『真田丸』 第7話 「奪回」

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おばば様かっこええ!の回であった。





真田幸隆の妻にして、信綱・昌輝・昌幸・信尹の母。という「とり」さんの造型がイイ! 前に出るタイプとも、後ろから男性を支える良妻賢母タイプともちょっと違って、彼女自身が安定して確立した強さを持っていて、それが周囲の安心につながる感じ。

とりさんの経歴についての描写は(少なくとも今のところは)ほとんどないのだけれど、「修羅場をくぐってきた感」「さすが昌幸の母」って雰囲気が、脚本にも、草笛さんの芝居にもあふれてるんだよね。描写が少なくても納得できるって、こういうことなのよ(・・・と、個人的に朝ドラに向かって書かせてください。)

お年寄りイコール人格者では決してないけど、本人の資質+年齢を重ねてきたからこその、このおばば様なんだろうなあという描き方が好き。きりのことを「うるさい」と言うのも、本心でもあったろうが、彼女の不安や恐怖感もわかっているし、若い子を逃がしていやりたい気持ちもきっとあったんだろうなと思う。水を言いつけられたきりが部屋を出て行ったあと、ふっと微笑む1コマがとても良かった。なんて余裕で、眼力があるかっこいいおばば様! 信繁のこともじっと見ているんだよね。自信を失くし俯く信繁、きりに絡まれる信繁をじっと見ている。そして静かに判断している。

おばば様の名言「この世はままならぬもの。ままならぬときにいかに振る舞うか」。




そう、ついに大河にキャスティングされた木曽義昌のかわゆさよ(笑)。山の中の野猿感といいますか。そんな木曽でも、滝川一益相手に有利な交渉を行おうというのだから、ちゃんと戦国してるよなあ。

時代劇で人質というと、往々にして「裏切れば殺される」要素しか紹介されないもので、もちろんその側面もあって真田丸でも初回からそこに触れているわけだが、人質が自分たちの道行の安全の担保になったり、場合によっては他者に受け渡すことで交渉をまとめる道具になることも描くのが、いい。

もちろん何にしても非人道的な所業ではある。でもそういう時代だったのは事実。木曽に「わしらのようにちっぽけな国衆には、人質は必要不可欠な存在」的なことを言わせたのは、説明ゼリフだけど良い意味で分かりやすくてよかったと思う。その言葉に説得力を持たせるための、木曽義昌のかわいげのある人物造形でもあった。野卑で粗野で知能の低い人間だから人質を受け取るんじゃなく、彼らもまた生き残るために、当時の社会システムを利用していたのだということ。

それを描いたうえで、でも人脈とか個人の人間性とかの「例外」もあったんだ、て描き方だよね。そして、彼は「大恩ある武田を裏切って」と平手打ちされたけど、そのために自分とこから出してた人質を勝頼に磔に処せられたのだ。裏切ればそうなるのはわかっていても、そのときは一族の生き残りのため、裏切らざるを得なかった。それが分からないおばば様じゃない。でも、平手打ちした。それはマウントポジションとって信繁(と、きり)を逃がすためだよね。

信繁がこの時期、滝川の人質になっていたかどうかは史料から読み取れるような読み取れないような微妙なところのようだが、面白い作劇だった。滝川が、木曽領を通過するため、まずは部下に交渉させるが、うまくいかなければ自らが出馬し手駒を差し出して交渉するのを描くのも面白かった。こういうのが見たいんだよね、戦国武将の実務。


で、滝川の居ぬ間に沼田と岩櫃を奪う昌幸だよね。昌幸にしたら戦国乱世を生き抜くため当然のことをしたまでで、その上さらに彼の裏をかくべく小諸に参上するのだが、滝川はそれを誠意の証と受け取って心から喜んで迎えるばかりか、沼田も岩櫃も返すという。そして信濃を嘉し、「またいつの日か緑深き山々を眺めながら飲もう」ですよ。泣けるじゃないの。心から困惑している昌幸がおかしかった(笑)。

うっとりした顔で「信長が作る、戦が必要でなくなる世」の夢を語っていたピュアなタッキーじゃないのよ、昌幸ったら人物把握間違えたな、とも思うんだけど、昌幸の身になってみれば、大事な沼田と岩櫃を慇懃な笑顔で取り上げられたり、「真田が一番信用ならん」と人質をとられたりしたし、なんたって織田軍屈指の武将なんだから策謀上等の相手とみるのも無理ないよね。滝川の人物造形にも奥行きがあるし、昌幸の策が様々な相手によって様々な結果になるのも面白いなあ。

嘘ばかりつきおってー!と激昂するも、信繁に八つ当たりせず人質という「手駒」の一列に加えただけの冷静な対処は、さすが名将であるわ、滝川さま。

松姉さんの救出失敗からとりあえず立ち直り、その分、燃えていたであろう信繁。小諸城での滝川兵-小諸兵を巧くだまくらかしたかと思いきや、たちまち両者に挟まれ挟殺される流れは、これぞ三谷脚本w 主人公がピンチなのに笑えるっていうねww こういう作家色が、しかも時代劇で見られるのってなんかうれしい。

人質救出に失敗して自分まで人質になるという、かなり格好悪い結果を出した信繁くんであるが、失敗に至るまでの道筋は決しておバカじゃなかったうえ、(のちに昌幸パパも評するように)あまりに面白かったので、視聴者としては「まあまあ、今回はツイてなかったのもあるし、若いときなんて誰だってそんなもんよ、そう落ち込みなさんな」と慰めたくなる。しかしもちろんここは戦国の世、1回の失敗が自分どころか大事な人の命とりになりかねないのは先週で経験済みなので、信繁くんもそりゃ落ち込むんである。そこで、昌幸パパの叱り方がいい。




