『真田丸』 第5話 「窮地」

 

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楽しい伊賀越えであった・・・って、いの一番に間違った感想言いたくなる(笑)



これね。正しい感想。今日のような回は、三谷さんが大河でもっともやりたいことのひとつなんだろうなと感じる。大きな変事が呼ぶ波紋。電話もメールもない時代の情報伝達。新幹線も飛行機もない時代の長距離移動。歴史の隙間に、人が何を思い、どう動いたか。立体的に、生き生きと描かれている。そう、私も大河ファンとして、こういうものを求めていた!



先週でお別れと思ってた信忠がまたご出演! しかも、悲しくもかっこよい最期。信忠と松姫の悲恋を描いた『おんな風林火山』で歴史に目覚めた小学1年生の私の魂が救われた気がするわ・・・(笑)。そうなんだよね。ここで潔く切腹する信忠と、ボロボロになりながら逃げのびる家康や、どこへ行ってでも生き延びようとする昌幸との違いだよね。そのどちらをも、三谷さんはフラットに見ている。それが三谷さんの言う戦国なんだと思う。

「日本中に名をとどろかせた “親子” が死んだ」。信忠がもうちょっと踏ん張って脱出してたらどうなってたかね・・・っていう歴史好きの気持ちを汲んでくれるナレーションでしたわね。

で、本題(違)の伊賀越えの話に戻るんですが(笑)。




“アナ雪” 呼びもTLですっかり定着した穴山梅雪の描き方、簡にして要を得ていたなあ。伊賀越えの経路が出た時に、すでに離反を考えてる顔だったよね。旧主の武田を裏切った梅雪にとって、家康をだますなど毛ほどの良心の呵責もない。けれどこの離反は家康にも何の否やもない。首尾よく別れたはいいが、その先の展望はなく、運を天に任せるしかなかった梅雪。ナレーションで伝えられる死が、まさにあっけない。

逃げたいけど安全な経路なんてないじゃないかー!と錯乱した家康に、巷説のひとつを思い出して「おっ、ここで『切腹する』って言いだすのかな?」と思いきや、「上京して上様を助ける! もし上様が生きてて、俺が逃げたとわかったら明智より怖いわ」と言い出すのがふっふっふ、だった。そう、この家康は切腹なんて思いもよらない。小心に保身を考え、ただただ生き延びさえすればそれでよい、なのが真田丸の(今のところの)家康。巷間伝わる様々な説の中から、ちゃんとドラマの人物造形にあったものだけをチョイスする脚本がさすが。

で、家康には服部半蔵がついているわけだが、ついてはいるわけだがw 変幻自在、疾風怒濤の技を体得しているらしい佐助に比べ、「全力で押し通る」が唯一の方策である半蔵(笑)。浜谷とはまた、意表をついたキャスティングだ。これでもまだマシな道を案内したのだと解釈しております(笑)。

伊賀越えについても、あったかなかったか、実態はどうだったか、いろんな説があるのだろうけど、「家康は命からがら逃げかえった」「家康、人生最大の危機」って巷説のひとつを見事に体現してくれた。内野さんの演技がイイ!イイ! ここを思いきってコントに振れる脚本もいいよねえ。平時、あれほど煙たがっている本多忠勝と、子犬の兄弟のように飯粒とりあう姿www 生まれるよね、ピンチを乗り越えた仲間との一体感w ・・・と、そこからまた落とす半蔵w 

先週、あれほどの頭のキレと肝の太さを見せつけた家康が、今週はちっとも“できる男”な顔でも雰囲気でもない半蔵に命を預けるしかない、この落差!

いっぽうの、真田の郷。




信幸が聞きかじった京都の薬売りの話にはほとんど反応しなかったくせに、明智の使者が来たら涼しい顔してあの対応なんだから、昌幸! それにしても、信幸に動揺をぶちまけるの、よかったなあ。「頭を下げて城を差し出し、馬までくれてやったのに、なんで死ぬかのう信長!!」まさに偽らざる心境だろうなあ・・・。

昌幸をとことん人間くさく描こうとしているんだなあと感じる。何が起きても柳に風と飄々として、妙案が次々に浮かぶわけじゃないんだよなあ、昌幸。武田が滅亡したときは落ち込んでいた。その後も迷いに迷った。信長にはさすがに気圧されていた。城や領地の召し上げには惨めさをあらわにした。そして今回の動揺。それでも、ひとときの心の嵐が去れば、「何ぞこれしき」「ここからが勝負だ」という気概がむくむくと湧いてくる。「海を見たことがない」なんてホラ吹くのも、内心の昂揚のあらわれだろう。自らの小ささを自覚すればするほど、燃えてくるタイプなんだろう。「それが真田の家風」と矢沢の叔父上も言ってたね。そうやって生きてきたんだろう。

