『最高の離婚』 終わりました

いや〜、まさかの、まさかの、まさかの総ハッピーエンド! 

だってね、「Mother」だって「それでも、生きていく」だって、古くは「東京ラブストーリー」をひっぱりだしたって、坂元裕二の脚本で、一筋縄でいく(日本語まちがってます)大団円なんて、ありえない話だったんですよ。そこへもってきて、先週の、どこもかしこも根深いあの感じを見て、もう完全に、「これは、ないな。どっちも、だめだな」と思い込んでたんですよ。がっくりきすぎないように心の準備っていうか覚悟してたんですよ。心の中では元サヤを熱望しまくってたがゆえに! 

だから、予告で流れたはっさく&マチルダの失踪シークエンスがあんなに早く始まったことに「あ、やっぱりこれがきっかけでくっつくことはないな」と確信し、上原さんちのほうで「いなくなった犬を探してたら婚姻届を出せなくなって」のくだりを話したとたんに濱崎さんちの猫の捜索願が出されたことに「あ、これでこっちも破局するのか。うまいっ!」と唸り、光生んちでのAV騒動に笑いつつも「これもあくまで二人が平行線を辿り続けることの証左」だと思ってた。

最終回で突然登場する光生の父がどんな大物なんだろうと期待してたら、山崎一という「絵に描いたような小物」で(褒めてます)、しかも光生以上のめんどくささだったのには爆笑。一拍おいて出てきた光生母がガサツさどころか服装まで結夏に酷似してたのには「ん?」と一瞬首をひねったが、舞台を富士宮に移してからも、カラオケで見つめあって笑顔になっても、双方の両親がギャーギャー喧嘩してるのを横目で見ながら家を出るのも、「こんなふうな道もあったのかもしれないけど、お互いに心を残しながらも、今は別れるしかない切なさを描こうとしてるんだ」、電車を待つ駅でも、「切ない、切ない、こんなに別れがたいのに一緒には行けないなんて切なすぎる」……

……ずっとそんなふうに思ってて、光生が結夏を電車にひっぱりあげてキスしてからも、なお、「こうまでしても結夏は途中下車する」と信じて疑っていなかった(疑いすぎwww)ので、ふたりが目黒までの長い道のりを歩き始めてようやく「え?」、「え? うそ。これって、もしかして?」、「まさかの100パー免除…ならぬ、100パーハッピーエンド?」と目が白黒。最後まで見届けてからも、ほぼ呆然としてました。

先週、自分が書いた感想記事を読み返してみたら、見事に悲観的予測に終始してて笑っちゃうんだけど、でもやっぱり、前回を見る限りああいうふうにしか思えなかったよな、って今になってもそう思う。で、そう思ってもう一度、最終回を反芻してみると、「ほんとに100パーハッピーエンドだったのかな…?」ていう疑問が湧いてきて、以下、自分に都合のいい解釈をして気持ちよくこのドラマを見送りたいと思いますw

酔っぱらって諒とキスしたぐらいであんなにキョドってた結夏が、まさか本気で人妻温泉に行こうとしてたとは驚きました。人はがっつり傷つくとあんなに簡単に転落していく可能性があるってことなんですね。「オマエにだけは言われたくない」って感じで「権限ないの!」と激しく反発してた結夏だけど、それは「あなたにこそ認めてほしい」の裏返しでもあって、猫を思って泣く結夏を優しく思いやる行動を見せた光生、最後は真摯に温泉行きを止めた光生に感動した…。光生、エラいっ。大人になった…。

にしたって、結夏のAVが光生のアイドルオタとの対比になってるのだとしたらちょっとあんまりだよね。や、「限定版ぜんぶ!」とか言って買い込んでたし、時間とお金を分不相応につぎこみすぎれば、アイドルオタで破滅することもあるんだろうけど…。光生の家の中は相当荒れてたし(カップラーメン食べたあとがそのままになってたり)、破滅に近いとこまでいってたってことなのかな。ヨリ戻してからは、でんぱ組厨やめたんだろうか?

