『平清盛』 第41話 「賽の目の行方」

今週は、「サラメシ」が大河ドラマのお昼ごはんをスクープしました! 短い時間だったけどすごく面白かったです。今日の撮影スケジュールを示す香盤表。50人くらい出席する宴のシーンの手書きの人物配置図。矢印ひっぱって、「宗」とか「知」とか書いてあるのだ。助監督のお仕事、“消えもの=番組中で使うごはん”作りのお仕事など。どれも興味深い。大河の撮影現場を見せる番組はもっともっと増やすべきじゃないでしょうか。宗盛の中の人が弁当男子で、卵焼きも唐揚げもとってもおいしそうでした。「お生まれになりました〜!」の知らせが来る場面が、チラッと、映りましたね。

さて本編。う、うーん。なんとなく、ものたりず。今回は「鹿ケ谷前夜」とでもいうべき内容で、サブタイトルは「賽の目の行方」。清盛が言う「賽の目はめまぐるしく変わるものぞ」は脚本家がこの作品、この事件に寄せる意の核とでもいうべきものなのだろう。これを言う清盛の姿も抜群に印象的だった。

見終わった後、どうにも事情が飲み込めずにもやもやとしていたんだけど、件のセリフを中心に考え直して、ようやくわかった感じ。つまり、“鹿ケ谷の陰謀”は、実は清盛によって仕立て上げられた疑獄事件という昨今の学説を採用しつつ…の、今回(次回)の筋書きってことになるのかな?

建春門院が没して精神的に不安定になっていることも手伝って、後白河法皇平氏離れ、アンチ平氏のムードを醸し出し始める。そのことを敏感に察した清盛が、先手を打って西光の息子が事件を起こすよう仕組み、もちろん叡山とも手を組んでおいて、すったもんだの末に近臣の力を削いで、それをもって後白河院に打撃を与えた、と。それで怒った後白河側が打倒平氏を謀議するに至ることまで勘案していたのかどうかは、次回を見ないとちょっとわかりません。

ともかく、西光の息子が「汗かいたからシャワー貸してちょ」と駆けこんだ加賀の宇河寺に、叡山の金覚・銀覚がちゃっかり居たことからも、あの息子さんは清盛の罠にかかったと見ていいんでしょう。重盛の郎党が強訴の神輿に矢を的中させたのはアクシデントだと思います、いかに事前打ち合わせがあったとはいえ、腹筋さんの明雲が神輿ダーツにOK出すはずないんでね。その辺は、年季の入った双六プレイヤー・清盛が、出た目・出た目に応じて次々に己が利するよう立ちまわり、先を読み、結果的に賽の目をコントロールしていったように見えた…ってことでいいんですかね(不安)。

後白河は、最初の一手、「坊さんになるはずだった九・十の宮を高倉帝の養子に」の時点でどの程度の覚悟だったのかはわからんけど、滋子もおらんのにひとりで厳島に行っても面白くもなんともないし、代わって本来の「清盛に負けたくない負けたくない負けたくない」マインドが高じてるところを、先んじた清盛にしてやられ、カッとなってる…てとこでしょうか。んで、重盛はそういう策謀みたいなのは全然…であると。

こうやって考えていくと、破たんのないように作ってあるんですね、ちゃんと。しかし、なぜ、一見して、もにょるのか。それは、どうも歴史が動いているっていうダイナミズムを感じられないからなんだろうなあ。

建春門院がいなくなって平家と王家の紐帯に綻びが生じ、徐々に広がっていく。折しも、東国武士たちの不満も高まっていた。そういう流れは、ちょっとwikiっただけでもわかるほど周知のことです。でも、ドラマを見ても、wikipediaを読んだみたいな印象なんです。教科書どおりに展開するように作っていってますよー、というか。

や、このドラマにはこのドラマなりの必然性、理由づけはあるんです。でも、それは、「新しい国づくり」とか「ぞくぞくしたい」とか「入道さまは恐ろしいお人」とか「源氏の魂は滅びぬ」とかであって、どれもこれも個人の理想・感想・思想なんですよね…。

国のトップにいる人々、国のトップに反旗を翻そうという人々なのに、あまりに政治的背景が薄い。どこもかしこも個人レベルの問題や、関係性に落とし込まれている。だから先週は「俺の世にはおまえが、おまえの世には俺が欠かせない」と言ってたのに、今週はあっさり宗旨替えするような展開になっちゃう。

滋子ちゃんが架け橋としてがんばってる話とか、中央からの租税の取り立てが厳しい話とかいう背景が、つねに各キャラの描き込みに劣後しているんですよね。そういう作り方は、抒情的な面では大いに衝撃や感動を呼んでいて、これは近年の大河の中でも追随を許さないクオリティだと思ってますし、そんな「諸行無常」こそが平家物語であるという作り手の姿勢なんでしょうけど、さあ打倒平家の狼煙!と歴史が大きく動く局面になると、どうしても物足りなさが否めないです。

源氏にしても、伊豆に流された頼朝が立ち上がるまでには実際20年ぐらいあるんだけども、いかにして鬱から立ち直るか、っていう一手にかかってる印象が強くって、政子がずーーーーっとそこを突ついてる、そしておっさんたちが「清盛スゲー」「けど東国は迷惑してる」と口先で話してるのみ…。これから令旨がきたりするんだろうけど、きっと唐突なんだろうなー。

鹿ケ谷については肝心の西光の描き方も残念。せっかく信西に傾倒して、信西の遺志のために無私で生きるような姿勢を描いてきたのに、結局は息子たちが陥れられたことにキレちゃって…みたいな私怨から鹿ケ谷に突入しちゃうのね。加藤さんの熱演がもったいなく感じる。

ただ、個々の場面、演技については相変わらず見応えがある。水に浮かべた勺薬の花で滋子を思い出させるのとかきれいですよね。

清盛はさすがに60歳間近には見えないとしても、中の人は20代の若造とはとても思えない老成ぶり。ただし清盛の「あまりに周りが見えてない」姿は主人公の造形としてはつらいっすね。黒いのは全然いいんです。賢ければ。誰かのためならば。なんか、誰も救わない黒さ、強さなんだもん。重盛との関係とか、ほんと見ててつらい。

清盛と後白河が、それぞれ別の相手と双六をしているんだけど、ふたりだけを交互に映すことでふたりで対戦しているかのように見える映し方。寺での事件から強訴への流れを清盛と後白河が交互に解説するところ。こういうのはすっかりこのドラマのテクニックとして定着してますね。

成親の「おもしろうないのう」にはゾクッとしました。来週の「瓶子(へいじ)が割れた」のセリフが楽しみです。杏もすごくいきいきしてて惹きつけられる。「昨日は変えられぬが明日はいかようにも変えられる。明日を変えるのは、今日ぞ!」の、力強いんだけれどどこか軽やかなセリフ回しとか、この人独特の味だなーと思う。誰か藤九郎にいいかげん烏帽子をかぶせてあげてください。かわいそうです。

弁慶、衝撃の告白! あんなにきれいなお母さんに産んでもらったのに、あんなむっさいおっさんが現れて、「うぬを取り上げたのは、わしじゃ!」なんて言われたら、そら「聞かなかったことにします」だよね〜。しかし弁慶の側にしたら、そら牛若がかわいくてしかたないわな。遮那王の横笛と頼朝の笙の音が重なり合うところもきれいでしたね。