大河ドラマの視聴率問題を考える(下)

・・・結局は、見解の相違、価値観の相違、蓼食う虫も好き好きって話だったりするんですよね。視聴率計測器がついているような標準家庭で、日曜8時にリアルタイムのお茶の間でテレビを見るとき、「イッテQよりも大河ドラマが選ばれる」理由って少ないんでしょう(苦笑)。人が死んだり悲劇が起きたり登場人物の名前や関係がごっちゃごちゃになるよりも、イモトさんや宮川さんが世界の大冒険する姿を見るほうが痛快で面白いんだよね。

思うに、世の中はだいたい、次の3種類に分けられるといって過言ではないのではなかろーか。つまり、「頭を使うのが結構楽しい」人と、「いま現在、(特に)日曜8時に頭を使いたくない」人と、「頭を使うのはそもそも嫌い」な人。篤姫あたりは真ん中どころか後者にまで触手を伸ばしてたんでしょう、そのかわり、前者には不評だったりしました。今年は、イケメン攻勢やラブラブロマンスで後者にも訴えていますがその効果ははかばかしくなく、どーも頭を使う部分によって忌避されているようです。あ、この場合の頭ってのは、「頭脳」はもちろんですけど、「感性」、「感情を強く揺さぶられること」も含んでいます。

そして、いくら機器が発達しても、後者の人が大河ドラマを録画することはありません。かつて、日曜8時の民放にとりわけ見たいものがない場合、大河ドラマにチャンネルを合わせた人だって、今はそんなとき、「自分が録りためている別の番組」を見るかもしれない。私が平日夜に「あまちゃん」を見ているように…。タイムシフト視聴って、便利ですばらしいけどおそろしいですね。興味のないものは、絶対的・半永久的に断固として切り捨てられてしまうわけですから。

それでは、このまま「視聴率がふるわない」場合、どのように「根本的に見直す」のか? もちろん、視聴者の支持が低いものを作り続けるのは難しい側面があります。

テレビ番組の評価基準として視聴率(どれだけのマスが見たか)が圧倒的な力をもっているのは理不尽ですが、それなりに理由はあるんだと思います。映画や小説、漫画の場合、「見たい(読みたい)ものを、それぞれがお金を出して買う」ものだから、自分の好みと違ったり、少数の支持をしか得ないコンテンツに対しても、人は鷹揚になれるということ*1

地上波のテレビはそうではなく、タダで提供されるから、あるいは受信料を払うから、人は簡単に「もっと多くの視聴者に見られる番組を作るべきだ」と言うわけです。また、かつて「お茶の間で見るもの」という前提があったように、その成立時の歴史からいって、映画や小説に比べて、芸術性よりも大衆性が求められるメディアであることも、視聴率偏重に傾く一因でしょう。連想ゲームも、正月のかくし芸も、時代の流れとともに支持を失い、消えていきました。

ただし、NHK大河ドラマ(のような歴史ドラマ)をいきなり完全にお陀仏にするとは思えません。Eテレの子ども番組や、ハンデキャップを持つ人(やその家族)のための番組、外国語講座などが、視聴率いかんにかかわらず存続し、内容にも工夫が加え続けられているように、「自国の歴史を扱うドラマが国営放送から消えていいはずがない」ぐらいの良識はあるはずです。

なんのかんのいって、大河ドラマを作れることはNHKのプライドなんじゃないかとも思います。だいたい、NHK大河ドラマ(や時代劇)のための専門スタッフを多く抱えているし、何十年にもわたって時代劇のノウハウを積み重ねてきているわけで、それらを簡単に手放すことはないでしょう。現実的には、規模を縮小するぐらいが関の山なんじゃないでしょうか。

具体的には、

  • 枠の変更。日曜8時から、よりディープな曜日・時間帯へと移動
  • それに伴って予算を縮減
  • 一年間というロングスパンも短縮
  • あるいは複数回シリーズのスペシャルドラマ化?
  • スイーツ/ライト層向けの新枠創設

そして、これらの前提として大河ドラマの看板をしまうってことですかね。

てか、考えてみたら、 「政権を握っているから倒されるのだ。返してしまえば討たれるいわれはない」と同じ話じゃないの、まさにまさに。大河ドラマと銘打っているから叩かれる。そこらのドラマだったら、10%ぐらいであそこまでけちょんけちょんにされることないでしょ。って去年の清盛の話よ。あの集中砲火っぷり、どう考えてもイジメ入ってたでしょ、大マスコミさんよぅ。