これまで、あれだけさんざん、長台詞や、機関銃のようなセリフの応酬を繰り返しておきながら、ついにふたりがよりを戻すまでの場面ではダンマリを通させたってのが、やるなあ、と。灯里に寝てみようといわれても応じなかった光生が、「キスはちょっと」と言葉にした結夏にチューしたんだもんねぇ。光生が勇気を振り絞ったことには胸熱だったけど、言いたくても言えない思い、言葉にならない思い、そんな空気をふたりで共有しているのを感じたからこそ、光生は行動に移せたんだろうな、とも思いたい。

てか、おみやげごと電車にひっぱりあげるとか、それからチューするとか、どんだけベタなトレンディドラマ?!て感じなんだけど、心の底から萌えられたことに感謝したい。心の底からこのドラマを、キャラたちを愛していたから、「キャーッ♡」てなれたんだよね。

あいこさんの「幸せになれる道まで連れていってあげなさい」は、ふたりで一緒に歩く、長い長い道のりだったんだねえ。あのときと同じように。

「Mother」や「それでも、生きていく」は、特殊な環境にある人々のお話だった。それらは、(大きな意味ではハッピーエンドでもあると思うけど)わかりやすいハッピーエンドにはならなかった。

最高の離婚」は、どこにでもいる男女が、大震災を経験して、その日に出会って始まった話。不安だから一緒にいたいと思ったのかもしれなくて、そこで生まれたように見えた“絆”は、本当はいつ失うかもしれない脆弱なもので、というか、人には誰でもエゴがあるから人間関係ってやつはそもそもいつ壊れてもおかしくなくて、けれどだからこそ、弱くてもわがままでも人は人とつながりたいと思うものだし、相手を大事にしようと思えるんだろう。

どこにでもいる男女が、さまざまなものを抱えながら、危機に瀕しながら、けれど客観的にみると「どこにでもある恋愛」をして、「どこにでもいる夫婦」として生きていくって話。彼らにとりあえずのハッピーエンドが用意されたのは、喜ばしい話なのかもしれない。不思議じゃないのかもしれない。

そう、とりあえずのハッピーエンドでしかないんだよね。一緒に見てた夫も「もうひと捻りしてくるかと思ってた」と言ってたけど、どストレートに見えた結末は、一周まわってねじれてるのかもしんない。あれは、あの「瞬間」を切り取ってるからハッピーに見えてるだけ、というか…。結夏が婚姻届を出していないのはご愛嬌だとしても、ふたりに喧嘩のタネは尽きないだろうし、上原さんちと、互いに子連れでキャンプに行けるようになるのかはわかんないし。

上原さんとこだって、先週のあの展開から、「自分を好きになるより人を好きになるほうが簡単だし」っていう変な(変に見える)ポジティブさ全開の灯里になるのは、むしろ怖い気さえするくらい。子どもができたって、人間、そんなに簡単に変わったりしないと思う。子どもがいたってうまくいかない夫婦なんてたっくさんいるよ(灯里の両親だってそうだよね)。まあ、小さい子どもがいかに希望にみちた存在か、家族を明るくするか、ってのはよくわかるっちゃ、わかるけど。

だから、“とりあえずの”ハッピーエンド。4人が4人とも、twitterとかブログよろしく、「誰でもない相手」に向けてエゴトークを垂れ流すラストには、その内容がかつてと変わっていてもなお、「ちょっとしか変わっちゃいないんですよ」と思えないこともない。あのトークの内容が、いつまた愚痴や虚無感だらけになってもおかしくないっていうか。

それでも。マチルダとはっさくがやってきた日、あわやボヤになるとこだった新婚の結夏の料理、寝言全開のベッド、桜並木の道の家に「お嫁に来ました」、区役所での「おめでとうございます」、あの夜、揺れるアパートで手をつないだこと、別れがたくて一緒に覗くたこ焼き屋、話が尽きない、長い長い帰り道…。時間逆回しで映像で提示される恋に落ちたころのふたりと、今度は目黒の家に向かって、また一緒に歩く道。同じことの繰り返しなのかもしれないけど。一緒に笑ってるふたりに安心する。やっぱり、前の時よりも、今のほうがしっくりきてる気もするし。思い出を積み重ねていくほどに、ますますしっくりくるんじゃないかと思える。

