大河ドラマの視聴率問題を考える(中)

大河ドラマはといえば、こちらも好調です。昨年の清盛、今年の八重と、二年連続で面白いのです。ええ、ご存じのとおり、清盛は大河ドラマ史上最低視聴率の名をほしいままにし、八重もそれに負けじと迫っています。それでも、私としては楽観的にかまえている部分があったんですよ。

それが、先日、“NHKの中央審議会における質疑応答の議事より・・・”ていうツイートがTLに流れてきましてね。

Q: 総合テレビのドラマ視聴率が落ち込んでいる。枠があるから無理して作っている「大河ドラマ」は使命を終えたのではないか?
A; 昨年1年間、視聴率が振るわなかったことは事実であり、「大河ドラマ」は今年、来年と視聴率が悪いままであれば、根本的に見直さなければならない事態になると思う

ですって。もう、びっくらこきまくりですよ。超ドン引きですよ。これが当局の公式見解なわけ?! バカなの?ねえバカなの? アホの子なの?

この回答を見ての疑問は

●「早盛」「早桜」(18時からのBS放送を見ること)や、「録盛」「録桜」分を加味することは、NHK的には意味ナシなのか? 日曜20時地上波をリアルタイムで見てほしいと思っているのか?
●あるいは、加味してもなお、「視聴率は低い」という認識なのか?
●合格ラインはどこだというのか?

つーか、究極的には、「なんのために大河ドラマをつくっているのか?」ってことですよね。

や、民放でないからといって、視聴率をまったく度外視した番組作りは、やはりできないだろうと思うんですよ。国民から受信料を募っている以上、国民総スポンサー、みたいなものだもんね。だけど今の時代、一年間コンスタントに毎年25%とる番組とかありえないですよね? そして、民放で視聴率をとるドラマは「相棒」「ガリレオ」「家政婦のミタ」ちょっと遡って「JIN」…。それらが悪いとはいわないよ?面白いよ?私も見たりするよ。だけど、NHKがそれ作ってどーする、と思うよね。

数字がちょっと悪いからって外野がやいのやいの言っても、局側は、作品の内容や客観的評価を冷静に分析していると思ってたんですけどね。

と、読んだときは怒り心頭だったんだけど、数日考えてみて(ヒマ人)、ちょっと考えが変わったかも。あの回答は短いだけに「視聴率偏重=内容度外視」みたいなミスリードを誘われてしまったのかも。

確かに、いくらBSとか録画とかのカラクリがあったからって、去年の視聴率が高いものだったとは私も思ってないんですよ。それどころか、確かにひとケタを連発するようになってからは、結構つらかったですよ。そして、擁護すべき点はたくさんあるし、一年間楽しませてもらったけど、「平清盛」には大衆に避けられる要因があったし、避けなかった私のマニアぎみな視点から見ても、物足りなかったり、「これはいただけないな〜」て部分もあった、とも思ってるんですよ。

で、NHK…というかドラマスタッフは、そういうのを的確に分析し、生かしてるとしか思えなかったりするんです。「八重の桜」を見てると。「八重の桜」には、清盛の美点を生かし、弱点は注意深く排除しようとしているように見える。

良さ、というのは、さらに前作である「江」etcのダメダメだったところでもあります。すみずみのキャラクターまで描きこむこと。場当たり的な話を散発して一年間やるのでなく、長い筋のある作劇であること。現代的価値観(戦はイヤだなど)に走らないこと。美しい美術、扮装、撮影方法。たとえば和歌や古語や歴史的資料、エピソードを原文に近い形でドラマに盛り込むこと、など。

清盛の弱点として、やっぱり出だしのイメージ戦略に失敗した部分はあると思うんですよね。「暗い」「汚い」「インモラル」「難しい」イメージで避けた、あるいは躓いた視聴者は、実際に相当数いるはずです。で、そこは問題なく…というより嬉々として受容した私なんですが、一年間を通して見ていると、物足りなさを感じたり、閉口した部分があったのも事実です。

「八重の桜」は、ことごとくといっていいほどそのあたりをクリアしています。なんたって主役は綾瀬はるか。高視聴率ドラマ「JIN」にて、日本人好みのけなさを遺憾なく発揮した実績があります。てか「桜」って時点で日本人心をくすぐる。初回の感想のひとつとして「画面がきれい」の一句が席巻しました(くっそー)。これまでのところ繰り広げられている、会津に対してすら硬派な視点も貫く骨太な歴史劇と、人情味あふれる人間ドラマ。大人は大人の強さと優しさを、少年少女はそれらしい無邪気さとかわいらしさをもち、エキセントリックには走らない演出。そして満開のロマンス。

これらは、どうしても、清盛のアンチテーゼをいっているんじゃないかと。いえ、清盛の、そういった「異色さ」が一部に熱狂的ファンを生み出したのであり、私もその尻尾にぶらさがる一人なんでしょう。けれどそこが視聴者を選んだことは否定できません。八重はそのあたり、「人にはいろんな趣味があるけれど、どんな人にもたくさん見てもらいたい」と周到に準備したふしが見受けられますし、その姿勢をさもしいだなどとはとても思えません。なんたって復興支援を掲げているわけですし、てかそれ以前に自分自身、八重を隅から隅まで全方位的に楽しみ尽くしているww

去年の分析を今年に生かした。今年の内容や評価もまた、精査して鋭意来年につなげる。そうやって、「作品価値を高める努力を重ねたうえで」なお視聴率がふるわなければ根本的に考え直さなければ、と、NHKは考えているのかもしれない。それは至極まっとうな回答かもしれない。

現実問題、今年も視聴率は(少なくとも地上波を見る限りでは)ふるっていません。がくー。こんなに面白いのに。こんなにイケメンパラダイスなのに。こんなに視聴者サービスを怠っていないのに。うっうっう。

なんか「難しい」そうです。「地味」で「暗くて」「主人公が活躍しなくて」「鬱展開」なんだそうです。うむ。むしろ私なんて、それらを悉く、むしろ美点と捉えてるんですがね。「見ごたえある幕末史」「軽薄でない」「落ち着いている/大人の鑑賞に堪える」「主人公が出しゃばらず好感」「鬱展開…だけじゃないもんねッ!」て感じ。

だいたい、私は勤め人時代にも会社の「歴史研究会」に属していたからして(と公称するだけでたいした活動はなかったが笑)、そもそも、歴史知識をよりあまねく普及につとめたいという気持ちがあります。ええ、高校で日本史が必修でないなんて、ゆゆしき問題だと思ってます。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」的アレですよ。歴史の知識は雑学やトリビアなんかじゃない。過去を知ればこそ、現在を大切にしようと思えるし、未来をよりよくしようと思えるわけです。信長と義経と龍馬だけが歴史の英雄ではないぞ。…おっと、思わず熱くなりました。

とまれ、子どものころには英雄/ヒロイン史観でしか見られなかった歴史を、大人になったからこそ、大きな目線で俯瞰したり、隅々まで見つめたりすることもできる。夫婦や親子や主従の情にもより深く感情移入できるし、歴史の世界にも政治や経済があり、実務があり、雑務があることを面白く感じられるはずです。実際、去年も今年も、「昔から歴史が好きだったわけじゃないけど、面白ぇやん大河!」と参入してきた人も見受けられます。うれしい限りです。大河ドラマはいつでもあなたを待っています♪ (つづく)