『軍師官兵衛』 第5話「死闘の果て」

前回の、夫婦の出会い〜初夜までにどん引きしまくり、失望しまくりで、視聴意欲がかーなーりー失せてて、ソチ五輪のどさくさでリタイアしちゃうんじゃないかとすら危ぶんだんだけど、よ、良かった―! 今回ちょっと持ち直した。「3歩進んで2歩下がる」ならぬ、「3歩下がって1歩進む」ってとこかいな。

何が良かったか、ていうと、まず、信長。初めて信長まわりのシーンで「おっ」と思えたのだ。

足利義昭を擁して入った京の都は絵に描いたように廃れており、そこで民が狼藉をはたらく現場を見つけた信長は、馬上一閃、男を斬り捨てる。これがまあ、まんま昭和の時代劇のノリで、いくら悪いヤツとはいえ自分も相当粗末な身なりをしてるほぼ丸腰っぽい男が、わざわざ騎馬武者が旗を掲げて行列してる目前であーゆー狼藉をはたらくかね、とか、悪いやつがあちこちで悪いことして集めてきたにしても、割れた甕、ものすごいっぱい銭入ってたな、とか、ツッコミどころは多々あります。「京で無法を働く者はこの信長が許さん!!」的な信長のセリフも、これ以上ないってぐらいの紋切り型で超安っぽいのだが、これが、単なる物盗りとか婦女暴行とかの類じゃなくて、「銭」のための狼藉だったってのが今回のちょっとしたミソですよね。

将軍に就任した義昭が信長に副将軍あるいは官位を与えようとするも、信長は拒んで「堺、大津、草津」の三都市に代官を置き支配することのみ認めさせる。「そんなもんでいいのか」と鼻白むバカ将軍のおかげで、銭で潤う商業都市を入手してニンマリの天下布武バカがちょっと賢く見える…! 続く能の宴に関するやりとりも面白かった。能のこと全然知らないんですが、当時は13番まで催すのが格式にかなうものなんでしょうね。それを「5番でじゅうぶん」と具体的な数字で制限するのが良い。

将軍になったからって宴に興じるなんて、いかにもパーチクリンのやることに見えますが、領地も、軍もなく、権威だけをもっている義昭にとって、それが政治であり外交なんですよね(あとは以前の回にあったように諸国に手紙を出しまくること)。信長もそれはわかっていて、さすがに頭ごなしに宴自体を禁じるほどの強権をいきなり発動はしないわけです。あるいは、能を禁じるよりも「5番だけ」開催させるほうが、より得策との判断かもしれない。有職故実に通じた客が「あれ?5番ポッキリ?」と訝しめば、信長の将軍に対する影響力を肌で感じさせることができそうですからね。

このとき、信長に自信たっぷりに諌められ、内心面白くないながらも、それを「ふむ。苦しゅうない」て感じで受け容れる吹越満の義昭の芝居がさすがうまい。大げさでなく、間合いやちょっとした表情で表現されてる。これは江口洋介の色でもあり脚本演出も多分にあるんだろうけど、信長がかなり一本調子の演技をしてるので、ひとりでワーワー説明したり宣言したり、家臣や妻が「へーへー」とお追従してるだけの状態だと(まあそういうシーンばっかりってのが、やっぱりそもそもいけなかったのよね)、ほんっとうに平坦で面白くもなんともなかったんですよね。吹越のような演技巧者とやりとりしてくれることで、やっと「ダイジェスト」「説明映像」じゃなくて「芝居」になる感。来週は荒木村重と例のエピソードをこてこてのド直球でやるんでしょうが、田中哲司に期待しよう。

で、今回、物語としてちょっと面白かったのは、銭の話が信長・官兵衛の両方で出てくるところで、官兵衛のほうでは、志方から嫁いでまだ日の浅い光姫方の戸惑いを発端に描いたのはスムース。油も炭も容易には支給しない黒田家のやり方を「倹約だ」と爽やかに言う官兵衛に「質実剛健なんですね」といったんは頷きながらも「ケチとも言いますね」と明るく言う光が面白かった。ハタからみるとケチくさーい家風も、祖父の時代に目薬を売っていた来歴が織り込まれているので、視聴者には奥深く思える。

やがて戦になったとき、士気を上げるため「今でしょ!」とばかりにバラまく官兵衛は、ちゃんと金の使い方を知っている男で、いずれ信長や秀吉に大いに重宝される姿が目に浮かぶようだが、“倹約して蓄財&いざというときの金離れの良さ”が官兵衛個人の性向というわけでなく父祖から受け継いできたものだと思えば、また少し違って見えて、そういうところが歴史やドラマの面白さだ。

今回の戦闘は「青山・土器山の戦い」というらしい。赤松宗家と分家の対立や、義昭の上洛、信長の介入などさまざまなものが絡み合って起きた戦らしく、歴史好きとしてはそういう込み入った事情が大好物なのだが、ドラマでは「赤松が上洛する義昭を奉って…」云々とチラと触れるに留まった。まあこのあたりについては期待せず、こういうスタンスのドラマなのだと思って見るしかない(あるいは潔くリタイアするか)。

それにしても3000もの兵を出せる赤松はそれなりの勢力であり小地方の小競り合いというにはずいぶん大規模な戦闘。ドラマで御着方が姫路の黒田に丸投げして帰ったのは、突然だったからか、赤松が通常よりものすごく大きい兵力でやってきて吃驚したのか、3000の勢力に対抗できるだけの戦力をそもそも持ちえていないのか。いずれにせよ、御着の小寺はその程度で尻尾蒔いて逃げる程度の小領主という理解でいいんだろうか? であれば、この乱世ではとても地位を保てない気がするが、古来からのそれなりの家格(御家人とか守護とか)なのか?やはり播磨事情がおざなりなのは悔やまれるなあ。

