モスクワ世界陸上4日目! 女子棒高跳び決勝イシンバエワ!

●女子棒高跳び決勝
イシンバエワーーーーー! 最高だよ!!!

4m55を一発クリアしただけで予選を通過したのは彼女ひとり、つまりトップ通過だった。それだけ好調ってことなんだろうし、実績を考えれば何ら不思議じゃないとはいえ、まだまだ安心できないとも思ってしまうわけで。だって2009ベルリンにも2011テグにも2012ロンドンにも彼女じゃない金メダリストが生まれたんだもの。今季のランキング1位だって彼女じゃないんだもの。

決勝、4m30から始める選手もいる。予選クリアラインと同じ4m55をパスしたのは彼女だけ。そして登場した4m65の1回目を失敗した。もう!もう!もう! ひたすら悲しい。彼女が2回目でクリアした後、ロンドン女王のジェニファー・サーは4m65をパスした。残っているのは6人という状態でバーが4m75に上がる。今試合、最初の試技者はイシンバエワ。そこで1発クリアした時に、私小さくガッツポーズ(←おまえのことは聞いてない)。

なんかもうね、これで満足って思えた。10年来の棒高跳びの女王、世界記録更新28回という超人アスリートとしてのメンツは保ったな、と。もうベスト7は確定してるんだし、これでこの試合のパフォーマンスはすごく好印象になったな、と。メダルを獲れるとはまだ確信できなかった。だって前哨戦、今季のイシンバエワが跳べたのはこの高さまでなのだ。

65をパスしたサーが、直後に75を一発でクリアしたしね。ドイツのシュピーゲルブルグもここまで一発クリアが続いているし、テグ女王のムレルも、予選から調子が悪いのか結果的にすごい数の跳躍になってるけど3回目でのクリア力がすばらしいシルバも(しかも今季ランキング1位)、そしてサーもいるわけで、全然簡単じゃない試合だと思った。

ムレル(ブラジル)と同じロシアのサフチェンコ、クラスノワが脱落して、4人になって4m82。1人めの試技者イシンバエワ、落とす。そうだよね。今季一度も跳べてない高さだもんね。でも、続く3人も落とした。さすがにここまでくると、世界のトップ選手にとっても簡単じゃない。2回目。イシンバエワ、クリア! 笑顔で落下してきて、そのままの顔で満員のスタンド席に向かって手を挙げた。この試合、初めてのスマイル。くる、これ、メダルくる! 解説者の石塚さんも「だんだん、彼女らしい雰囲気が出てきて、彼女の試合になってきていますね」と。

そう、悲しいことに、割と空席が目立つ今大会だけど(まあ2007大阪も空席多かった日本国民としてはいえた義理じゃないですけどね)、この日、棒高跳びをやるゾーンは超満員。もちろんロシアの人々が母国の誇りイシンバエワを見に来ているのだ。イシンバエワの跳躍が決まると、怒号のような歓声が渦巻く。サーが2回目、シルバが3回目でそれぞれ4m82を成功すると、悲鳴が怒号になって、また渦巻く。彼女たちも歯を食いしばって戦ってる。簡単には勝てない。3人になった。メダル確定。

4m89。いやいやいや・・・・って思う。そりゃ5mジャンパーだけど、今季の最高は4m75ですから。・・・って、一発でクリア!!!!!!!!!!!! 「やったーーー! やったーーー! やったーーー!」もう、イシンバエワ本人かっていうぐらい、そう、テレビ画面の中の本人と同じポーズで両手を高々と突き上げて、何度も何度も叫んだよね、私。なんてことをやってのけるんだ!! なんて強いアスリートだ!!!

私、どんな競技でどんな選手を応援してても、ライバルがミスすればいいって思うことはほとんどないんだよね。フィギュアスケートだって、キムヨナ転べばいい、とか思わない。別に聖人君子ぶってるわけじゃなく、応援している選手と同じように、ほかの選手も必死なわけだから。それに応援している選手を通じて、その競技自体を愛しているから、なんていうのかな、競技に対して敬虔でいたいんだよね。ただ見てるだけの立場でも。

