『軍師官兵衛』 第3話「命の使い道」 ※追記あり

昨年・一昨年に自分が書いた第3話の感想を読み返して、そのテンションの高さに苦笑しました。いやあ懐かしいですね。夢と希望にあふれてましたね。西島さんのミラクルボディ・・・ww

今年の第3話の私(って私が出演してるような書き方だなww)は、とても平静です。ベタ凪です。でも、悪いとは思いませんね。うん。

ツッコミどころは山とあるのですよ。いくら動転したからって着の身着のまま浦上まで行くなよ! てか何キロ離れてんだ?! おたつ、顔に傷どころか汚れすらない。浦上の兵は去ってる(=相当時間が経ってる)のに、都合よく息があったもんだな! 

焼き魚に食いつく竜雷太おじじさまにナレ死をかぶせるセンスwww こわっぱ3人だけでよく堺まで行かせるよね…息子に「しっかりお守りしろよ」って、アータもついてったらどーかね、勉さん。金をジャラジャラ言わせながら歩くんじゃなーい! 堺の町ってあんなんか?! 

でも、不思議と嫌いになれない。ひとつには、序盤は「長い目で見よう」としてるところがある。最初からぶちぶち言ってたら、とても一年なんて見られません、大河の猛者はつとまりません(←つとめる必要もないんだがwww) もうひとつには、考証がザルだろうと脚本が平凡だろうと、「不快感がない」ってすごく大事なことだね、って話。

主人公(クラスの主要キャラ)が若き日にささやかな初恋をしてそれが悲劇的に終わる、って、大河のテンプレートのひとつです。そーゆーの散々見てきたから、「風林火山」のミツぐらいすごいのかましてくれないと感じない体になってる私です(←最低)。おたつのくだりも「へーへー、さいですか」と軽ーく見てるんだけど、この、薄いお茶漬けみたいな味わい、ほんのりした哀歓もまた、たまにはいいもんです。

なんせ昨今の大河は、やたら濃い味が続いてました。凝りまくった映像、いかにも狙って滑る決めゼリフ、幼稚なお題目、怒れば殴る蹴る、泣けば涙と鼻水でぐしゃぐしゃ、落ち込むときは十数年、そして唐突な展開・土下座に腕相撲…。そのときどきでは、刺激的で息をのみ、興奮することもありましたが、どうも、そういったパーツパーツが浮いているというか、「パーツ頼み」になっている感が否めない面もありました。

今年は、なんといっても脚本が平凡です。まだまだ序盤だというのに、「やったるでー!」て感じがまるでないのです。先日、あさイチ鈴木保奈美が生出演してたとき、「江」での市の名(迷)場面をやってました。「女の戦は生きること。本日ただいまを生きていくことにございます」とかなんとか。サーッと体じゅう寒気がしましたよね。大寒も近いって時期にこれはしんどい(保奈美さんは土曜の福田英子すごく良かったよ!こちらの感想もそのうち)。

一方、官兵衛では、「一時の怒りや憤りで戦を起こしてはならぬ。死んだ者が再び生き返る事もない」 「おまえは若い。まだ命の使い方を知らん」 「私は官兵衛様をお慕いしておりました。でも、このお話をお受けした時にその思いはきっぱり捨てました。私は黒田の娘、官兵衛様は弟です。これで胸のつかえが取れました」 

フツー。超フツー! 何ひとつ、刺激的な表現、胸を抉るフレーズがない! 明日になったら忘れると思う! でも、逆に言えば、押しつけがましさがない。良いことです。この大河では、脚本は少しも奇をてらうつもりがないようです。これがベテランの余裕ってもんなんでしょうか。アクがなさすぎて物足りないきらいはありますが、このさらさらと流れていく脚本を、演出はうまくこなしてると思います。

今回で言えば、年若い官兵衛の悲しみ方や立ち直り方がとても自然に映るんですね。胸を撃ち抜かれるようなことはありませんが、じんわりとくる。おたつへの「一緒に帰ろう」の一言とか。ついこないだデートしてた海に今は一人(それでも海はあのときと変わらない、という趣)とか。武門の名だの何だの言っといて、「かたき討ちしてやらねばかわいそう」って本音とか。旅路で徐々にほどけてゆく心が、新しい出会いや未知の文物に動かされていく様子とか。

周囲の見守り方は、戦国の世にしては大変優しいといえます。心ここにあらずな息子に代わって孫子の言を引く恭平パパは(この「今日の軍師の一言」コーナー、序盤から毎回工夫が見られていいですね)、「黒田家の恥だ」なんて強い言葉を発するものの、主君に手をまわしといてセンチメンタル・ジャーニーのお膳立てをしてあげる。接待囲碁にキッチリ負ける恭平パパの如才なさをそ知らぬ顔で受け容れている鶴太郎の食えないバカ殿っぷりはいいんですが、まあ、呑気に見えるっちゃ見えますよね〜、この主従の情景。浦上を急襲した赤松が御着(または姫路)には手出しをしないといえるんでしょうか。

おじじ様も結局、黒田家の来歴を(ミュージカル仕立てで)語り、孫を慈愛で包むだけの役柄でした。竜雷太を起用しときながらこの生ぬるさはどうかと思うし、意図的に現代ふうな父と子(祖父と孫)の関係を作っているんでしょうけど、一歩外に出れば惨い死体がゴロゴロ出てくるような世界観とはチグハグな印象にはなってしまうところです。

