『真田丸』 第8話 「調略」

f:id:emitemit:20160111201544j:plain

 




そらもうやっぱり、調略しかも春日信達ってのが前週ラストで示されただけにね、今回はハード展開ダーティーモードに待ったなしなので、ドキドキしますわな!

しかしまずは徳川さんちを見てみましょう。。先週出なくて淋しかった視聴者の心を読んでるかのような、冒頭からの徳川パートです。いやーここでほっこりしとかないと、今日は厳しいからね。家康さん、爪噛むというか歯に爪を立ててるレベルですなw 



ついでに娘っ子たちの様子も見てみましょう。チャッチャと済ましとかないと今日はそれどころじゃなくなりますし、徳川さんちでほっこりしたあとでイライラ指数も抑えめにしようという視聴者への配慮ですねw 

視聴者の半分くらいは「帰り道で遭難してくれてもry」と思ってそうですが、きりちゃんはちゃんと木曽から無事に帰ってきてます。そしてまずやることは梅ちゃんへのマウンティングw せずにはいられないんですねw 「おひさしぶり」は、こんなふうにきりちゃん目線で回想されるがためのシーンだったのねー。回想すればするほど、回想の中の信繁の目の輝きが増してくるのが恋なんですよね。

梅ちゃんは「いろいろあったんですねー(棒) よかったですねー(棒)」と、(棒)のお手本のようなリアクション。きりが去ると「やってらんねーわ、ふう」て感じで斧をガコン、とやるのもむべなるかなですけど、いっつも思うんですが、梅ちゃんの不穏な感じを黒木華がさすがの巧さでタメにタメてますよね。

「けなげだけど」「信繁への寄り添い方うまいけど」「なんか爆発したらすごそう」「腹に黒いものありそう」な感じ。もちろんそこが梅ちゃんの魅力でもあるし、決して悪い子じゃないんだろうと思います。きりちゃんも梅ちゃんも同じようにフラットに描かれてると。

作兵衛も出陣していきます。具足も武器も自前なんだってのがわかりますね。昌幸の朝令暮改によって作兵衛が混乱しているのも百姓侍あるあるっぽいし、そこで「敵は上杉」とわかっている梅の賢さも表現していて、本当に無駄のない脚本です。兄がいない間、梅はこの家に一人。不安でしょうね。梅はそうやって生きてきたのですよね。信繁やきりが隔てなく接していても、「身分が違う」(by 高梨内記)のがこの世界の実状なのです。

氏政&氏直親子が本格登場。初回から「おっ、きたな」と歴史好きをニヤリとさせた汁かけ飯ネタを、「食べる分だけ少しずつ」というオリジナル解釈で見せる。「そのネタ知ってるけどど直球で使ったりしないもんね」という三谷さんの矜持ですな。



氏政の造形がめっちゃいいです。これまでの顔見せから予想してた以上に拗らせていた氏直と、ここの父子関係も楽しみ。“ご隠居さまのおなり”の仕方、すごくよかったー。武装集団の中で一人だけ普段着で、「やあやあ」と手を挙げて登場、「そのまま、そのまま」と磊落に。昌幸の名を聞くと大げさに喜んで見せるも、海津城処遇に一筆乞われると、「こやつ油断ならん」的に一瞬スッと目が怖くなるのがさすがだった。でも、ちゃんと腹芸を続ける。「真田?大して知らぬよ」 氏政は息子をけん制するために昌幸を利用した。互いに互いの利のために利用し合う、もちろん戦国乱世だから先鋭化してるとはいえ、いつの世もそうですよね人間って。




春日の調略は若干、手間取っています。初めての仕事に精一杯のぞむ信繁と、豊かな経験値を思わせる怜悧さで事を運ぶ信尹とのコンビ、そして春日の揺れ動く心情が、コンパクトながらも丁寧に描写されていて唸りました。割と単刀直入に裏切りをおすすめする信尹。春日が怒って出て行っても「芽はある。その気がないなら逆に話を受けたふりをする」うーん、道理! そして最初だからこそ、「絶対に反論の余地のない論で固めなきゃ」と思っちゃって理詰めでいって失敗する信繁。見ててすごく飲みこみやすい展開。



そう、もちろんここでも「父と息子」「滅んでしまった武田」の話になるわけです。春日には春日の苦労や悲しみがあるのですよね。それですっかりほだされる信繁。一方、待てなくなった昌幸は前述、サッサと北条に出仕したもんですから越後では信尹が責められてます。



景勝に問われ、叔父に倣って大嘘をついた信繁ですが、心は春日どのの悲しみに共鳴。調略とはいえ、生身の人間と人間が濃ゆく相対していれば、情が移ったりほだされたりしてミイラ取りがミイラになるのも想像できますね。

