『ゴーイングマイホーム』 第1話

「相棒」ほどの人気シリーズならともかく、連続ドラマの初回2時間って、まったく視聴者目線じゃない。多少キャストやスタッフに力入れてようが、海のものとも山のものとも知れんものに2時間も投資させようだなんてムシが良すぎなんだよ! TBSのみならず、フジまでもがこの悪業に及ぶとは! とムカプンだったんですが、すまんかった。サンキュー、フジ! 2時間堪能したわ〜。

映画だよ。まるで映画だった。といって、映画好きとはとても言えない鑑賞キャリアの私。是枝作品も実は初めてです。でも、私は彼の良い視聴者になれそう。映像の色合い、間(ま)、場面転換、煽らない音楽、風景、手仕事(料理)の映し方・・・すべてを肯定的にとらえました。このドラマの空気感そのものが好きだ。

特に映画には、「雰囲気は素敵なんだけどイマイチ・・・」てのがしばしば見られる気がするんだけど、今回の場合、脚本が超絶レベルなのが最高。正面きっての説明はないのに、状況や人となりが手にとるようにつかめるセリフがすばらしい。役者がむやみにわかりやすい喜怒哀楽の表情をしなくても感情がこぼれ落ちてくる。家族の会話の「あるある」感。一言も聞き漏らすのがもったいないと思わせる。何も起こらず、ずーっとこのまま3か月続いてもいい、そんぐらい贅沢な脚本だ。

自身は敏腕プロデューサーで妻は料理研究家、父は大会社の社長。人間よりも熊や猿のほうが多いような田舎で「クーナ」という妙な妖精を探す。荒唐無稽なほどに浮世離れした設定と、裏腹に淡々としたリアリズムあふれる展開のミスマッチが快感。「世界はねぇ、見えるものだけでできてるわけじゃないんだよ」。あのテンポで、倒れた父親と、思春期に入りかけている娘だけでなく、妻や、母親や、姉、同僚、謎の女、そして自分自身の「見えないもの」をどういうふうに焙り出してゆくのかすごく興味がある。

(未見だが話題作なので当時あちこちで感想を見聞きした)映画「誰も知らない」は人間の残酷さとも真摯に向き合った作品、という印象だが、この作品の場合、これからどう転ぶのかまだわからない。状況といい人間の描き方といい、不穏な種もいろいろ蒔いてあるんだけど、初回を見る限りでは、身勝手さとか滑稽さとかを含めて、人間の生命力みたいなものを信頼してる脚本のような気がして、そこがまた好きなのだ。

とはいえ、ドラマ好きの方々の感想を見た感じ、「大好き」って声はあんまりないのね。みなさん、独特の作風や役者は評価してるんだけど、「とりあえず次回も見てみよう」ぐらいのテンションの方が多いような。ま、それもそうかもな。なんとなく文学の香りがするような作品。文学って、どこがどうとも言いがたいけどなんとなくいいな、って感じを受けるものなんだけど、必要か?て言われるとそうでもなかったりするもんね。本だって、いつでもどこでも手に取りやすいのは、宮部みゆきとか東野圭吾だもんな。お金を払って見に行く映画なら必然にモチベーションも上がるけど、これ、テレビドラマだから。私も、環境整備してから見るために、これはたぶんずっと録画で見ます。当然CMは飛ばします。

視聴者にとってある意味、敷居の高いドラマになることは、作り手だって想像に難くないだろう、それを前提に作ってるんだろうと思いたい。脚本のみならず監督も編集も、と絶大な裁量を是枝さんがふるうこの作品をして、ほかの気鋭の映画監督たちに「俺もやってみるか」と思わしめる端緒になればいいのに! フジテレビったら、西川美和とか犬童一心とか(脚本は渡辺あやで!)李相日とかをドラマ界に参入させようという壮大な野望をもってるんじゃないかしら・・・・なんて邪推しちゃうわたくしです。

すばらしい役者さんたちについては、おいおい書いていくことにします。