『八重の桜』 第17話「長崎からの贈り物」

もうすぐ始まる会津戦線を視聴率アップの起爆剤にしようという企業努力か、あちこちで番宣を見るんだけれども、なんてったって負けに負ける戦争だから、むしろ宣伝すればするほどお客さんが逃げていくんじゃないだろうかと心配しているエミです。こんにちは。

いっそひらきなおって書いておくと、5月下旬に朝敵認定で、6月、7月と戦争は続き(毎年この時期に盛り上がる題材もってくるのが大河の定石ですからね。去年でいったら保元平治)、戦後処理まで含めて、大河史上最大の鬱展開が繰り広げられる可能性大です。もう、「ついてこれる奴だけついてこい!」ぐらいの態度で宣伝すべきなんじゃないですかね。さすがの大河の猛者(って私のことですよ。猛烈に恥ずかしいけど時々書きたくなる・・・w)でもガクブルしてますよ。

それにしても今週もとても丁寧な筆致で書かれたすばらしい脚本で、こんな丁寧なドラマは流し見したくないから録画で見る派は多いはずだから視聴率が低いのも逆にうなずけるんですが、もし録画率も低いのだとしたら本当にもったいないことですね。なんとなく「破滅に向かって突き進んでいる」というイメージゆえに、「現実の生活が大変なのに、フィクションでまで暗いの見たくないよ…」って気持ちで避ける人が多いのもよくわかるんですが、毎週見てると、そんなに暗さは感じないんですよね。むしろ萌えたり悶えたり大笑いしたりしているし(腐)、歴史に対する硬派な視点がありつつ、人間に対してはすごく暖かい目線が注がれていて、本当にしみじみといいドラマです。萌えたり悶えたり大笑いしたりもできるし←しつこい

なんかの記事で指摘されてたけど、現代は「45分まじめなドラマを見る」耐性のある人間が少なくて、だから高視聴率がとれるのは、雰囲気でサラッと見られたり、簡単にカタルシスが得られるものか、朝ドラしかないんだろうと。本当にそのとおりですよ。で、先週は大河ドラマ「幕末史」制作について提言しましたけど、今週は、「大河ドラマの朝ドラ化」を進言したい。

いえ、大河の内容を朝ドラにするのには大反対ですよ(過去作にそういうものも散見されますが…朝ドラにすらなれなかった駄作もありましたが…おっとこの件を語り始めると長くなる…)。15分刻みで、金土日と3日連続で放送したらいいんじゃないでしょうか。朝ドラとパイを奪いあうといけないんで、夜、そうですね、22時くらいから? あ、従来の枠はそのままで、再放送を3夜に分けるって手もあるな。とにかく、今年は特に、良い意味で人間ドラマが朝ドラ的雰囲気を醸す部分もあるし、去年が毎週、一点集中!みたいな怒涛の盛り上げ方(清盛の蹴りとかエア矢とかww)をしていたのに比べると、全編が縷々と流れていく感があるので、15分刻みに適応しそうな気がするんですよね。

さてドラマの本題に入りますが(すでにちょっと書き疲れた)、アバンでは帝崩御の報に錯乱する容保さま。「嘘だ、今すぐ馬引けい、この目で無事を確かめに行く!」だとかなんとか喚いてくれちゃって本当にありがとうございます。この姿が見たかったですよね、全国の綾野ファンのみなさま♪ なんか、重盛とか容保とか見てると、「もうやめて、彼のライフはゼロよ!」とかツイ―トしつつ心の中ではキャーキャー歓声をあげてる、っていう、自分の中のS性の二面性を認識させられてコワイです(にっこり)。綾野さんは切なさ・はかなさなど、雰囲気を醸し出すだけでなく、こういう瞬発力を備えているところがすばらしいですよね(某ムカイリあたりと比べています)。

