『平清盛』 第37話 「殿下乗合事件」

重盛ぃぃぃぃぃ(再)。さんざアホの子呼ばわりされてる時代も一貫して清盛の肩を持ち続けてきた私ですが、今さら翻意です。「清盛のばかぁぁぁ!」と泣きながら石投げたいです。これが冷静でいられるかー! ぜぇぜぇ。

(呼吸をととのえて)殿下乗合事件。映像化を楽しみにしていた地味なイベントのひとつです(『義経』でもやったのかな?)。松殿基房細川茂樹を配すると聞いた瞬間から、けっこう派手にやってくれるものと確信。「平家物語」では清盛の所業とされている報復は、実際には重盛によるもの、というのが現在の定説で、今年に限らず、大河では“最新の学説”を採用することが多いので、てっきりその路線で考えてました。

放送前には、最近、どうにもこうにも閉塞感に苛まれている重盛くんが、あれやこれやのストレスも相まってブッチーン!とキレちゃって、半ば八つ当たり的に乱行に及ぶ展開ではなかろうか、と予想してた。もともと良識派・穏健派なだけに、キレたら怖いだろうなーと。

そしたら、うん、最後、確かにぶちキレたんだけど(涙)、なんとまあ、敵(脚本家ね)は大胆不敵なアレンジを施してきましたよ。史実の出来事を下手に創作すると「なに勝手に改ざんしてんだよ」と非難ゴーゴーになるものだけれど、今回は、史実に対する“アリバイ”がまあまあ緻密なのが好印象で、かつ、登場人物それぞれのキャラクターを考えると、「うわあ、そういうことだったのかも」と妙に得心させられてしまう巧さがあった。

清盛の日宋貿易の件ともすごくよく絡まってて、ちゃんとひとつの話になってる。プロの仕事だわー。

ていうか、清盛ほんとひどい。全方位的に。宋の商人(まさかの桜金造、再登場!)に対しては、コワモテのチンピラ(兎丸)が恫喝→ 幹部が慇懃に懇願 → そしてボスが問答無用で取引中止を示唆…と、あちこちで言われてますが、ヤクザそのものです。

まあでも、こういう身も蓋もない手段を主人公がとるのは嫌いじゃありません、むしろ好き。続いては早速、宋に送る賄賂について算段。そりゃ黄金でしょ、という話になるけど、平家の領地からは金が出ない。そこで金山の豊富な奥州を手なずけて横流ししてもらおう・・・と、えらくサラッとやってたけど、筋の通った話で奥州藤原氏が初登場。この辺、歴史ドラマらしくて良かったですね。

清盛の命を受けた重盛が、藤原秀衡鎮守府将軍の地位を与えるべし…と持ちかけた朝議の席で、教盛ばかりか宗盛までが、まっとうに仕事してる意見を述べてたのもよかった。子役時代、宗盛は徹底してアホに描くのか?と危惧してたけど、本役の石黒くんになってから、ぼんぼんではあるけど、単にイヤな子、ダメな子じゃなくなったので、ホッとしとる。

…って、出てきた藤原秀衡京本政樹の目張り、目張りが〜! んふふ、わざとらしく慌ててみたけど、これも嫌いじゃありません。大河ドラマたるもの、1作にひとりかふたりは、これぐらい厚化粧の人が出てきてナンボだと思ってます笑 飲み会の感じといい、異文化の帝王って感じで良かったです。ま、息子はすんごくフツーそうだったけどな笑 “雰囲気だけはいっちょまえ”にならず、今後とも妖しく強い勢力であってほしいです、奥州藤原氏

というわけで、無事に黄金も手に入ったので、次はハクを付けるために法皇さまにお出まし願おう…という段取りになったところで、プータローの時忠が登場。そっか、こいつ、先週の「嘉応の強訴事件」のドサクサから、まだ復職できてないんだ! と、この時忠の境遇に目をつけたのが、作り手のすごいところです。

そんな時忠が巡らした一策に、法皇さまはイチコロで引っかかります。先週のわがまま帝王ぶりはどこへやら、のチョロさなんですが、これがまた、「ちょっと珍しいものチラつかせたら、これだもんな」というすごい説得力なんですよね。「清盛がどんな悪巧みをしているかわかりませんよ!」と諌められると、「だからこそ行くんだろーが!」と無駄に燃える始末。お付きの西光の渋面に思わず同情です。

