『阿修羅のごとく』 向田邦子

阿修羅のごとく (文春文庫)

阿修羅のごとく (文春文庫)

向田邦子、初体験。なんとなくその気になって図書館で借りた。なぜか緊張しながら読み始める。ぐっと入り込んで、一気に読んだ。読んだあと、ものすごくぐったりした。それもそのはず、連続ドラマのノベライズにあたるこの小説。7話分を続けて見たのと似た濃さだったのだ。いや〜映画や舞台化されてたのは知ってたけど、連続ドラマだったとはね。それにしたって、ものすごい展開の速さ、シーンの多さ、事件の数々。昔のドラマってみんなこうだったんだろうか? 読みながら、「こんなに大ごとになっちゃってるのに、まだ全体の1/3?!」「まだ半分?!」とたびたび驚愕してたよ。

登場人物はやたらと不倫してるし、いい年した4姉妹の心配事は色恋ばかりだしで、設定やあらすじを書けばけっこう閉口しちゃうような話なんだけど(これまで、気になりつつ手が伸びなかったのもそれが理由)、実際はそれほど嫌悪感なくスラスラ読めた。会話もそうだし、ちょっとした仕草や反応まで、いかにも女同士、いかにも姉妹、いかにも夫婦、いかにも親子…というリアリティがあって、まるで目に浮かぶよう。しょうもない無駄口も、口汚い憎まれ口も、真理を突いた鋭い一言も、涙と共に発される叫びも、すべてを「同じ重量」に書いている感じが印象的。女のお喋りってそういうもんだよなあ、と思う。

ほんと、うまいんですよ。もう、挙げたらキリがないくらい、いちいちうまい。すごい無駄口ばっかりみたいに見えて、面白くないところが全然ない。重くないのに濃密なんですよ。山田太一とか、今でいったら坂元裕二とかが、この正統な後継者にあたるのかな、とかも思ったね。ま、向田さんのほうがもっと怖いけど。やっぱり女だからかな…。

作中、「阿修羅」への言及は2度出てくるんだけど、全体を見るに、この物語の女たちは、それほど怖くない。むしろ、共感を込めて「滑稽だ」と言いたいぐらい。だけどやっぱりこのタイトルいいな、と思う。阿修羅になることをも辞さず、恐れず、逞しく生きていきましょうよね!と、同士たちに呼びかけたくなるような読後感。