『平清盛』 第30話「平家納経」

予告を見た段階で「うわー来週は怨霊でヒヤッと納涼祭りだーい」なんて思ってたわたくし。ニッポン国の大魔縁こと崇徳院の霊威を完全に舐めてましたごめんなさい。なんだったんですか、あの放送開始前のドタバタの1時間は。

そもそも今週はオリンピックのため、通常より1時間遅れて放送されることは前もって通知されてた。にもかわからず毎週のクセで、8時からの1時間はなんとなーく所在なく過ごし、カモンARATA!とテレビをつけましたら、そこに映っているのは青と白の柔道着。

ん? んん? 清盛はどーなっとるんだ?! と、あわててリモコンを操作しデジタル放送の番組表をひらいても、彼(彼女?)も判断に困っているらしく「えーっと、えーっと・・・オリンピック?」みたいな反応。Twitterを見ると、いそPこと番組プロデューサーによる公式アカウントは「柔道やってますけど、間もなく清盛始まります! 今日は井浦新さんも特別ゲストとしてお越しくださってます!」と始める気マンマンなツイートがほんの2分前に。

え?え? と再びテレビ画面に目を戻すと、「平清盛の時間ですが、このままオリンピック放送を続けます」という小さなテロップが…。おーい。おいおい。それはいいけど、今日は清盛やるの?やらんの?どっちなの? やるなら何時? Twitterでは、いそPが「大変申し訳ありません。今確認中です。わかり次第お知らせします!」とつぶやいて慌ただしく席を立ち(註:動作は私の脳内イメージです)、既にスタンバってたARATA氏は「放送時間が送れるなんて、最期まで、なんとも崇徳らしい」とつぶやき、悟りきった面持ちで端座している(註:動作は私の脳内イメージです:再)。

このあたりからTLは祭りの気配。「さすが崇徳クオリティ」「どこまでも不憫な子」「てか今、倫敦の体育館に雷鳴が」「ここからお経を納める展開が思いつかない」など、清盛クラスタの面白ツイートは止まらない。待ちぼうけを食らっているARATAさんはといえば、「【井浦新です】有効! 勝ち越し! こちらも盛り上がってます!」と、なんともいい人っぷりを発露するツイートで柔道を応援している。面白ェ。面白すぎる。

しかし、今日のメインは崇徳様であるからして、呑気に面白がってる場合じゃあ、なかったのでした。おそらくこの人の試合をLIVE中継するために放送延長したのであろう海老沼選手の準々決勝。このあたりで、「清盛は『ニュース7&ロンドンオリンピック』のあと『地域のニュース』に続いて放送します」というどさくさにまぎれたテロップあり。

地域のニュースもやるのかよwww てか、それ何時からなんだよwww と苦笑するしかない間に、ARATAがツイートしたとおり、有効をとってポイントで勝ち越していたはずの海老沼さんなのに、技に不備があったとかで後から取り消されたあげく、アナや解説が見ても明らかに内容で勝っていたはずが、判定の旗は青(韓国)3本。

体育館に怒涛のように鳴り響くブーイング。怒りのあまり怨霊化しそうな形相で吠えている篠原監督。困惑したまま動けない海老沼選手。すると場外にいる誰ぞお偉いさんっぽい人に審判3人が招集され、わやわやと何ごとかを話しあっている。「え?」「どーした」「もしや」「審判kzか?」とTLの清盛クラスタもいっせいに疑義を表明。やがて定位置に戻った審判、「僕ら、もっかい旗を揚げ直します」「せーの!」「白!」「白!」「白!」で海老沼勝利がここに目出度く決定…なんだけどォ…

「な、なんなんですか?!!!こんなことあるんですか!? 勝ちは良かったですけど、これは……!?」「すとく さん…?」「ありがとう崇徳院、でいいの?」「審判団、誰かは配流レベル」と、TLにも鳥肌立てる人が続出。そのうち、「このあと○分から地域のニュース、10時2分から「平清盛」をはさみまして、再びロンドンオリンピックを放送します」と、やっとこさでテロップが明言。てか、“はさみまして” ってwww 何だその箸休め的扱いはwww