だけどこのときばかりは、ほんと願ったね、残りの2選手に対して。「お願い、もう跳ばないで。これ以上跳ばないで、今回はお願い!」って。ほんと許してほしい。もう、こうなったら日本人選手を…ていうか、家族とか友だちを応援してるのと同じだよ。それぐらい、彼女の物語を特別なものとして感じてしまってる。で、通じたよ。通じちゃったよ〜。てか、ルジニキスタジアムの大半が声に出さずそう願ってたからね…。いやでもやはり、今季4m75しか出していないとはいえ往年の第一人者が、この大舞台で、しかも一人目の試技者で、4m89を一発クリアしたっていうプレッシャーは計り知れないよね…。サーが、続いてシルバが、3回目の試技を失敗。

その瞬間、彼女が喜びを爆発させた。ジャージのまま疾走してスタンドの中に入ってゆき、彼女を見守っていたいつもの、おなじみのコーチと抱き合う。コーチが彼女の背を優しくポンポン、と叩く。この日いちばんの歓声で彼女を包む観客たちに手を挙げて応える。

フィールドに戻って、彼女自身がかつて打ち立てた世界記録更新に挑戦する。5m7。一度ゆるんだ気持ちをもう一度緊張にもっていくのは並大抵じゃない、ていうか急に25cmも上がったバー、とてつもなく偉大な高さ。無理だよ、そら無理だよ。けれど、自分のためだけの舞台に立って観客の視線を一身に集める権利を彼女は得て、それを楽しんでいる。手拍子を要求し、もっともっとと煽って飛ぶ。バーが3回落ちたのをしおに、本格的なウイニングランが始まる。国旗を背負って、1周、もう1周走る。笑顔、笑顔。涙はない。歓声がやまない。

やがてグラウンドにインタビュアーが出てきてマイクを向ける。彼女はそのマイクを自分の手にもぎとる(笑)。インタビューじゃなくてスピーチだ。スタジアムの観客、そしてロシアの人々に向けたもので、ロシア語のわかる人はTBS中継陣にはいなくて、なんて言ってるかわからない。結構長く喋ってる。すべての競技が終了し、ほかの選手が去ったとはいえ、こんな独占、あんまり良くないんじゃないかなって思う(笑)。でもしょうがない。たぶんみんなが許してくれる。だってイシンバエワだもん。「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう」と、最後には何度も言っていたらしい。

長いことグラウンドの勝利の余韻を中継したあと、カメラがスタジオに戻る。ODAさん、はしゃいでない。しんみりしてる。わかる。わかるわー。だってヘルシンキや大阪での栄光のあとの、ベルリンやテグの彼女を見てきたんだもんね。きっと復活するって思いたいけど、過度な期待をかけるのもな、とか、どんなに負け続けても彼女が一度手にした栄光は色あせないよな、とか、そういう気持ちをODAさんと私(たち)は共有してるよね。

今回の世界陸上@モスクワ、大会のロゴマークは棒高跳びなんだよね。今まさにバーをクリアして降りゆくジャンパーのシルエットは、どう見てもイシンバエワ(笑)。そんなにプレッシャーかけるか?! とも思っちゃうわけなんだけど、大会前のインタビュー、「なかなか結果が出なくて、完全にダメになってしまう前に引退しようと何度も考えた。モスクワでの開催がなければもっと早くに辞めていたでしょう。けれど私はこのスタジアムで、母国のみなさんと共に戦います」って言葉に泣けて。「みなさんのために戦う」んじゃなくて、「みなさんと共に戦う」ってのが、なんか泣けて。そして言葉通り、母国の期待を、声援を、プレッシャーにして潰されることなく、自分の力に変えた。すごい。すごいよ! 

勝利が決まったあと、解説の石塚さんのイシンバエワ推しっぷりがすごかった(笑)。「格が違う」 「イシンバエワ劇場の主演女優」 「彼女の笑顔を見ていると幸せな気持ちになりますね」とまで(笑)。えーと、こーゆー人だったっけ?(笑) もちろんすべて同意だけど! あ、ちゃんと、「総合的な技術力は今なお彼女が抜きんでている」とも言ってたけどね。それと、一言書いとく。実況アナウンサーが、イシンバエワが試技するたび、まさにバーを越えようとするその瞬間にかぶせて、1回1回「モスクワの空に舞い上がる!」とか「有終の美をかけて!」とか、大音声をあげるのが非常にうるさかったデス…ODAさんよりもよっぽどうるせーよ、とおもた。

