笑)。亀ちゃんは落ち込まないもん(という姿を見せ続けている人である)。

いやー、よく掘り当てたよ、ルフィーを!!

そして冒頭にも書いたけど、このワンピースはものすごい群像劇だった。原作がそうだとはいっても、長い物語をわずか3時間で見せるんだから切り口ややり方によってはどうにでもできるわけで、その可能性の中で、「亀ちゃんルフィーを最大限に見せる」のが歌舞伎の、そしてスーパー歌舞伎の定石なのだ。歌舞伎はスターを見るものだから。三代目が始めたスーパー歌舞伎は猿之助ショーだったのだから。そして亀ちゃんは今の澤瀉屋一門で、そして今回の座組の中で圧倒的な人気を誇ってる。

だけど四代目猿之助でありスーパー歌舞伎の演出家でもある亀ちゃんは、ボン・クレーやらイナズマやらサディーちゃんやらイワンコフやらにものすごい見せ場を与え、とびきりかっこよくてみんなが惚れちゃうエースを配し、かなり細かいキャラまでかなり拾ってた。「ひとりじゃ何もできない」とルフィーが言うとき、それが亀ちゃんの言葉のように聞こえて泣けた。

そりゃあ、凄まじい本水のあと、亀ちゃんの宙乗り(波乗り)で客席が総立ち、喝采になるんだけれども。あのピースフルな祝祭感は、それまでの周りの盛り上げがあってこそだと思う。亀ちゃんの宙乗りにキャーキャーいってるわけじゃなく、「みんなで作ってる舞台なんだ、私たちも含めて」っていう意識が客席まで共有されてた盛り上がりだと思った。四代目が行くのは、この海なんだ。みんなで漕ぎ出して渡っていくんだ。若手も重鎮も目立たせて、歌舞伎じゃないとこで知り合った役者たちも呼んできて、男前とイチャイチャして(笑)、こういう舞台を作っていくんだー!

ってのが、あの場にいると、言葉にするまでもなく、圧倒的に伝わってきた。なんかものすごく新しくて楽しいことに立ち会ってた感じがすごかった。だからワンピース歌舞伎ってあんなに盛り上がったんだと思います。初演のヤマトタケルもこんな感じだったんだろうか。それはスーパー歌舞伎にふさわしい、けれんと熱狂。

先述した『カメ流』にあった、亀ちゃんの言葉。

昨日の失敗は悔いず、まだ見えぬ将来の不安を憂えず、今、生きているこの瞬間に一番輝いている自分でありたい。

 そういう舞台だったんだよ。みんなの「ワンピース」で、そしてやっぱり亀ちゃんの「ワンピース」だった。