『日記』 中井貴一
BOOK OFFで出会って購入。2001年、中国映画「ヘブン・アンド・アース」のため、足かけ4か月にわたって中国の内陸部、ウイグル地区で撮影を行う日々に中井貴一が書いた日記。
零下をこえても暖房はなく、砂まじりの湯しか出ないような宿泊所で日本人はたった一人。監督は秘密主義で、スケジュールを把握している者は誰もおらず、遅々として進まない日程…。同情を禁じ得ない環境とはいえ、怒りや愚痴で埋め尽くされんばかりの日記なのに、面白く一気に読んでしまい、読了後は中井貴一のことをもっと好きになってしまったのである。
駆けだしで、大きな事務所が万全のバックアップをするころならともかく、中堅以上になっても大きな仕事に次々と恵まれる人には、やはりただならぬ経験値があるのだなあ、と実感。
日記では日々、めげながらも、苛酷な経験を乗り越えられたのは、まずもって本人の目的意識が高かったからだろうなと思う。出演を承諾する前に、中井は熟慮を重ね、尊敬する高倉健を始め周囲のアドバイスを仰ぎ(撮影期間中に突如、高倉さんの登場するシーンはまさに涙もの!)、最終的には、「40歳を機に、自分をもう一段階高めたい」という意志で決心をする。つまり、長期間、日本人ひとりで中国内陸部に生活しながら撮ること、その苦労それ自体が、自分を成長させる糧になると最初から覚悟している部分があったのだ。
外国での仕事では遠慮してちゃバカを見る、という姿勢のもとでの細かい契約(とはいえ、現地ではやはり大部分がスル―されるわけだが…)、仕事の調整、体のメンテ、携行物など、強い意志のもとで現実的な準備をしてからのチャレンジであることが、日記で愚痴るぐらいのめげ方で済む下支えになったのだろう。
「極限状態に陥るであろう自分を冷静に観察する」目的で、これまでつけたこともないのに日記帳を持ち込んだ、というのも、長年の日記派としては、成功に寄与したのではないかと思います。日記ってほんとに、鎮静や解毒に使えるから。
まじめで、誠実で、けれど俗なところ、ユーモアも持ち合わせていた日記。画面から伝わる中井貴一のイメージが、詳細に裏づけられていってうれしかった。何せ、こういう実録物はライブ感がすごい。いくつもの場面で、まるでその場に居合わせたかのように、憤慨したり、じーんとしたりした。「嫌悪したままだったら、この本を出版はしなかった」のような記述があったとはいえ、監督への思いや、完成した映画への感想、評価が添えられていないことにも、むしろ重いリアルティがある。
読後、アマゾンで検索すると、この撮影の数年後、(これだけの思いをしたのに!)中国映画「鳳凰、わが愛」の撮影のため、中井貴一は再び海を渡るのである。そこで書かれた「日記2」が出版されているという。絶対読みたい!?