最終回のエンディングテーマには、エロい絡みも桑っちょの乱入もない、純粋にダンス・フルバージョンを期待してたんだけど、タキシード自体なかった。現実で、地に足をつけて生きていく彼らには、あの虚飾は必要ないってことかな。

や、教条的なものは全然なくて、メッセージ性が云々とかいうよりも、単純に、イタくて楽しい恋愛ドラマだったと思うんだけどね。そんなあれこれを考える余地「も」あることがうれしい。終わった時に、ああー日々の楽しみがひとつ減った!と、お別れが寂しく思えるドラマ、最高。

「だから面白いのよ」とシメた八千草さん、最後までかっこよかったー。すごくしゃれたバーで、ひとりでロックグラスで飲んでて、山中湖に行ったのか都内にいるのか、わざとわかんないようになってて。ドラマは終始、八千草さんへのリスペクトが感じられるあて書きだった。

カーネーション」で世紀の傑作の主演をはったオノマチが、この手の役を好演することはたやすく予想できていたので、私にとっては、これまで「美貌と雰囲気は最高なんだけど演技がなあ」という印象だった真木よう子の怪演ぶりがことさらに印象に残る。あの美しさと怖さの同居、微笑んでいても全然わらっていない目、額にも首筋にも青筋が浮かびそうな激しい怒りの発露…すばらしかった。

綾野剛は、もともとあらゆる不審人物を演じさせたらピカイチ、て域まで達していたところ、「カーネーション」以来、突然にイケメン俳優、花形役者として認知されるようになった今般のイメージを、両方ともにうまく逆手に取ったようなアテ書きもすばらしかったんだけど、つかみどころのない華やかな男、その実、寂しくもありおバカでもありといった役どころを、すこぶる魅力的に演じてくれた。突然ブームがくる俳優ってちょくちょく出現しますが、彼の場合、しっかり実力が伴ってるので、安心して見てられる。

そして、光生と結夏が富士宮の駅まで終電をめざしているとき、私はまだこのふたりが別れると信じて疑ってなかったんだけど、なんともいえない表情で言葉もなく歩いている光生を見て、瑛太ってなんていい俳優なんだろうとあらためて思った。別れを前にした男女、というシチュエーションで彼がかもしだす切なさといったら、ほんとメーター振り切れる。

あの場面で、ふと、「それでも、生きてゆく」の最終回で、満島ひかりと最初で最後のデートをして、名残惜しい別れの時間を過ごす瑛太を思い出したのだ。あのときも3か月を経て、瑛太って、満島ひかりと、なんてしっくりくるんだろうと思ってた。今はオノマチと瑛太ってなんてお似合いなんだろうと思ってる。「ラスト・フレンズ」でルカ(上野樹里)に秘めた思いを抱いているときもすごく素敵だったし、「篤姫」ではナヨゴローと揶揄されていた(私もしてましたゴメンナサイ)けど、最終回近く、足に宿痾を抱えてもう永くないと悟りながら宮崎あおいに再会するシーンの瑛太には、実はわんわん泣かされたのだった。

すさまじいセリフ量とか、身体能力とか、コミカルとかキモさ・ウザさの表現とか、ほんとに何でもこなす人なんだけど(歌もときめくほどうまいし!)、どんな女優と並んでも「これしかない」と思えるぐらいに似合うって、すごいと思う。「それでも、生きていく」のときには、そうそうたる演技派たちの中で、堂々と主役をつとめた彼に驚きつつ拍手を送ったけど、今回は、主役としてドラマを牽引しつつ、個性的な同世代の役者3人をしっかりと、しかもごく自然に受け止められる器の大きさ、稀有さに感動した。今の30歳前後の役者に良い俳優、人気役者が多い中、こういう味は瑛太が抜きんでてるなーと思う。「まほろ」での松田龍平とのコンビもすごくよかったし、次のドラマが本当に楽しみです。あ、坂元裕二の次の脚本作品もね。