わたくしも長年大河ドラマに接してますけど、本放送開始前にこんなに盛り上がったことはございませんでしたw

そんなこんなで22時2分に始まった今日の「清盛」ですがゾロ目…なんか怖ーっ!)、これがもう、寿司とステーキの間にフォアグラを供され「箸休めにせい」と言われるがごときシロモノでして…正直、事前に盛り上がりすぎて、放送を見る目が浮き足立っていた面は否めません。しかし実際、あっちこっちのエピソードを思い切ってセッティング・バッティングさせ、恐るべし崇徳パワーで乗り切った、という感じの、このドタバタの中で見るとなんとも乙な回でございました。

んーまずねー、清盛が今日も元気にオッサン化してる。「まだか、まだか、遅い、遅い」って檻の中を行き来する虎みたいに落ちつきなくウロウロ。登場当初、わたくし兎丸に対して「なんで加藤浩次やねん?」と、彼と同じぐらいテケトーな関西弁で突っ込んでいたんですが、ここ最近の成金商人ふうの兎のオッサン見てなるほどな人選やなーと感じ入っていることです。

時忠の悪企み+基盛の死のあたりは、すごい駆け足の印象。怒り心頭に発した清盛が、かかわった3人に「官位を返上せよ!」と命じたのに対し、周囲が「いくらなんでもあんまりな」「それは生きる道を断たれることです」と言って、それがいかに厳しい処分であるかを説明するんだが、この人らって、どー見ても平家本家(というのか?)の財に寄食してるようにしか見えないんで…。実際、そのあと基盛くんは「私財を投げ打って」紫宸殿を造営してたし。だって紫宸殿って、内裏の中でも帝がおわす正殿ですよね… 

まあ確かに事の軽重を考えればこういう描写になるのかなーとも思う(基本的に気に入ってる作品に対しては、人間、多少のアラにも甘くなるもんです)。それに時忠の小才子的リアリティがすごいよね。思いつきで事を起こして早々に露見して、プラス日ごろの素行が悪いんで(?)あらぬ嫌疑をかけられて流罪になるっていう。若いのに明朗さから遠く、頑なな二条帝という人物の造形に、イケメンなのにとても高い声、っていうミスマッチがすごく効いてる。

基盛さんの退場は残念な限り。愛玩動物のようにつぶらでキラキラとした瞳、空気を読まないしちょっと足りてないのに、なんだかかわいい人でした。魂が抜けたようにへたりこんでいる松ケン清盛。信西の晒し首を見たときとも違う絶望の表情。この役者は、いったいいくつの顔をもっているんでしょうね? 

「今はただ父として、泣いてやるがよい」と促す池禅尼。彼女の造形もほんと面白いなと思う。ああいうことを清盛に言えるのは今や彼女しかいないのよね。なさぬ仲であっても、長年をともに過ごしてきた情はありありとある。みずから、親子の逆縁を経験した人でもある。けれど彼女が基盛のために泣くことはないんだよねー。とても絶妙。

今日はもうひとり退場者が。堀部圭亮演じる藤原忠通。第一話から出演して、このドラマの世界にしっくり馴染んでいた人だったので、長い間おつかれさまでした、と思っちゃいましたよね。これまた一つの時代が終わったな、というか。息子・基実との縁談という大事な話を振ってましたが、そこは第三部でやるんでしょうか?

この忠通さんは、先週のオープニングで、「曲調がらりと変わり、浜辺を駆け抜ける子ども」をバックにばーん!と出てくるおいしい位置のクレジットをとっていましたが、今週はそこのパートの二番手でした。かわっておいしい位置に入ったのは、もちろん我らが崇徳の院でっす! やっぱりここって、今日で退場 or 退場間近 な人を優先的に入れているんだろーか?

