『八重の桜』 第25話「白虎隊出陣」

およ? 
ドラマをろくに見てもない層から短絡的な理由でdisられる、というのは、大河クラスタあるあるなんですが(すげーネット中毒っぽい文章だな)、今週、八重を熱心に見てる人々の中で、見解の相違というか、わりと激しい議論が沸騰してたようで。放送終了後にTLを見ていて気づいたもので、全貌を把握するには至っていないと思うんだけど、ほぉほぉと拝見してました。

まあ、クラスタ内だからこそ沸騰する議論ってどこにでもあるんですよね。サッカーファンなら口角泡を飛ばして小一時間は語れる問題でしょうが、関心のない人にしたら、日本代表のFWに前田が使われようがハーフナー・マイクが使われようがどっちでもいいし、ましてフォーメーションが4-3-3だろうが3-4-2-1だろうがお好きにどうぞって話です。「それで勝ったの? 負けたの? あらー残念。やっぱり決定力不足なのかしらね」ぐらいの感想しか出てきません。好きだから、いろいろ語りたいし、細かい趣味嗜好や、もっと進んで“べき論”みたいなものもあって、ぶどうの房が大きいのや小さいの、種がいくつも入ってるのやそうでないのがあるように、クラスタ内のひとりひとりによって違うんですよね〜。

ついに始まった会津戦争の展開に求めるものがそれぞれなのも、そういう話で、しかもここまで半年近くかかっているから、いやがおうにも期待しちゃったり、あるいは、残りの回数をカウントして不安になったりしますよね。

特に維新前後の会津史、東北史に詳しい方は、「東北戦線だっていうのに、あの人も出ないしこの人も出ない。あの戦いもこの出来事もナレーション無双、ましてスルーだなんて!」と憤っていたり、太政官総督府などを含めた俯瞰の視点が弱くなっていることや、史実とはだいぶ趣が違う、といった部分に疑問を呈しているようです。

私は最近もおおむね脚本演出肯定派でして、「今週も超面白かったな! 来週ついにだな!」と震えような気持ちで見終わったものであります。列藩同盟の諸藩の動きとか、それぞれの戦いの描写とか、いろいろできればもちろん面白いだろうと思うけど、いかんせん、尺ってもんがあるので。描写の軽重のおき方に私は満足しています。

京都守護職とは何だったのか」 「討幕派と慶喜会津」 「なぜ、会津は戦争を避けられなかったのか」 「戦争によってどのような犠牲が発生したのか」 「銃で戦う主人公の行動原理」 「主人公の周りの交誼交情。家族、夫婦、友人、主従」などがドラマの大筋で、その流れを汲んで、今後数週は「主人公はどのように戦ったのか」に力点が置かれるはず。

戊辰戦史を詳細になぞるのが目的のドラマではないので。あの○◆の戦いで指揮官の▼×がこういう動きをしたから…みたいな戦況や戦略の詳細を検証して、「逆にこう動けばあと1か月はもったかも」などという理解を視聴者にさせることに(その尺のために他の部分を削っていくことに)大きな意味があるとは思えません。地図で各隊の進路など示しながら大まかな戦況を説明する今のやり方、オーライ。

新政府軍は(江戸から離れたところで)戦争をする必要があったし、会津は苛烈な士風のうえに首脳陣が無策のまま戦争を始めたのだから、敗北が続くのは、やんぬるかなです。今の描写で、戦火が迫りくる緊張感や、実際に戦闘した人々・家族の痛みはじゅうぶんすぎるほど伝わっています。二本松の少年たちや白虎隊を美談にもしていないと思います(美談と捉える人もいますが、それは受け手の感性なので仕方がないのです)

なるほど私も歴史描写が雑な大河(これまでで言うとあれとかこれとか…)は好みませんが、大河ドラマにおける歴史描写は究極的にはディテールです。ディテールを細かく積み重ねるからこそ、時代感覚にのっとったものであれ、あるいは時代を超えた普遍的なものであれ、ここぞというときの人間ドラマがズシンと響くのです。ディテール優先ならばそれはドラマではありません。

だから、会津軍にあって随一の善戦を続けている日光口の山川大蔵が、善戦ゆえに、今、ドラマに登場できないのも仕方がないのです(苦笑)。今週はついにOPクレジットからも消え失せていて涙がちょちょぎれましたが、本人も納得していると思いますwww 

かろうじて本編では名がコールされ、“鬼の官兵衛”のキャッチコピーも定着してきた佐川官兵衛とともに家老に昇進。これ、非常時における苦し紛れの人事でなんかダメっぽいよなーという感じが醸されてましたよね。まあ、うまくいけば剛毅果断ってことになるんだろうけども、佐川本人も、栄誉に打ち震えるってことはなくて、「えー 今ぁ?」みたいな微妙な顔つきをしてたのが印象的でした。先輩家老たちがまた、「有難く思え」だなんて、むちゃくちゃ恩に着せるんですよね。

