『どちらとも言えません』 奥田英朗

面白かった! スポーツエッセイっていうこの分野、もっと隆盛して、どんどん文庫化してくんないかな。私が知らないだけで、あるのかな? 

私はスポーツ観戦が好きで、拳を握りしめて応援したり、ハラハラと涙したり、とにかく気楽な外野の立場から熱くなること多し。迸る思いを暑苦しくブログに書き連ねることもしばしば。半年とか1年とか2,3年経ってから読み返すと、面白いんだよねー。当時の試合の熱さ・それを見てた自分の暑苦しさを思い出して。

でも、他の人の見方や、感想も読みたい。だからスポーツ観戦好きな人のツイッターアカウントをフォローしたりブログを見たり(でも最近ブログって少ないですよね・・・・)してるけど、やっぱり、プロの文章は格別。「生」が命のスポーツ観戦にあって、書籍化となると鮮度が落ちるのが決定的なウィークポイントなんだろうけど、それでも、プロの文章をまとまった量で読めるのはほんと楽しい。スポーツ誌のライターだって文章や表現はうまいけど、こういう、小説家の目線って、「思想」みたいなのがあるのがいいんだよね。

ちなみに私にとって初・奥田英朗がこの本だったのであるよ。「プロ野球ヤジりおじさん」を自認する奥田さん。今の若い野球ファンには…少なくとも、ここ福岡のホークス本拠地では、そーゆーのあんまりない気がするなあ。野次って聞き苦しいものだけど、本書のようにスタンスを説明されると、「それもまた文化であるなあ」と思えるのが不思議だ。

「日本のプロ野球とヤジ」なんていうと、徹底的にドメスティックな印象もありながら、外国のスポーツ観戦事情に多く触れているのも特徴で、欧米におけるスポーツ記者の「ビート・ライター」ぶり(ビート=叩く、の意ね)は、意外と、日本のヤジと通底するところがあるのかな、なんて思っちゃった。「岡ちゃんゴメン」とか「ザックありがとう」とかを見てると、日本はどんどんマイルド化していってるのかね。「家族大好き、地元ばんざい」なマイルドヤンキー化と関係あるんだろーか、なんて。

松井秀喜ニューヨーク・ヤンキースでワールド・シリーズのMVPを獲ったとき(もうかなり以前の話ですな)、日本のメディアは「これで残留か」という報道を繰り返したが、欧米ではそんなことのあろうはずもない、と筆者は書き、

松井は自身の去就に至ってクールで、MVP受賞と並んで実によろこばしいことであった。彼は契約社会にもまれた男なのである。

と、稿を結んでいる。その締め方もまたクールで、すごくいいなと思った。