でも、彼女の笑顔は本当にみんなを幸せにする。すばらしいアスリートは数々いれど、こういうスター選手はそうそう出てくるもんじゃない。同じ時代に生きられたことを感謝。ずーっと大好きです(告白)。あらためて、棒高跳びってすごいよね。3000m障害と同じくらい、「誰がこんな競技考えついたんだ?!」て思うなあ。だって全然人間的じゃないでしょ、動きが。明らかに無理があるよね。どんな気持ちなんだろう。ポールを使って舞い上がるとき。5mにも近いバーを超えるとき・・・。

●男子400m決勝
予選から好調ぶりを見せつけていたラショーン・メリットが完勝。それ自体はすばらしいし、特段驚くべきことではないんだけど、20年ぶりの世界記録更新すら期待されていたキラニ・ジェームスの後半の失速がショックだった。どこか体に違和感があったのか、あるいは、「もう届かない」と心が折れたのか、とにかく明らかな失速で…。メリット本人もショックだったんじゃないかな。小国グレナダの若き英雄で、彼のための祝日すらあるという(ただしなぜか半日の祝日w)。テグ、ロンドンと勝ったとはいえ、母国の期待も、追われる存在であることも、生半可なプレッシャーではなかろうからな・・・。ナショナルチームで来ている国々に比べ、彼のような小さな国から来ているアスリートは、サブトラックでも、いつもコーチとふたりきり、らしい。カタールのバーシム君(ハイジャンプ)のときも同じようなリポートがあって、そういうの聞くと、つい応援したくなる。ジェームス、君はまだまだ終わらない! 銀のマッカイがPB、3位のサントスと4位のボルリーがそれぞれSBをマーク。いいレースだったんだろうけど…。

ところでこの競技には、白人のウォリナー君っていう若くて強い人がいましたよね。2009ベルリン王者かな? 北京だったかな?  テグにもロンドンにもいなくて、今回も。毎回、気になっています。

●男子800m決勝
現世界記録保持者のルディシャがけがで欠場した今大会。とはいえ、優勝したアマンは今季2度もルディシャに勝っているらしいし、しかも今レースもシーズンベスト。ルディシャの絶対王者時代が続くかと思っていたけど、そんな簡単なことじゃないんだね。アマンも、3位のスレイマン(ジブチ共和国)も、まだはたちそこそこ(10代だったかな?!)の若い選手。ルディシャも若いけど、常にどんどん若い才能が出てくるんだなあ。

●男子円盤投げ決勝
優勝ハルティング、銀マラチョフスキ、銅カンテル。終わってみれば、非常に順当なところにおさまったという感じなんだけど、試合はやっぱりスリリング。まあ終始ハルティングが優位に試合を進めていたけれど。ハンマー投げ然り、投擲の試合もかなり心理戦だなーと思う。5投目で王者に80cmと迫ったマラチョフスキはかっこよかった。

で、ハルティングは「ハルク」なんて愛称で親しまれているそうで。2009ベルリンの母国開催で激戦を制し初王者になった瞬間、ユニフォームをまっぷたつに引き裂いてマスコットのベルリーノ君を逆さづりの刑に処す…という過激なパフォーマンスに、私もあんぐり口が開いてしまったクチです、ええww。それ以来、やはり「脱げ、脱げ、しかも破って脱げ」という周囲の期待が大きいようで、2011テグでも、2012ロンドンでも期待に応える姿を目撃してきましたが、今回なんかもう、カメラを確認して脱ぎどころをはかりながら、破り脱いでましたねwwww おつかれさまですwww

●女子3000m障害決勝
いいよねえ、この競技(再)。選手たちが最深70cmもある水濠を超えるたびに、「なんでこんなことしなきゃいけないんだろ・・・」という深遠な気持ちになりつつ応援しちゃうよね。後半とか、もうほんと、みんなふらふらしながらハードル超えてるもん。力強さが全然ないもん、世界のトップ選手のハズなのに。チェイワ、チェプクルイでケニアがワンツーフィニッシュ。3位のアセファ選手は、ラスト1周半ってあたりでハードルにつまずいて転倒したんですよ! すごい追い上げだった。

●女子1500m準決勝
前評判通り、トップ通過しながらも、アレガヴィにはまだまだ余裕がある感じ。対照的に、ディババ三姉妹の末っ子、ゲンゼベ・ディババは5位というギリギリの順位での通過だったんだけど、最後、力を温存したのか、苦しくなったのか、ちょっとはかりかねた。決勝ドキドキする!

