『やがて哀しき外国語』 村上春樹

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

再読も再読。村上春樹の中でもかなり好きな本のひとつで、もういったい何度読んだかわからない。こんなにも使いこまれている250円もそうそうあるまいて(その昔、ブックオフで買った)。

1991年、プリンストン大学に客員研究員として招かれ…って簡単に書いてるけどプリンストンって超名門校ですからね、念のため。世界のハルキともなると、ちょっと「いいよね〜プリンストン。ああいう静かなところで小説を書きたいな」とうそぶけば、右から左へ、たちどころに話がまとまるわけですよ!

その2年間に書かれたこのエッセイは、いきおい比較文化的な性格をもつんだけど、当地に滞在する生活者であり、ヒエラルキーの上部に位置する大学人であり、そして日本の小説家であるという、自らの複合的な立ち位置からは一歩も離れずに書かれているのが特徴。そうです、「やれやれ」の精神がそこここに息づいています。鋭く的確な批評眼や分析力、文化観が、春樹クオリティによる「やれやれ」の衣をまとって表されているのです。

「梅干し弁当持ち込み禁止」とか、「運動靴をはいて床屋に行こう」とか、「黄金分割とトヨタ・カローラ」とか、目次に並んだサブタイトルを見るだけで楽しいもんね。

読み返すたびに新たな発見というか、興味をひかれるところが変わってくるのも面白い。たび重なる再読に堪える本なのである。もともと(というのは20代前半のころ)は「アメリカで走ること、日本で走ること」や、「現金な女の人たちについての考察」や、「ロールキャベツを遠く離れて」の章が特に好きだったんだけど、今回は、「黄金分割とトヨタ・カローラ」の章の村上さん流・世界のいろんな車(と車メーカー)批評がすごく面白く感じたな。あれから20年を経た今、当時とはかなり変化したクルマ世界の力関係や分布図について、村上さんの筆によって考察してほしいものです。