で、とにかく今日の内容は「帝が亡くなった」一点に尽きるわけで、その死がこんなにも歴史に影響を及ぼした天皇ってほかにいないかもしれませんね。だからこそ当時から暗殺説も囁かれたわけですが、その死の周辺について本編では言及なし。ただし、将軍家茂が病に苦しむさまは活写しながら、そめそめ孝明帝は臥せる姿さえ映さなかったわけで、いかにも唐突な印象を与える演出にはなっておりました。

なぎなたのお稽古が切り上げられたり、お鏡餅をしまったりと、遠く会津にも崩御の余波が届く演出、すごい。ちなみに八重さんはあの後もメイサ竹子に連戦連敗のようです。覚馬は長崎で手術を受けたようですがやっぱり失明宣告。ここ、「武器調達のために長崎にいた」的説明をテロップでさらっと出してましたね。こういうのってやり方が下手だと「視聴者バカにしてんのか!」的印象になるんだけど、この大河はほんとにスマート。

で、長崎といえばって感じで九州人にはおなじみのグラバー邸に行くんですが、この場面がちょっと面白くてね。伊藤俊輔(博文)とか村田新八とかが後姿で映されて、「ここはもう薩長の巣窟になってて入り込めそうにない」ってことで別の商人のとこに行くのね。俊輔、もう断髪してます。帝は崩御するわ自分の目は長くもたないわで、別の商人、レーマンのところで、持ち前の「短気は損気」を爆発させるあんつぁま(笑)。そしてすぐに反省してレーマンと親友になっちゃうあんつぁま(笑)。

ここ、良かったよねえ、「使えるのは目だけですか。私は五体のすべてをかけて殿にお仕えしています」云々の修理さまのセリフ。「五体のすべてをかけて」ってとこで去年の悪左府の「何もかもさしだしおった」をチラリと思い出してしまう己の腐れっぷりが情けなくなりつつも、この、覚馬の失明に関するここまでの描き方には感服ですよ。

並の脚本家ならウェット一辺倒の描写を続けたあげくにいかにも嘘っぽいポジティブさに転じて辟易とさせられそうなところ、もちろん恐怖や焦燥はありつつも、人前ではほとんどそれを見せずに気丈に振る舞い、また、赤ちゃんの匂いに微笑んだりする心の余裕もあるあんつぁまの強さと大人さ加減、周囲の人々の心遣いや励まし。B作の田中土佐の「なんで黙ってた、おまえの目は会津に必要だ」や、今日の古川春英の「世界中の書物を読みきれる人はいません」も良かったし、発破をかけた修理さま本人に、しばらくのちには「こんなときだけど、いったん帰国して娘さんに会ってきては」と言わせる脚本もすばらしかった。本当の優しさを描いてる。

あんつぁまの「落ち込むこともあるけれど、私は元気です」描写もすばらしい。新聞に触れて感嘆、ビール飲んでプハー、そして洋装コスプレ。これ、斉藤工さんがバタくさい顔の長身イケメンすぎて全然違和感なかったのが逆におかしかったです(笑)。あんつぁまは微妙に似合ってない感があってグッジョブ。

バタくさいといえば、今回、加藤雅也がINです。乾退助。龍馬でも中岡でも後藤象二郎でもなく退助っていう大河。新しいですね。「土佐には大酒飲みで頑固一徹の容堂公がおるけん無理やろうもん」と言う西郷に、「一か月たってダメだったら腹を切るまで」と答えるんだけど、「このバカ本気だな」って感じがありありと出ててよかったです。自由民権運動までやりそうなんで、この退助が「板垣死すとも自由は死せず」と叫ぶと、高潔さなんか漂わず、全然別の雰囲気になりそうで楽しみですね。

そしてモニカの西郷の大きさがもはやガクブルもんのレベル…。来週は反町@大山巌も投入されるらしく、「信長がふたりいる官軍に勝てっこない」ってツイートを見かけて笑っちゃいました。はっ。ミッチー@信長のシェフも入れたら3人じゃない!! ま、ミッチー信長には勝てそうな気もするけどな。あと、ごきげんようもいるけどな。