●男子・女子400mH準決勝
男子。有力どころはだいたい通過…バーション・ジャクソンが落ちた。ティンズリー優勢と伝えられていたけど、準決勝見る限りまだまだわかんない感じ。キューバのシスネロって人が超速かった。ベテランのサンチェスがここでシーズンベストを出したのはうれしい。クレメント、予選よりずいぶん良く見えた。日本の岸本は着順・タイムでも落ちていたんだけど、レース後、失格に。ハードルの越え方をミスったみたい。そういうルールがあって、しかも引っかかるのも珍しくないもんらしい。ほんと難しい競技。

女子。同じ競技でも、男子は準決3組、女子は2組しかない。不思議。ロンドン女王のアンテュクが落ちた。確かに予選でもイマイチ好調には見えなかった。デュマス(米)も、ドレイトン(英)も良かったけど、なんといってもやっぱりヘイノバ(チェコ)がまだまだ余力を残している感じに見える。

●男子走り高跳び予選
予選っつーのに超面白かったです! 放送では、時間の都合上、編集してA/B両グループを同時に見せるような感じだったけど。優勝候補、カタールのバーシム君、母国の星として、政府から一軒家をプレゼントされてるって話はテグのときに聞いたんだったかな。ロンドン五輪では3位で・・・そうだ思い出した、あのときはまったく同じ成績で銅メダルが3人出て(もちろん異例)、カタール・カナダ・イギリスと国のまったく違う3人が、表彰台に肩を寄せ合って上って、ロシア国歌が流れてる間も、ぺちゃくちゃ楽しそうにおしゃべりしてたんだった。その一人だったバーシムくん。22歳になってるらしいんだけど17歳って言ってもいいくらいの童顔で〜華奢で〜かわいくて〜・・・・失礼、ごほんごほん。バーシム君、もちろん予選は上位通過したんだけど、イマイチ本調子でないらしい。イヤ〜ン、がんばって〜!・・・失礼、ごほんごほん。

B組には波乱がありまして、2011テグ王者のウィリアムズが予選で姿を消しました。2012ロンドンの王者ユコフ(ロシア)は、2位通過なんですが、こちらも調子はイマイチっぽいです。自分の試技の合間にはぶっといサポーターを巻いているところからも、腰に不調を抱えているっぽいし、うーん、シロート目ですが、体が重そうに見えるんですよね。

このユコフは、棒高跳びのフッカーが第一線を退いた今、「'70年代白人ミュージシャン風アスリート」(白人、金髪のウェーブ長髪、真ん中分け、ごっつい系のイケメン、ヘッドバンドかバンダナしてくれると、なお良し)という私の大好きなジャンル(?)の第一人者なので、がんばってもらわないと困るんですよね(?)。あ、いちお、画像貼っておきますね。これがユコフです。

そしてこちらが、私の愛するかつての棒高跳び王者、オーストラリアのスティーブン・フッカー。

それで優勝候補の一番手はというと、ウクライナのボンダレンコ選手という人だそうです。初めて見た〜。23歳、いま伸び盛りの選手だそうで。確かにとても余裕がある、あと、長袖から始まって、一枚ずつ(?)脱いでいくのが面白かった。

バーシム君も、ユコフも、ボンダレンコを見ても、解説の人がダメ出しをするのが興味深い。跳躍も、投擲も、それからハードルなんかもそうだが、「物理的にうまくやる方法」ってのがあるから、客観的な視点からは分析ができるんだろうけど、当該種目のトップアスリートでも、大舞台でその理想通りに体をコントロールするのは難しいんだな〜と感じる。

●男子5000m予選
ちょ、佐藤悠基の入った2組、えらいレベル高くなかったですか〜ぶぅ。佐藤は11位に終わった。10000mでも棄権してしまったように足を痛めているらしい。この組には10000との2冠を狙うイギリスのファラーが出場、2日前の1万の疲れを2日後の5000の決勝に残さないために、今日はえらく力を抜いて着順5位までだけを確保したようだった。ケニアのチェルイヨット・ソイやベテランになったアメリカのラップと共に、ケニアのコエチという選手が上位に。19歳なんですって。でも、去年のロンドンでも一昨年のテグでも入賞してるらしい。トラック長距離にも、あちこち若手が台頭してきてますな〜。1組1位はエチオピアのゲブリウェト。おなじみアメリカのラガトも3位で通過。相変わらず強いのう。道中、5000mなのに、1500か?!つーぐらい、押し合い・へし合いしてて、ドン引きした(興奮した)。