宋人が持ってきた孔雀の羽根で作った扇に釘づけになり(釘づけってこれね!という釘づけ演技がもうw)、献上されると至極満足げ。ったく、ちょっと珍しいものチラつかせたら、これだもんな! どうせなら、ゴキゲンついでに、扇を使って一曲歌って欲しかったです。「遊びをせんとや」以外の新曲を。舞え舞えかたつむりでもいいから。

さて、清盛が福原でヤクザな活動にいそしんでる間に、京では大変なことが…! 赤い羽根のアクセサリーをつけた従者たちをいぶかしむ重盛、という、“いかにも”な場面が挿入されたあとで、重盛の次男、かわいい資盛くんが、家電摂政さまの輿と鉢合わせ! ここで、相手が“穏健派”重盛の息子と見るや、「許すまじ」と満面の笑顔で一言のたまった基房が、最高に気持ち悪かったですありがとうございました。普段からこのキモ役を楽しんでいる様子が見受けられる基房さんですが、今回はことさら、水を得た魚よろしく、びっちびち跳ねまくってましたこと。

まあ、普通に考えて資盛も礼儀がなってないし(子どもとはいえ元服してるんだから、周りの教育が悪いともいえる)、かといって基房は明らかにやりすぎで、どっちもどっちなんですよね。それを、重盛以外の全員が「断固、報復すべし!」と一致団結してんのも何かコワいし、「そういう筋合いのことではない」と必要以上のコンプライアンス精神を発揮する重盛もおかしい。

かわいいお顔に傷をつけられたばかりの幼い我が子を目の前にしてもフォローのひとつもせず、継母には「有職故実を云々」と怖い顔して“べき論”をぶちまける。明らかに、ここんとこの一門内でのひそやかなゴタゴタは彼の中で消化されておらず、頑なになりすぎてます。こんな、かなりオリジナルな文脈でありつつも、「騒ぎの実行犯たる手下どもを解雇しましたから」と言いにきた基房を追い返す、という史実を、バッチリ盛り込んでみせるあたり、脚本がまた小憎らしいほどうまい!

ここで時忠@福原が、「正しすぎるのはむしろ間違ってるのと同じこと」と発言。なんという飛躍した論理!と一蹴したいのに、重盛を見てると、頷いてしまうところがあるのだ。いるよね、ふだんちゃらんぽらんしてるくせ、さらっと真理を突く奴って! 清盛、苦笑い。ややして、時忠にヤクザな命令を…! 

あのさ、どーでもいいんだけど前から思ってたこと。福原に女っ気がなさすぎて怖いです。や、史実、時子は西八条第に留まっているわけだが、盛国と兎丸一味しかいないみたいなんだもん、この屋敷。やっぱり清盛は、盛国さえいればいいんだ。盛国のほうも、「わたしの目が黒いうちは、侍女なんて必要ありません!」ぐらい思ってるんだ(違)。

もとい、輿の中では基本、摂政さまは鼻歌歌ってるんですね笑 コブシをまわして悦に入ってる様子がうまい。そこから一転、恐怖に歪む顔…! 巷間伝わるとおり、従者が髷を切り落とされるシーンもちゃんとありましたな。

で、ある日、何も知らない重盛が出勤すると、「出た〜〜〜ヤクザ!」とばかりの反応をする公家連中。表だって怖がりすぎです(笑)。変わらず穏健派を貫くつもりだった重盛、驚いて現場を見に行くと、そうです、そこには例の赤い羽根が残されていたのでした…!