そういえば、恭平パパが鶴太郎の口利きでもらった後添えは誰なんだろうと思ってたら、藤吉久美子でしたね。ここで前妻よりずっと若いカワイコちゃん(死語)がきてたら、「隅におけないなー、このこのッ」と肘で突つこうと思ってましたが(死語的仕草)、戸田菜穂より若いわけでも美人なわけでもない(失礼)ってのが、妙にリアルで、(恭平パパがんば! 馬には乗ってみよ人には添うてみよ、だよ)と心の中でつぶやいた私ですww

武兵衛と善助の凸凹コンビは、やはりいい味出してきましたね。<高い−低い>だけでなく、<硬いー柔らかい>の面でも対比になっているのは、濱田岳の肩の力の抜けた演技力に負うところが大きい。釣りをしながら、主を元気づけようと聞えよがしに竹中半兵衛の武勇を語る場面、いじらしくて微笑ましかったですね。まあ、遠く美濃は稲葉山城の話が播磨の小領にまで届いているのはご愛嬌…。

その、竹中半兵衛ですが、話の流れ上も当然ながら、超省エネでの稲葉山城攻略映像であるにもかかわらず、タニショー半兵衛が無駄にかっこよくて笑えましたwww 信長との撮り方に差がありすぎないかwww 

信長まわりは「ツッコミ待ち」という意図で作られているのだろうと理解しましたw 「岳父の遺言だからではない」「今どき義を重んじるなんて」「腐ったものすべてを叩き壊して新しい世を作るのが俺の義」んまあ、何から何までぺらぺらぺらぺらとよく喋る信長サマですことww大物感ゼロwww 「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ〜ポイズン」ばり。ったく、それ違う信長だからね。濃姫の存在価値がわかんなかったしw そして土田御前っ! 「おーまーえーはー、おーにーかー」その言葉そっくりそのまま返したくなるから! 脈絡なさすぎwww 官兵衛まわりは堅実に、信長まわりは(必然性なく)ド派手に、ていう方針なんですかねw

荒木村重が3話から出てくるのは「ほう」って感じでした。「追剥に襲われたところに居合わせて」って、この辺が今年の脚本家の創作力かーと思うとやはりやや不安になりますが(笑)、勢いと調子だけは良い快男児然として登場した田中哲司の演技力にはやはり惹きつけられます。饅頭と、官兵衛の金離れの良さ、そして「10倍返し」をソツなく入れてたのにも好感。彼の語った足利義輝暗殺、映像が妙に凝ってて良かったです笑 

今井宗久の俗人っぷりに引いたw そしてわざわざ引いた秀吉のコメントが超凡庸www それでも響く、という官兵衛の若さを表わしたかったのかもしれんけどさー。あ、宗久が部屋に入ってきたときの主従3人の「スライディング胡坐」が良かったですね、岡田くんの運動神経が無駄に(?)発揮されてww

で、秀吉コメに打たれて堺をふらふら歩く官兵衛、教会で説教するルイス・フロイスに遭遇。話運びの強引さには目をつぶろうw ここで、キリスト教の教義(ってほどでもないけど)と、聖母子像の画と、美しい讃美歌の旋律に、じわじわときて一筋の涙を流す官兵衛。これが、見ようによっちゃ、「新興宗教は弱っている人の心の隙間に入り込んでくるものです」という教戒そのものの図だったんですけど(笑)、結構良かったんですよね〜。おたつの死に始まり、旅路での襲撃や出会い、堺の町・・・短期間のうちにいろんなことがあって、なんとかかんとか頑張ってるけど、何かのタイミングでふと心が飽和して涙が…って感じが、すごくよく出てました。岡田くんの演技は堅実で情感がありますね。そのあとの「世界は広い・・・」も良かったです。

にしても、第一話で提示された「トイレに行くのも忘れるほど夢中になる属性」や「才気のきらめき」が、2話・3話とすっかりなりを潜めてるようなのはちょっと気になる。若き官兵衛くんは、しばらくこんなふうに「隣の席の優しいイケメンくん」て感じでいくんでしょーかね? あと、今んとこ100パー内容がサブタイに追いついてないw

■追記■
書くの忘れとった。成長したおたつに、あんな福々しい頬の童顔ちゃんをキャスティングしたのは、てっきり華奢でアダルトな中谷美紀との対比か、はたまた事務所のバーター的な大人の事情か…と思っていたけれど、あの教会(?)で聖母子像の画が映ったとき、おたつのイメージは聖母マリアってことなのかな、とふと思った。

これから出会う伴侶、光姫は官兵衛が現実を共に生き抜く、いわば同志。対して、婚礼の夜に死んだ初恋の女は、永遠の処女性を保って官兵衛の心の中にあり、その清らかなるものへの憧憬と(このドラマ的に)平和を希求する心とが相まって、官兵衛は後年、受洗するのかも…。

入信のくだりは相当サラッとしかやらないかと思ってたんだけど、3話という序盤で、しかも荒木村重と同時に教会が出てくるとこを見れば、もしかしたらむしろ「八重の桜」よりもきちんと正面から取り扱うのかもしれない。高山右近には、同じ事務所の役者として先頭付近を走っている生田斗真くんがキャスティングされてることだし。