卯月の六

●4月某日: 明日関西に引っ越すさやちゃん親子と公園で遊ぶ。昨日母に買ってもらったパンが家でだぶついていたのでもっていって、昼どきに一緒に食べる。子ども用、親用とそれぞれジュースをいただく。家にはイチゴもだぶついていたので、一口大に切って持って行っていた。サクはイチゴ…というかくだもの全般を食わず嫌いする不届き者であるが、「これ、よく熟れているし、けっこう甘いぞ」との夫の証言も手伝って、もしや…と一縷の望みをかけたのがドンピシャ! サク、おいしそうにモグモグしているさやちゃんを見て、最初はぺろぺろ、やがてついにパクリといったのだ(註:エロ描写ではありません)。今日がサクのイチゴ記念日〜! 

別れ際、ごきげんの悪いさやちゃんの手を、サクが両手で包み込むように握って、「ふわふわ〜」とか言ってニッコリすると、さやちゃんも笑顔に。その様子に、繊細な感受性の持ち主であるさやちゃんのママがみるみるうちに涙ぐむと、私もこみあげる涙を押さえることができず。シャイなさやちゃんが、なぜかサクとだけは仲良く遊ぶのを、さやちゃんのママはいつもすごく喜んでいて、それだけに、今回、簡単には会えなくなることをすごく悲しんでいる。私ももちろんさみしいが、新しい土地で一から始めるさやちゃんのママの不安は想像に難くなく、けれど、子どもは強い。大好きなパパとママがついてるのだ(しかもおばあちゃんちも近くなるとのことだし)、引っ越した先でも愛情を受けて元気に暮らし、新しい生活に順応し、またお友だちもできるだろう。そしていつしか、サクもさやちゃんも、お互いの記憶は薄れていくんだろうけど、私たち親の心の中には、いつまでもこのころの、小さな仲良しのふたりの姿が残るんだろうと思う。私の母も、今でも折につけ、私が幼いころの遊び友だちの思い出話をする。自分としては、幼少期よりも10代以降の友だちのほうが記憶に新しいし付き合いも深いものだから、「またその話か」と鬱陶しいくらいなんだけど、母が時々、思い出の宝箱をあけて懐かしむ気持ちに、これからは寄り添おうと思う…(こういう殊勝な気持ちは、たいてい、いざ母を目の前にすると、吹き飛ぶものである笑)。

●4月某日: 朝、「きのう最後にさやを無理やり連れて帰ったのがどうも気になっていて」と、さやちゃんママからメール。自分に子どもがいないころだったら、こういうの、「なんとセンシティブな」と驚いていたであろうが、今はその気持ちもわかる。聞けば今日の出発は夕方だそうだし、こちらも特に予定はなかったので、今日もまた午前中めいっぱい遊ぶ。別のサークル活動のために、公民館近くの公園には育児サークルメンバーも何組も来ていて、いろんな人とお別れをするさやちゃん親子。当該サークル活動の時間になると公園にはまたサクとさやちゃん…になったかと思いきや、「明日から1年生です」という女の子ふたりが激しく遊んでいるのにすっかり魅せられて、ギャフギャフ騒ぎながらひっつき虫になるサク。お姉ちゃんたちは、半分じゃまにしながら、半分かまいながら遊んでいるという感じ。さやちゃん…ごめんよ…おうどん屋さんでお昼を一緒に食べて、さやちゃんの家の前でサヨナラ。別れ際になると、楽しげだった表情をやはり一変させるさやちゃん。2歳とはいえ、パパママと一緒に新居を探して回ったり、今の家の荷物が梱包されていったりを体験しているから、「遠くに引っ越す」「会えなくなる」ということを理解しているのだ。ママたちは明るく別れようとしているのだが、やはりただならぬ雰囲気を発しているらしく、ついにさやちゃんと別れたあと、サクまでが切迫した調子で「さやちゃん どこいった? どこいったの?」と連発。「おうちに帰ったんだよ」と説明するも、しばらくは、どうも納得いかない様子だった。

お店ではさやちゃんとふたり、はしゃいでいて、あまり量を食べなかったので、帰宅後、アンパンマンパンをあげてみると、あれよあれよという間にスティック状8本入りを完食。ヲイ。夜は、鰯煮つけと豚汁がメイン。「花冷え」という言葉があるが、あ花も散り去って、はや、葉が繁っているというのに、この寒さ。メニューも冬みたくなるってもんです。