すべてを察して重い足取りで帰還すれば、一門のみんなも公家連中と同じ解釈をして、こちらは「スッキリ!」状態。しかも「いや〜3か月も執行猶予期間かませたから、相手は余計に怖かったろうね〜。殿ったら、本物の、ワ・ル☆」と、かえって株が上がっています。当の息子にも「ありがとうございます(さすが父上!)と目をキラキラされちゃあ、今さら俺はやってないとも言えません。微笑むしかない重盛…この微笑みが、なんだか透徹としていて、ひどく悲しかったことです(泣)。

お父さんのあとを継いで立派な棟梁になるために、夜なべしてのお勉強が日課になってる重盛さん。今夜は気持ちを鎮めるためか、写経をしています。しかし「不惜身命」*1とまで書いたところで、きっと、つねにその言葉を実践し続けてきたからこそでしょう、彼の心で何かが決壊してしまいます。

筆を投げ、写経の紙をびりびりに破って踏みつけ、燭台を蹴り上げて咆哮。駆けつけてきた経子さんがびっくりしてうしろから抱きしめるも、「父上にはなれぬ…!」と吐き捨てて懊悩する夫と一緒になって嗚咽するしかなく…。今日の前半、ふたりで仲良くお勉強するという、いつまでも新婚さんみたいに微笑ましい場面があったがゆえに、痛々しさも増幅されました…。

いや〜抑えに抑えてきた感情を爆発させる重盛、熱演だった。こんなにがんばってるのに、ていうか、私にはここ数週、大河ドラマ平重盛』にしか見えてないというのに、まだピンクレジットじゃないってどういうことだー! ま、彼は数年後、また大河に登場して、今度はもっとデカい役をやってくれることでしょう。(あのー、再来年の大河の題材、いつになったら発表するの? もしかして来年で大河ドラマは終了なの?)

とにかく人間、我慢には限界があるもの。こうして吐き出せる奥さんがいて、まだしも良かった。醜態を恥じて、「こんなんじゃダメだ、もっとがんばらなきゃ」とか言いだしそうで不安だが。高橋愛の経子さんはいいですね〜。若いのに、落ちついているし、子どもといればちゃんとお母さんに見えるし、時代劇の演技が浮かない(良くも悪くも好対照なのが成海さんの滋子ちゃん)。

てか清盛! おまえが悪い〜!黒すぎる〜!  “清”盛の名は、もう重盛に襲名させて、悪盛か、黒盛とでも改名しろ! や、重盛は重盛の名で似合ってるんだよね、苦労が“重”なる、という…くくくく苦。

しかし、これはつらい展開になってきたなあ。「新しい国づくり=日宋貿易にまい進したいがため、都に憂いを残したくない」という清盛。この理屈で、今後も不穏分子をじゃんじゃん断罪していくわけですね。最初に出てきた赤い羽根が、後白河を虜にし、重盛にすべてを悟らせたばかりでなく、かの有名な「かむろ」(平家の悪口を言った者を捕える、いわゆる子どもの私設特高警察。赤い直垂を着ていたとされる)にまで繋がっていったのには慄然としました。

そのような清盛のやり方は、公明正大でありたい重盛をどんどん追い詰めて行く。また、厳しい措置をとればとるほど、関東でも都でも平家の評判は悪くなり、より強い抵抗勢力を生み出していく。完全に悪循環の始まりです。まあ、確かに、あのまま重盛が黙っていれば、「あの棟梁、どーせ仕返しなんかできないんだから、また輿でも襲ってやろうかね〜」と摂政さまがうそぶいていたように、どんどんなめられていくばかりだったんだろうから、悪盛の判断には一理あるのです。

しかし、それもこれも、悪盛自身が都を離れているからこその事態。国づくりとか言っちゃって、結局は海が好き、異国が好き、港や神社を整備する大事業が好きってだけの、自分の道楽じゃないのかよ〜!と言いたくなっちゃいます。や、松ケンが若々しいんで忘れそうになりますが、彼も当時では老齢とされる50を過ぎて、先を急いでる面がある、という面があるんだよな。でも、それじゃあ重盛のいたわしさを、誰のせいにもできなくて余計につらいわ・・・このドラマめ〜〜〜!

重盛がダウン寸前になってる裏では、頼朝がちゃっかり覚醒し始めてるし!!! あの、ヒマな(そうとしか見えない)おっさんたちの飲み会で、まさか「頼朝死すとも源氏は死せず」の名言が出るとは〜! てか、頼朝の鬱状態はひっぱりすぎと思ってますが。次回、ついにあの一言が出ます! そして五条大橋!!

*1:不自惜身命、でしたかね