戦の描写はストップモーション?の多用がやや興ざめだし、極端に彩度を落とした画面もどうかと思うが、全体に迫力あって楽しめた。太兵衛・武兵衛親子の超古典的なフラグ、特にポッと出の相手に言う「帰ったら祝言をあげよう」に噴飯した向きもあるようだが、私あそこはそんなに気にならず。

みえみえのフラグやお約束のような展開それ自体が悪いわけではなく、歌舞伎などを見てもわかるように、王道(と紙一重のベタ)に興奮したり感動したりするのが人間であり、昔の大河だってそのようなシーンはたくさんあった。ただ今年の「王道」「シンプル」を評価できないのは、そこに情熱というか、おさえきれない人の感情の奔出のようなものが感じられないからだと思う。伏線伏線と小手先のテクニックを度を越して有難がるのもどうかと思うが、長いドラマだからそこに至るまでの積み重ねは当然必要である。

しかしながら、今回で言えば、しょこたん・お国と武兵衛とのロマンスはあくまで添え物で、キモは官兵衛−武兵衛の年近い主従の絆と守り役の太兵衛の黒田家への忠誠および母里親子の情であり、そこはわずか5回とはいえそれなりに蓄積されていたと思う。よって、とってつけたようなフラグや戦闘場面での振舞も私としては全然許容できたし、「ああっ勉さん。・゚・(ノД`)・゚・。(違)」て感じで見ることができた。武兵衛・太兵衛と善助の絆も良い。

てか、今週もどーせサブタイ詐欺だろうとたかをくくってたらマジで死闘だった件gkbr 岡田くんの「もう一度攻める! ついてこーい!」みたいな勇ましい号令がものすごく様になっていて、戦国が似合うなあ!!とほれぼれ。ホームドラマ場面ではぬるい 優しいだけに、そのギャップも良い (*´д`*) 石川との一騎打ちも、「ねーんじゃねーのか?!」というツッコミつつ同時に「まあそんな野暮は言わんと」ともうひとりの自分がなだめつつ見る感じ。叔父の知氏(?)を仕留めた雑兵が「大将首だー!」と叫ぶとか、一騎打ちでの足の甲に刀を突きさしたりする殺陣とか、随所にこだわりも感じられる。ついに組み敷いた敵の首を主人公みずから掻き切らせたのにも賛意。はっきり映さないまでも、人の命を奪う重みを感じさせる演出をしていた。若かろうが手を汚さずに生きられないのが戦国の男だ。

身替りになって致命傷を負った武兵衛を微妙な距離から黙って見つめる数秒は「?」て感じだったけど。そこはいったん興奮のままにきつく抱擁して「武兵衛ーーーっ! しっかりせよーーーー!」と叫ぶ、みたいなベタでよかったのよ(べ、別に腐女子的願望ってわけじゃないですったら!!)

惜しむらくは、圧倒的不利の中、叔父らが定法の篭城を勧めるも一貫して野戦、しかも仕掛ける側を選ぶのが、若さゆえの一本気なのか戦場においては剛毅豪胆な性ゆえなのか、あるいは古今の兵法に通じている“軍師”属性ゆえなのか、どのような表現なのか提示されないこと。そこは視聴者に委ねるべきところではないと思うんだけど…。先週は恋バナだったので省略も納得だった「今日の軍師の一言」、「いつ出すの? 今でしょ!」だと思って待ってたのについに出なかったのにはびっくり。もう、やめちまうの? プレジデント的/PHP文庫的興味関心で見てるお父さん方が泣くぞ!?

城に残る光姫以下の女たちが「襷がけに薙刀」の恰好をしているのは仰々しいが、まあ大河ではよくある光景だし、「今は私が城の主」と気負いと共に使命感でやや昂ぶっているような光の演技はいかにも若奥方らしくて納得。裏腹に、武兵衛の死を悟って泣き崩れるお国を抱きとめる表情はとても10代後半には見えないんだけど、でも中谷さんはやっぱりそういう演技の方がしっくりくるので、もう少し時が経った方が自然に見えてくることでしょう。目を見開いてるのとやけにバラ色の頬が、若さの表現だとわかるんだけど、見ててちょっとつらかったりするのよね…。中谷さんは大きな声の「通り」も良くて、これは三谷さんの舞台の経験なんかも生きてるのかな。

母里親子を失ったことを敢えて口にせず、お国に詫びもせず、ただ鬨の声をあげる演出はよかった。喪失のあとの新たな息吹、高橋一生速水もこみちの投入も。もこみちが登場した途端、TLが沸きに沸いた様子があって、この人いつのまにこんなに愛されるようになったんだろうと笑った。やっぱオリーブオイル戦略の勝利かねー。濱田岳が、戦場でも、もこみち紹介でも、実に味わい豊かな演技をして盛り上げてくれる。高橋一生、楽しみ〜☆

竹中半兵衛がお題目の「乱世を終わらせるために」であっさり秀吉に落ちたのは「あーやっぱりねorz」だったけど、「身内を殺すような織田の家風が合わない」とハッキリ言ったのは当然今後に生きてくるんでしょうね。これまで始終暗い顔の半兵衛が雪解けそのものの笑顔を見せて、単純な造形っぽくてもやっぱりタニショーは素敵だ〜〜〜と思った。

つーかこの大河でここまでの長文書いてる私なんなの、もの好きすぐるwwww