しかもこの先輩家老たち、先週、頼母をあれだけ罵倒してたけど、いざ戦に望むとホント無策で、実務的にはまったく機能してません(泣) これまで家臣たちを矢面に立たせてきたのだから今度こそ、と容保が張り切るのはわかるんだけど、ホントに全部容保が指揮してて、土佐や神保からは何の献策もない(泣)。さすがにこのあたりは史実と離れているのではと思いますが、この創作で描かれる会津の詰みっぷりには、ほんと胸つまされます。

ナレーション(誰かの説明ゼリフだったかな?)であっさり母成峠を突破されたのち、猪苗代城でも敗走。このあたり、電話やメールがある時代ではないので、情報伝達の速度がまちまちだったりで、ほとんど時間差なく敗北の報が届いたり(つまり敵がすごいスピードで進軍している感がある)、戦術の定法である「橋を落として進路を絶つ」が頑丈な石橋でうまくいかない様子が伝えられたりと、短い時間でよく緊張感が出ていたと思います。

たまりかねた容保が滝沢本陣とかに出陣し、さらには本陣の兵を割いて援軍を…と指示すると、「もう白虎隊しかいません」ということになる。懊悩からの「ええい」とばかりに決断する容保の表情…すごくカッコ良かったです…カッコ良けりゃいいってもんじゃないんですけど…。

ここの容保の描写は凄かったですね。「自ら決断した」ことを表情でわからせ、B作をして白虎隊士たちに「おまえたちは正規軍」と鼓舞させて、「手づから割いた」白布を配ったうえに、直接「武運を祈る」と声をかけたのと同じ口で「籠城戦を」とB作に指示する…無事に帰ってこないことを覚悟したうえで出陣を命じているわけですよね。もう、ほんと、カッコ良けりゃいいってもんじゃないよ?!て言いたいですよね。情け深く責任感の強い、もちろん上への忠義心も強い、良いお殿様なのです。平時であったなら。もう、今は容保自身、何のために戦っているかわかんなくなってる感じですよね。とにかくズブズブと底なし沼に足をとられているような…。

出陣の命で栄誉に沸き立つ白虎隊の描写は先週の二本松と同じです。けれど、雪の季節を目前にした嵐の中で野営となれば、年端もゆかぬ少年たちゆえ、たちまち心細くなるのは当然のこと。ていうかこの時点で兵糧もないのかよ!と驚愕。あの、年長っぽい人(日向内記ですね)が隊を離れていったあとの視聴者の不安といったら! そこで始まる、おしくらまんじゅう…なんという描写…もうやめてェ…ウワーン・゚・(Pд`q。)・゚・  あ、勝地涼が凛々しくもちゃんと少年に見えてびっくらこいとります。

会津戦線に出張してきてるのは相変わらず反町隆史加藤雅也なんだけど、赤いモフモフと白いモフモフが共に似合わないうえ、たくさんセリフがないとどっちがどっちが一瞬わかんなくなる(方言で判断してるから)!! 板垣が、「急げ、急げ、急がんと、ぶったぎるぞ! ぶったぎるぞ!」だったかな。ものすごい言葉で叱咤しながら兵を進ませているのが迫真でした。雪が降る前にどうしても…と、この人たちも必死だったんですよね。はるばる命がけで遠征してきてるわけで。 

将みずからなりふり構わぬ、という表現がぴったりの新政府軍に対して、容保の出陣は、緊迫しているものの荘厳そのもの。ここで、スイーツ大河ならば、容保と照姫とが何ぞ感動的な言葉を交わすか、百歩譲って無言でも目と目で会話するもんところ、美しい義姉を一顧だにせず去ってしまうのは流石でした。そして、楚々とした風情で見送りながらも、傷病兵の手当や塩の備蓄の確認などをテキパキと指示する照姫の実務能力に超期待が高まる! 

てか、このときの照姫の着物、その着こなしがサイコー! 数日前、「あさイチ プレミアムトーク」のゲストが宮本信子で、「あまちゃん」の夏ばっぱの衣装コレクションを「アド街天国」ふうにやってましたが、あれ、照姫バージョンもお願いします! あ、できれば容保も! ケーキ公は「血も涙もないセリフ集」でお願いします!!

閑話休題。見送る照姫のそばに控える貫地谷さんがチラッと弟の名を呼んでましたが、こないだ貫地谷さんと共に戦死者の冥福を祈っていた斉藤一がついに会津に惚れた宣言!! 戦線をさらに北上する土方と別れることになりました。「生死を共にした仲間を見捨てるのは士道に背きます」おおぅ…これは新選組隊長らしいセリフ…士道の一言で本気を悟った土方、先般、「刀の時代は終わったな」と呟いていた土方に、「刀で戦う」と宣言する斉藤。ちょちょちょドラゴンアッシュがかっけーんだけどーーーー! 土方の「俺は俺の戦いをする」というのも、あっさりした描写ながら、勘所を押さえてたと思います。果たしてこのあと、土方−榎本のタッグ@函館は、映像で見られるんでしょうか。