あっ、このタイミングであんつぁまが総髪に!! これは覚馬が新たなステージに突入することの象徴だと思うんですが、月代って藩士的にあってもなくてもどっちでもいいもんなの? 公用方だから?(秋月さんもなかった) なんかちょっと作中での言及が欲しかったなと思いました。あんつぁまは月代の似合いっぷりが異常だったけど、総髪もワイルドでステキです。

レーマンが異人立ち入り禁止の神戸まで来て、田中土佐が会いに行ったことを容保に報告するエピソード。良かったよねえ・・・しみじみ。厳格な殿の「よくやった」にホロリ。殿も家臣も、こんなにも会津を大事にしているのにねぇ・・・(泣)

にしたって、「余九麿」ってスゲー幼名だな。よくまろ。獅童が口にしたとき、脳内で漢字変換できんかったぞ。慶喜が7男で七郎麿。十一男以降は余一、余二と数えます。つまり、よくまろさん、19男ですよ! 水戸の烈公の子女一覧は壮観です。とにかく血の気の多い人だったんでしょうね。

さて、慶喜さんは余九麿くんの烏帽子親の役目を果たしてましたが(こいつから一字もらっても、なんかうれしくない)、神妙な顔もそこまで。これでやっと帰れる、と安堵して美しい義姉に手紙まで書き送っていた容保に「やっぱり帰るのちょっと待ってくんない?」といけしゃあしゃあと持ちかけます。ほんと、「いけしゃあしゃあ」って形容詞がこんなに似合う人はいませんよね。

会津殿は都を放り出されるのか?」と無礼な一言で相手の出鼻をくじき、新帝の外祖父・中山忠能のことなど持ち出して薩長の不穏な動きという理を説き、とどめは「先の帝のお志」。完全にケンカのやり方を心得てます。リーダーシップってこういうことを言うのね、と目を見開かされる思いです。「先の帝の我らへのご信頼」なんてよく言えたもんだ。帝が信頼していたのは会津中将ただひとりだし、まかり間違ってもオマエだけは信用できないwww

このシーンは非常に見ごたえがあり、そばに控えている田中土佐梶原平馬らの苦虫顔もドラマの格調を高めているのだけれど、何より、小泉孝太郎綾野剛とで大河の名に恥じぬ芝居が堂々と展開されていることに胸熱だった。だって、小泉孝太郎綾野剛とで大河の名場面ですよォ…。先だってはミッチーとモニカでやった薩長同盟もすばらしかったし、大河はこれで、あと30年は安泰だな!! 脚本さえしっかりしてれば! 

さて、会津にはあんつぁま@長崎からの贈り物が届きます。目には目を、歯には歯を、ガンオタには銃を。ってことで八重がスペンサー銃を手に入れました〜〜〜! 少ない出番でバンバン撃って喜んでる主人公ww 覚馬の字が乱れてるのを「よほど急いで書いたんだろう」って、そうですよね、そう解釈しますよね・・・(泣)。この贈り物が、覚馬からの心尽くしというだけでなく、「こんな銃を西国諸藩が大量に買っているなら、戦の火種はもはや長州だけではない」っていう不吉な予感まで運んできた、というのが脚本の妙。

江戸に留学する三郎を誇らしく送り出す家族たち(泣)。覚馬も、三郎もいなくなって、息子の嫁と、娘の旦那とを囲って一緒に暮らしてるんだなあ。昔の家族って、こういうことけっこうあったんだろうね。で、出発前の三郎の一言で、お城が丸裸同然であることに思い至る尚之助。「誰かが攻めてくんですか?」という八重の無邪気な一言もうまい。そうだよね。在所が誰かに攻められるなどと、誰が思うであろうか。そんな緊迫の後、「まさかついてくるとは…ぶつぶつ」の流れになるのが面白かった。近未来は読めても嫁の性分を読み切れていなかった尚さまバンザイ \(^O^)/