『軍師官兵衛』第12話「人質松寿丸」

テレビの前に正座して食いつくにはあまりにつらい45分なので、最近は、ながら見することにしとります。先々週は針仕事、先週はアイロンがけ、今週も針仕事しながらでした。小さな演出を見逃していたりして、正鵠を欠く感想になる部分もあるかもしれんのですが、かまわずさくさく書きます。

今回、ドラマは「一人息子・松寿を人質に出す」のを描くことに照準を絞っていて(あれ?ダジャレ?)、ほとんどすべてのシーンがそのための構成になっているのがよくわかりました。

乱世を生き抜き長寿を祝される兄弟がいる一方で、年端もゆかぬ利発げな子どもが人質のさだめとして処刑される。継室との間に孫と変わらんぐらいの子どもをポコポコ作っている親父がおり、宗教上(これは本来、政治上とも言い換えられるはず)の事情を乗り越え新しい命を授かる夫婦もいれば、いまだ側女ももたず2人目を催促される夫婦もいる。一人息子を真綿にくるんで育てる親、一人息子を広い世界に送り出す親。深い情愛で結ばれた親子もあれば、「親子の絆? 何それおいしいの?」と言い放つ第六天魔王もいる。小便たれではあっても賢く、父の命をも助けた子ども。小便たれだった父より俺っちのほうが立派じゃなきゃおかしかろーもん!と覚醒する子ども。

そんなこんなを描き出すため、という大義名分で、ミッキー・カーチス松永久秀という飛び道具(爆死した筋書でやってましたので、文字通りの飛び道具だw)を引っ張ってきて盛り上げたのもわかる。大河に飛び道具はつきものです。

ここまでお膳立てしといて、視聴者の心を動かせないって、ある意味すごいドラマだよな、と感嘆しました。

今回、光さんが激昂したり号泣したり、前回は官兵衛が激昂したり号泣したりしてましたが、そういう場面になると決まって、ドラマの熱さに反比例して、私の心がスーーーーッと冷めていくんですよね。激烈な温度差ですよ。

しかも、中谷さんも岡田さんも演技の巧い人なのに、これ。すごいことだよね。

「一人息子を人質に出して泣かせる」というテーマには、本来、45分で足りるはずなんですよ。松寿が生まれてからすでに5,6話経ってて、これまでの積み重ねもあることを思えば、じゅうぶん。たとえば古典歌舞伎なんかで、観客が何の前提知識もないようなキャラと設定をいきなりぶっこんできても、親子愛をやったら、1時間で客席は涙の海ですよ。練りに練られた戯曲と、受け継がれてきた芝居の型とが、絶妙なんでしょうね。やっぱり作り物ってディテールが命なんだよな。「子どもを手放す親の悲しみ」なんて古今東西人類普遍の感情であっても、ただそれだけを適当にふわふわと提示するだけじゃ、全然胸に迫ってこないんだなってことがよくわかりました。

中谷さんも演技力のふるい損でしたね。光は、賢妻であり下々にまで慈悲深い奥方様であり慈母として描かれているんでしょうけど、そのどこ も視聴者の心にひっかかってこないという、ものすごく不憫なキャラになってます。天地人で常盤さんがやらされた「お船」を彷彿とさせるなあ。むしろ、出番もセリフも少なく、イツキが実子なのか側室の子なのか判然としないお紺のほうに、まだしも母性を感じるほどです。

てか、「正妻を愛している=側女をもたない=2人目ができない」っていう図式で強引に押し通すの、いいかげん、無理がありすぎませんかね。どう考えても、「正妻を愛してはいるが、当主としては一族郎党の生き残り及び繁栄を優先すべきだし、精力もありあまってるもんで、健康でかわいい女がいれば懇ろに愛して子をつくり、なおかつ正妻の心も離さない」ってほうが、かっこいいし面白いし抱かれたいと思うんですが。現在では到底無理なそんな甲斐性をバンバン見せてくれるところが時代物の良さでもあるんでね。ま、官兵衛の場合は、史実、他に子どもがいなかったのでしょうから上記の設定は無理だし、実際、夫婦仲がとても良かったと伝わっているようなんだけど、「正妻への愛情」をやたらと推すのはむしろドラマの説得力を欠くことにしか繋がってない気がするのね。なんか、今回、苦悩する官兵衛夫婦を見て、「側女はイヤだ、一粒種を失うのもイヤだ、じゃ、駄々っ子と同じだよな」とちょっと思ったもん。

人情派の秀吉との対比で信長を冷酷に描くのも戦国者の常套手段だけど、なんか今いちピリッとしない。口ではやたらと「信じない」「わかんない」「しょせん道具」的なことを言っても、おねたんには甘々だったし秀吉にはデレるし、松寿丸にも結局、自分とこじゃなくて秀吉んとこで預かるという情けをかけている。それはつまり秀吉や官兵衛が「使える道具」だからっていう理屈なんだろうけど、なんとなく、単に秀吉ラブだしあわよくば官兵衛にも食指を伸ばしたいし…ってふうに見えるんだよね。そこを「信長にはそーゆー可愛いところもある。」って描こうとしてるなら、それでいいんだけど、そうじゃないよね。作り手が見せようとしてるのは、「圧倒的な信長」だよね? どう見ても(ry

ただ今回は、岡田くんがカッコよかったので、救われた。松寿を差し出すしかないと決意する顔、信長の前での堂々たる言明は見ごたえのあるものでした。悲しみを抑えて振る舞う、という演技がうまい。しかしやはり、脚本として、官兵衛に光を説得させなかった、あるいは光が自ら得心しなかったのは大きな欠点になると思います。子どもが母を説得してどうする。大人同士で何とかせいよ。しかもおまいら、側女の入る隙もないぐらいのオシドリ夫婦設定なのだからして。弱腰脚本めー