先週は「良き息子じゃ」。今週は叱責からのアドバイスと、サードチャンスの指令。ということで、ずいぶん優しいパパみたいだけど、信尹の仕事って「暗躍」の類で、決して綺麗な仕事じゃないことも多いよね。でもそれが次男以下の宿命なんだよね。それを知らずに、「尊敬する叔父上と一緒に働ける!」と目をキラキラさせてる信繁の若さ。次週予告も相まってドキドキしますなー。



女性陣の言葉遣いが現代風で気になる、というのは今作に対する指摘だけど、信幸だって「俺は俺でいろいろあったのだ」とか、「いっぱいいっぱいなのだ」とか、大概、現代風な喋り方してますよね。でも私、そんな信幸が好きです。そういう「リアルめな」語彙を使うことによって、真面目一辺倒の信幸のキャラが、ぐっと視聴者に近づいてくる感じがする。三谷さんの言葉のチョイス、好きだなあ。

そして、三谷さんは「関係性萌え」ってのをわかってるよね! 信幸と信繁の、抑制されてるし屈折もなきにしもあらずだけど互いにどこか心のよりどころになってる兄弟関係、いいわー。もちろんこれから関係性も変化していくんだと思う、それも楽しみだわー。

きりちゃんと信繁の関係も私は大好きで、2人の互いにかわいくない掛け合いを楽しく見てるんだけど、「全然面白くない」と言う人もいるんだねー。というか、TLでは「きりウザい」の声が沸点に達していた今回だった。





んー、わからんではないけど・・・。私がきりをうざくないのは、基本的にまさみが好きだってのもあるし、↑でツイートしたような人物造形や心理状態に違和感がないってのも、今はまだまだドラマ序盤で三谷幸喜の脚本を信頼してるってのもあるんだけど、きりのうざさをむしろ好ましく思ってるのかも。

「好きな男は自分のことアウトオブ眼中(死語)」な状況にありながら、親の言うままに奥仕えをし人質に出されながら、そこで汲々としてない。男が喜ぶ言葉も年長者に気に入られる言葉も全然言えないけど、言いたくないことを言ってない。『問題のあるレストラン』ふうにいうと、「心に水着を着てない」。かわいい振舞いできなくても、うざいと言われても、きりちゃんはちゃんと自尊心を保ってる。

その姿がすごくうれしいのは、今の朝ドラがアレだっていうのもありますね、きっと。周囲や社会にやんわり抑圧されてる(そしてそれに気づいてない)みたいな女性キャラを見るよりは、うざいほうがよっぽどマシです。信繁に(ついでに)もらった櫛を大事にしてるきりちゃんかわいいし。「助けようと思った気持ちが大事」の芝居もよかったなあ。真田丸の女性たちは、(あざといわけじゃないんだろうけど何だか天然しっかりちゃっかり者っぽい梅ちゃんも含めて)みんな戦国時代の女だからって男に従順なわけじゃなくてハチャメチャで、気持ちいいです。きりちゃんも、自分で「鬱陶しくてよかった」って言ってりゃ世話ない(笑)。

でね、TL見てると、真田丸とあさ来た、両方見てる人もけっこういて。





なんかすごく興味深いなあって思いましたです。その後、フォロワーさんといろいろやりとりしたりもしました。それもすごく面白かったです。いつか機会があれば思うところまとめていきたいんだけど。

もちろん、真田丸のTL見てると、きりちゃんウザいって言ってる人だけではないです。感覚的には、半々くらいかな。








や、実際、いくら戦国の娘とはいえ、とりあえず武田に従属して平和だった真田の郷で育ってきた10代のきりちゃんが、いきなりおばば様ほか少人数で人質に出され、どことも知れぬところをたらいまわしにされたら、そら怖かろうて。おばば様あたりは、このへらず口をむしろ「見込みがある」ぐらいに思ったのではないかしら? そして今回のおばば様の話を信繁と共に聞いてたのはきっと大きい。信繁の生涯のパートナーとなるきり。波乱の信繁の人生に、いつしか強く、でもきっとずっと鬱陶しく、寄り添うのでしょう。

「最後まであきらめなかった者だけに、道は開ける」。今回、第1話の昌幸と同じことを、とりが言いましたね。それはとりの夫であった幸隆(風林火山の蔵之介さまよ!)か、あるいはそれより前からの真田家の家風のようなものかもしれませんね。今回、まだ7話ではあるけれど回を重ねてきたところで、しかもおばば様が言ったことで、その言葉に励まされる信繁も含めて、なんとも複雑な気持ちになった。

「最後まであきらめなかった者だけに、道は開ける」と言うけど、とりの息子たち(昌幸の兄たち)は長篠で戦死した。同じことを言う昌幸は乱世の成功者にはなれず、信繁は大阪で討ち死にする。きっと、最後まであきらめないのに。あきらめなかったら道がひらけるなんて、いつの世もそんなに単純じゃない。でも人間そうやって生きるしかないし、そうやって生きた人間の魅力を、その生き方の価値を、三谷さんは描いていくんだろうな。あだやおろそかに、こんなカッコいいフレーズを言わせてるんじゃない。

上杉。遠藤さん忙しそうだな、って思っちゃう。滝川さん以上にピュアそうな景勝と、切れ者だけど面白みのかけらもないどころか人望もなさそうな兼続のコンビに、「これじゃ終いには領土減らすよね」って感が強すぎて、それが何ともいえない魅力になってて、早く上杉家の日常が見たいです。その前に北条だね!

 

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