それで主人公まわりなんですけど…きたね、ついに、来ましたね。男たちの出立のときからサイコーでした。ここでも考えようによっちゃ悠長に豆とかクルミとかで出陣の儀式をやってるんだけど、そのときから既に、八重さん、顔が、顔が! 明らかになんか胸に期してます。笑顔の綾瀬さん、けなげな綾瀬さん、はらはらと泣く綾瀬さんよりも、怒りの綾瀬さんに今は釘づけです。怒りが表面的じゃないんですよね、ものすごく深くて。

「私も一緒に行く!」と鉄砲の腕を自負しまくりの主人公。当然、却下する両親。ここで注目なのは、そんな八重に一言の声もかけない尚之助ですよぉ(泣)。そもそも、八重のほうも、親父の許可を願うばかりで尚之助に目もくれない(泣)。以前、「死ぬかと思ったよ〜〜死んだら嫌だよ〜〜たった一人の旦那さまだもの〜〜〜」と泣いて抱きついていた城下の火事の夜も、今は昔。旦那様、今回のほうが明らかに死ぬ可能性高いのに(泣)。旦那さまやお父さんに死なないでくださいねとか立派に戦ってくださいねとかううよりも、自ら銃をとって戦いたい気持ちの方がずっと強くて、きっと、その結果死ぬことを辞していない。

そしてそんな八重を一言もなく見ているだけの尚之助。普通なら、夫たる彼が真っ先に止めて、常識なしの奥方を叱るべきなのです。彼にはそれができない。夫だからこそ、彼は八重の怒りの深さ、戦いたい気持ちの強さがわかってしまっている。三郎が死んだあと、八重が銃をとって走り出したとき、あの場は発作的な行動だったから止められたけど、あの慟哭を、彼は体で受け止めたわけで…(ちなみに大蔵も聞いていたのはやっぱりきっとのちのち意味があるはず…)。「本気で言い出せば止められない」ってことも、「今の八重に自分は眼中にない」ってことも、ありのままの八重を愛して妻にした尚之助には、わかっているんだろうなあ…。どーでもいいけど、髭の薄さが先週のままにキープされてて、たまんないんです…

たぶん、ドラマ的に、まさかあれきり二人が別れてしまうことはないと思うんですが、尚之助に思いを馳せるとなおさら痛い出立シーンでした。そうそう、お城に上がる権八父さん、いらないものは整理しようって言いながら、ちび八重が書いた鉄砲の絵を、懐に入れていったのよね…そして尚さんはそれを見ているのよね…いろんなことを見てきた尚之助さんが今後選ぶ道やいかに…(泣)

ついに女子にも登城の御触れが出て、下働きの人々との別れ。この愁嘆場が長いって批判がけっこうあったみたいだけど、まあ、タメだったんですよね。八重さんの武装の。それにしても、みんながみんな、ああだったとは思いませんが、山本家にしろ山川家にしろ、女子なぎなた隊を結成してた中野さんたちにしろ、いざというときの肚のすわり具合がすごい。ああいう精神性があるからこその特権階級というか、「武家」ってやっぱりひとつの人種だったんだろうなーって思えます。お暇を出す時にいくばくかのお金を渡すのはお約束だけど、「もう持っていても使い道ないから」ってセリフが凄かったなあ…。

こうして思い出して書いていると、今週はほんと、嵐の前の静けさのようでいて、ものすごく秀逸なセリフや描写が多かったと思います。頼母と千恵さんとの別れも、一言もないのに「おおぅ…」ってなりましたもんね。あそこでちょっと笑うのが、頼母(の中の西田敏行)らしくてまた良かった。

で、登城の準備に追われてる中、着々とコトを進める八重さん。あの昂揚はもう、言葉では書き表せない。あれぞ映像の醍醐味でした。簡単に「つくりものだから」と割り切れない、シビアなドラマなんだけど、これからもつらい現実が待っているのもわかっているんだけど、でもやっぱり、あそこで「キタキタキタキター-----------!」と、ならずにいられなかった。三郎の軍服、たぶん動きやすくするために、両袖をビリッ!と破り捨てるんだけど、その袖に南天の刺繍が入ってるんだよね…! 

あ、今週のあんつぁま。ご病気で、お弟子さんの腕の中でふるふる震える姿をじっと西郷に見つめられてました。あのまま西郷さんに何もかも差し出すハメになってもおかしくない(違)!! 以前、医者に見せろといっておきながら、その後も劣悪な牢に留め置いていて、今また…ってのはちょっとご都合っぽいんですが、あっちもこっちも大変なんで、まあいいです。西郷は、「私怨で始めた戦じゃない」とハッキリ言ってましたね。先週、春嶽に「私怨でやってるだろ」と図星をさされてムキになってた木戸とは対照的な描写でした、これは明治後の布石のひとつでしょうか。まあ、西郷さんが戦の落としどころを探り始めたとはいえ、会津戦争は来月もまだまだ続きます…!