「武田の遺臣の誇りを胸に、父が沼田と岩櫃を取り戻したようにあなたも海津城を!」信繁、めっちゃマジです。この誠心誠意の言葉が春日の心を揺り動かすというすごい皮肉。その結末は、計画通り、春日の始末です。磔は、予告で映った信繁が見上げるカットだけで表すかと思ったら、思いきり正面から何度も映してけっこうびっくりしました。屋敷Pが率先してこれを提案するわきゃーないと思うので、三谷さんの意向だと思います。20世紀大河レベルの残酷描写ですね。

昌幸と信尹の「皆まで言わずとも」なツーカー具合に痺れる。信繁が越後に来て「手伝わせてください!」と言ったとき(希望に燃える信繁くんが、叔父上と膝つきあわせる近さでキラキラと頼み込むのが切ないw)、「兄上も妙なことを考えるなあ」と戸惑っていた。けれど兄が決めたことならそこに意味があるのだろうと、このダークな仕事を最後まで見せようと躊躇なく決めたんだろう。北条の陣へ赴く昌幸は、調略が遅れているのは十中八九信繁に起因していると読んでいたのでは。それでも信尹がいるのだから必ず成功すると確信している。昌幸兄弟がこれまで共にやってきたきた仕事の質量が想像できるよなあ。





信繁・信幸の兄弟はもちろん「真田丸」の基軸のひとつなんだけど、その前世代として父昌幸とその弟信尹の関係もこうして描かれているのが重層的だなあと思う。





景勝の「人の心はわからないものだな」が、難しくない、とてもわかりやすい言葉・感想なのに、とても深く機能しているなと思った。景勝の純粋な悲しみが信繁の心に沁みると同時に、景勝にはわからない春日の心・・・海津城をどうしても取り戻したかった気持ちを信繁は知っている。でもそれを利用して調略し、結局は葬ってしまった良心の呵責もある。そして信繁自身、今、「昌幸や信尹の心がわからない」と思っているから、景勝の言葉へのシンクロもある。

ち・な・み・に兼続さん。



いずれ信繁が上杉に人質に行ったときの反応が今から楽しみやw 傷ついた子犬の目をする景勝&冷たーく罵る兼続のコンボお願いしますw 兼続も、これほど出番が短いのにキャラが立ってるから、上杉人質編では今のイメージを補強するだけじゃなく、斜め上いく何かも出してくるんだろうなー。

父と叔父の企みの全貌を悟った信繁が、ショックを受けつつも泣いたりわめいたりしないのが本当に見やすい。ショックを受けた表現として泣いたりわめいたりさせる大河が多すぎて・・・。三谷さんは厳しいところはしっかり厳しく描いても、これまで安易に泣かせてないところがほんとにすばらしいと思う。だからこそ、いつか信繁や信幸が泣くときは名場面になるだろうな。



信幸の左ひざと信繁の右ひざがぴったりくっつくくらいに密着して、硬い表情と姿勢で座ってる兄弟がなんか、こんなときなのに可笑しくて(笑)。そして、上座の父上との距離感な! もそっと寄れよ、てぐらい遠くて。昌幸の「ひとっ風呂浴びてきた」設定、顔にまだ汗かいてる演出もすばらしい。(息子たちから見たら)これだけのことをしといて、堂々と、ワイルドに生きてる感じがすごく出る。



この陰鬱なエピソードの果てにカタルシスを持ってきたのが本当にすごくて、感動した。北条を退かせ、徳川を封じ、上杉が帰るのはわかっていて、自分たちはしんがりと称して信濃に残る。最初からそれこそを狙っていたのだと。北条も上杉も要らない、ここは自分たちの土地なのだと、高らかに言う。これだよー、これぞ真田の夢、国衆の夢、ちっぽけな私たちの夢だよ! そこで、子どもたちの死んでいた目(笑)も光を取り戻す。

この夢がさー、ただの綺麗ごとじゃなくて、あっちにつくーやっぱりこっちーとふらふらしたり、何の恨みもないピュアな武将を騙し殺したりして、さんざん汚れきったうえでの夢なのが、圧倒的だよね。夢の大きさに相応するリスクをとり汚れる覚悟が要るともいえるし、どうせ綺麗なままじゃ生きられないのが現世なんだから、だったら面白い夢を追い求めようじゃないかともいえる。この一連を通じて、子どもたちはまたひとつ大人の階段をのぼったし、親子の心が通じたところがある。ああ、楽しみ。



そう、もちろん、こんなに首尾よく進んでいくわけはないけど、とにかく転んでもただじゃ起きないのが真田(昌幸)、危うくも力強く、ふてぶてしいのが真田(昌幸)で、息子たちは必死に食らいついていくんだなーと、楽しみ。楽しみ。


あ、今作は丸島さんが考証に入っているのもあって、文書もできる限り考証して作ってるのがうかがえますね。宛名や差出人の書き方、花押などにも様式が感じられます。


 

 

f:id:emitemit:20151204160049j:plain