『ゴーイングマイホーム』 第8話
「キャラ」って言葉、概念が一般に浸透して久しいけど、「○○キャラ」と一言で括れないキャラクターたちがすごくいい。
先輩と同じに、現実に迎合するようになっている自分に気づく真田。「めんどくさい」ところのある萌江を持て余し、一般論に終始するかと思いきや、悪くないケアを見せる女教師。真実を報道することに拘りを見せていたかと思うと、見事に詭弁として用いる新聞記者。「誰も褒めてくれないから、自分たちぐらい褒めてあげないと」という気持ちからくる押しつけがましいほどのおらが町アピールだった、と、なにげない会話の中で言葉にするタクシー運転手。
人と人との関係も、単純な敵味方で語らないから安心して見ていられる。先輩後輩の関係、隣人同士の関係、姉と弟、義理の兄弟、沙江(山口智子)と菜穂(宮崎あおい)の関係も。簡単に気を許しきるわけでなし、かといって簡単に敵意をもったりもしない、自然な関わり方。
前々回あたりから不穏な様子を見せていた多希子(YOU)が家出してしまった。まあ、特に深刻な何かがあるわけでもなさそう。甘ったれた中年専業主婦…ではあるのかもしれないけれど、沙江みたいに天職についている人のほうが稀なわけで、自分の人生にああいう焦燥を覚えることって、誰にでもあるんじゃないかな。
「お父さん動けなくて嬉しいって、ミザリーか! ゾッとしたわよ」ってセリフには大笑いした。女の趣味からマヨネーズの食べ方まで…とかぶつぶつ言ったかと思うと、お説教か!と再びつっこむ。アテ書きもうまいがYOUもばっちりそれに応えてて。
安田顕が演じている夫は、妻の心の機微に気づいていないとしても、事を大げさにとらえず地に足のついた生活の出来る、じゅうぶん良き伴侶に見えるけど、この夫婦、この先も何か展開あるのかしら。
良多(阿部ちゃん)一家の食卓は普通のダイニングテーブルに定着したのね。今回は、家族3人、電車の中でトランプしたり、夫婦が同じベッドで寝てるシーンもあり。家出した姉に「ガツンと言ってやりましたよ」と言うのは強がりだと、妻も娘もすっかり見抜いていて、そのうえで受け容れて笑ってる感じ。
そんな順調な坪井家と対照的に描かれるのが今回の菜穂の3人(元)家族。仲良く帰ってゆく3人家族を淋しげな表情で見送る菜穂。息子が「お母さんがいればいい」と、けなげなことを言うから、なおさら子どもの父親に思いがいったのかもしれない。彼女には珍しく、フェミニンな洋服をピックアップしている姿があったが、いざ出かけるときはいつものナチュラルな装いで、あとでわかるのだがフェミニンなやつはインナーに着てたんですね。この微妙な女心の描写よ。
というわけで加瀬亮キタ--------! なんて贅沢なドラマだ!! 「あの町は、もう何やったってだめさ」。その町より断然パッとしてる、というわけでもなさそうな町で、乳牛の世話をして生きているメグム(加瀬)が言うには、やや不釣り合いなセリフ。出て行った夫を「めぐむ、めぐむ」と呼び捨てにして呼んだり、入口にいた女性は透明感のある美人さんを気にしたり…。フェミニン服の件といい、なんとなく妙な態度に見えなくもなかった菜穂が、帰ってから父(西田敏行)に向かって、「人口ひとり増やそうと思ったけど、失敗した」と言うので驚いた。もやもやした迷いの中で訪ねたのかと思いきや、そこにはハッキリと、復縁の意志があったんだね。ずっと、帰ってきてほしいと思ってきたのだろうか。
だからこそ、「俺、後悔してないんだ」という前夫の言葉の残酷さがいっそう際立つ。「後悔しているということはそこに愛があるということ」以前でてきたフレーズの生かし方が見事。同時に、死にゆく妻から逃げたのではなく、思いのあまり向き合うことができなかった、という西田の心、今も忘れられない後悔が語られ、娘は初めて父の愛を知る。視聴者は、前回、西田が栄輔(夏八木勲)に懇願した「二度とこの町に来ないでくれ」も思い出して、その後悔の深さイコール愛の深さを噛みしめることになる。
宮崎あおいは、セリフまわしこそ匠の技とまではいかないにせよ、言葉抜きの表情の雰囲気がすごい。今回、加瀬亮との対峙を見ていて、是枝さんが彼女をキャスティングしたわけが、というか、彼女がたくさんの映画にキャスティングされるわけがわかった気がする。