こうなったら大河ドラマ大政奉還だ! 日曜8時じゃなくても、1年間じゃなくても、いいよ、もう。その都度、放送されるものが面白ければ。迷作/駄作を一年間放送されるとつらいもんあったしね、これまでも。もちろん、大河ドラマという大看板をおろすことで失われるものはあろうけど、当局が吟味を重ねて決断したことがきっと最適解なのだ。およそこの世で変化を免れ得るものなどないのだし(とそこまで壮大にする話ではない)。

ちなみに、こういった試みは、過去にもなかったわけではなくて、やはり「政宗」「信玄」などのお化け大河の余波がおさまり視聴率が低迷した1990年代はじめごろに、子会社委託大河・6か月(9か月)短縮大河が作られましたよね。しかしいずれも打開策にはならず、「吉宗」からまた王道に戻った経緯があります。そういう歴史がね、また繰り返されるのかもしれんよね。

意外に、スイーツ回帰はしないんじゃないかと考えています。スイーツだってよっぽどうまくやらない限り視聴率がとれないのは、この数年で身に染みたはずですし、視聴率はとれないわ、内容が低脳呼ばわりされるわじゃ、泣きっ面に蜂ですからね。GOとかさ〜、作ってる間、役者もスタッフもつらかったと思うよ。「坂の上の雲」だって「八重」だって、大人が見るに堪えるドラマとしての評価を得たのに、そこで得た視聴者を手放すのは愚の骨頂ではありませんか。

そう、視聴率偏重とは言いながらも、ネット、SNS等のおかげで、評価の仕方・され方ってずいぶん変わってきた面もありますしね。見る側も、自分ひとり(や数少ない家族友人等の同志)のモチベーションだけで、一年間続くドラマを見るのは大変でしたが、今や、放送中の実況や、放送後のSNS、ブログ巡りがあるから見続けられたりするわけです。

今秋には、ビデオリサーチが録画率の公表を始めるという話もチラッと聞きました(ソース不明)ので、それが援護射撃になるといいなと思います。ちなみに、「八重の桜」はBS視聴率が今のところ最高4.8%(八重尚の祝言回。8時を待ちきれなかったおまいらwww)、録画率は6〜7%あるとか(ソースの信ぴょう性はわかりませんが)。

それに、「歴史秘話ヒストリア」「タイムスクープハンター」「BS歴史館」「戦国鍋TV」など(あれ?最後はテレ東かww)、ライトな歴史番組で間口を広げる努力も続けられています。なんのかんの言うて、歴史に触れるチャンスはいろいろあるんですよね。歴史で町おこししてるとこもたくさんありますし。友人が、上田あたりでは、「石を投げれば六文銭モチーフにあたる」と言うてました(嘘です大げさでした)。案外、「歴史にドキリ」あたりが、今後の大河を下支えしてくれたりして(笑)

「TOU-BAKU by 西郷隆盛木戸孝允」〜「歴史にドキリ」より。獅童グッジョブ! お正月にやった「ロワイヤルスペシャル」では、卑弥呼から小村寿太郎まで、20人の偉人に扮しての歌と踊りが放送され、一部で異様な熱狂を生んでいましたww

もうひとつ、こちらは「戦国鍋TV」より。「錦_幕×JAPAN」(バクハツジャパン)。まさに今ココ!

というわけで、やっぱりあんまり悲観することはないんじゃないか、という結論になりました。てか、こんなに楽観していられるのも、去年、今年と面白い大河が続いているから。特に今年のこれまでの出来にはほとんど感服しています。いやあ、いろんな(と含みをもたせる笑)大河がありましたが、ついにこんな秀作が(と、袖で目元を拭う)。大河好き、歴史好きのみなさんおめでとうございます。今はただ、ただただ、毎週放送されている、近年もっともすばらしい(かもしれない)大河ドラマ「八重の桜」を固唾をのんで(且つ、ニラニラしながら)見守りましょう! そして来年の脚本家がんがれ。超がんがれ!

*1:とはいえ、映画界、出版界においても、いかに「売れるものを作るか」という命題に作り手・送り手は悩まされており、「(価値ある内容であっても)売れないもの、少数派のもの」がいかに淘汰されていっているかは、よく耳にするところです