それを、信幸が理解しかけているのがまた、くーっ!とくるんだよね。



「面白くなってきたぞ」と笑んで振り返る父と、顔を合わせず小さく頷いて「はっ」。ちゃんと断ってから「我らは織田についたんだから、その道しかない。自分だって織田贔屓というわけじゃないけど・・・」と自説をぶつも、途中で遮られてわずかに顔をひきつらせて黙る。大泉洋の繊細な演技がすごくよい!! このまま織田についとけば、という信幸の説はいかにも思考停止なようで、結局は織田の実質的な後継者たる秀吉が天下を取るのだから、実は間違ってないんだよなあ。でも何が正しいかなんて、この状況で登場人物の誰にもわかるはずないんだよなあ。

この先の史実を知っている視聴者ならば、親兄弟の別れをどうやって描くのか?と念頭において見てしまったりもするわけで、2人の関係性に緊張感を覚えるのと同時に、百戦錬磨の昌幸と実直が取り得の信幸、みたいなイメージにちょっと疑問をもたせる「もしかしたら信幸って昌幸より判断力あるのかしら?」なんて描き方にも見えて、三谷さんは一筋縄ではいかない。

前回今回と見て確信に近い思いをもったのは、昌幸がスーパーマンなんかじゃないからこそ、三谷さんは彼の老いまでをしっかり描くつもりなんじゃないかなということ。いくら現代より何割も精神年齢の高い時代とはいえ、信幸と信繁はこのドラマの終わりの時にまだ壮年なわけで、彼らの老いを描くことはできない。家康は老年時代まで描かれるが、彼は歴史の勝者だ。

昌幸の人生もまだまだ長く、これからも「表裏比高の者」っぷりを遺憾なく発揮していくわけだが、彼は少しずつ、あるいはどこかの段階で急にかな? とにかく老いてゆくんだろうな。常に崖っぷちに近いところで小さな身代を守るために戦い続け、ついぞ安住を得ることなく年をとる男を、50才を過ぎた三谷さんは冷徹な目線で執拗に、そして人間くさく書くだろうな。ちょっと怖いけど楽しみ・・・。

薫に言われるまでついぞ松のことを忘れていたのも、ある意味、理にかなった、すごくいい表現だと思うんだよなあ。真田を守り生き延びるために力を尽くしているのに、守るべきもののひとつである娘のことを忘れてる。思い出すと「娘の安全が」よりも先に「まずいぞ、娘が立ち回りを制限してしまう」と考えてしまう。この矛盾。家族を食わせるために働いているのに、家族を犠牲にして働いているなんてこと、現代だっていくらでもあるよね。家族を愛していないわけじゃないの。だけど人生はそんなに単純じゃない。そうでしょ? それが描かれてるからこそ、単純に生きているっぽい薫も愛おしく思えるのだよ。

国衆たちに諮る前に春日山に到着している昌幸の弟、信尹。相変わらず身を粉にして働いているのだね。上杉の本音と建前も面白かった。建前のはずだけど彼には本音なのかもしれない、というような景勝。越後の龍の屏風をじっと見ていた景勝。重い家督だろうなあ・・・。そしてこの直江がそばにいるから御館の乱で勝ち、関が原では負けるのねという直江兼続! すでに説得力が天地人以上では?w

何も知らない滝川一益にびっくりぽん。だけどこの人そうなのだったわ・・・。もちろん今後を踏まえての書き方だよね。みんなが変事にアワアワしている中で、まだ信長の夢の中にいる一益。「比類なき力を持てば戦は無用になる」そんな途方もない夢物語を考えるのが織田信長の偉大さであった、と。

昨今の信長研究では「信長って意外に普通の武将だったかも」なんて説も少なくないと耳に挟むが、それじゃあ何故に信長が天下統一目前までいったのか、いけたのか?という、作家・三谷幸喜のアンサーがこれだと思う。「戦の無い世を」という大河ドラマにおける最大のNGワード(笑)が、当の信長が忽然と消えうせたこのタイミングで、そのことをまだ知らない滝川一益の口から語られるのが、もう、にんともかんとも。昌幸も信幸も、その発想に呆然としながら、自分たちは変わらず荒海を小舟でいくしかないというね・・・。

完全に背後に回った形だが、梅ときりの関係も面白かった。お互いにハンデもアドバンテージもあるとわかっている。で、女同士、嫌い合ったりもしない。どうせ信繁の心は自分に無いんだし、と梅に助力を申し出たりするけど、公然と真田の奥向きで働けるとなると笑みを抑えきれないきり。いきいきしとるなあ。信繁も、安土-京都間の早駆けや、どさくさにまぎれての安土城潜入に成功するだけの「基本的能力」があるのはこれまで示されてきたとおりだが、来週は危難を迎えそう。