ともかくも崇徳院@怨霊、存分に楽しませてもらいました。えっと、あれは基本、楽しむパートだったってことでいいですかね? いやー如何に大河とはいえ、テレビドラマであそこまでやるのは、スタッフも演者も大変だったろうけど、別にあそこまでやれっていう圧力があったわけでもなかろうから(笑)、楽しんでやった部分も大きいんだろうなーと思った。

でも、ま、しみじみとする部分はあるんだよね。♪誰かの願いがかなうころ〜、あの子が泣いてるよ〜♪ っていう宇多田ヒカルの歌じゃないけど、愛妻に御子が生まれて絶好調だからこそ、少しでも禍々しさを感じたものをいともやすやすと退けてしまう後白河、息子を失ったけれど息子の亡骸を抱きしめてやれる清盛と、息子を亡くしたことを遠きへき地で聞かされるだけの崇徳…。幸せや不幸せがあちこちで同時に起こり、どの不幸せも比ぶべくもない、それがこの浮世ってもんだなあと。

・・・で、西行、なんでオマエはそげんあるんか?(博多弁)、と。まったく、小一時間問い詰めたいぜ。ちょっと出家したからって何を超然としとるんだー。崇徳の怨念の塊が見えたなら、オマエは厳島じゃなくて、讃岐に行かんかい! もとはオマエが彼を「お守りします」言うとったんじゃろーが!!  

納経のための船が嵐に遭う中、頼盛さんらが「(嵐を鎮めるため)経典を海に奉じましょう!」と提案するのだが、放送前から異様な一致団結を見せていた清盛クラスタさんたちが、「経典じゃなくて西行を投げ入れろ!」と口々に叫ぶのを、作り手さんたちは想像していたであろうかww ま、西行さんを完全なネタ要員にしてるのは、もとより作り手さんの意思ですよね?

この「経典を海に奉じましょう!」のやりとりは象徴的でもあった。一門の中でも知恵者とされている頼盛、重盛は、嵐に遭うに至り、厳島神社に奉納すべき経典を海中に投じようというのだ。それは「ともかくここを乗り切らなければ元も子もない」という急場しのぎの策である。清盛は断固としてそれに異を唱える。この辺は、「主人公age」と言ってしまえばそうなんだけど、やはり主人公清盛が強い志、余人には持ち得ない稀有な資質をもっているという描写として面白かったと思う。清盛が「鱸丸!」と呼んだときに胸熱になるワタクシは、この少年漫画大河にじゅうぶんにフィットしてるんでしょう。

その経典を作る作業を見せるところもすごく凝ってて面白かったです。『平家物語』で読んだアレが映像に!ていう興奮ね。いやーほんと、豪華絢爛で途方もない事業。当時の平家も途方もないし、ああいうふうに見せてくれるNHKさまもすばらしいですよ! ものすごく美しくて目を奪われて、それに金にあかせただけでなく、皆の心がこもった経典なんだけど、讃岐で大暴れしてる(笑)崇徳さまとの対比で見せられると、いったいどっちがどーなのか、わけわかんなくなるという演出。面白かった。

「散った人たちの志を継いで生きていく」という清盛に対して、「志だけじゃなくて、恨みも背負わなきゃいけないんですよ」というのが、この回のキモだったんだと思う。光あるところには必ず影ができる。平家の繁栄と衰亡とは背中あわせなのだ。

その「恨み」を、初めてにしてとんでもないレベルで具現化してみせた崇徳さま…だけど、清盛率いる平家一行が嵐の海を漕ぎきったのと時を同じくして、荒ぶる大魔縁こと崇徳さんは特殊メイクが解け人の姿に戻る。とはいえ、そこに、清盛の意思や祈りとの因果関係があるかどうかをこのドラマは描かない。そこを敢えて際立たせないところに、作り手の良心を感じる。

「何一つ、何一つ、思うままにならぬ一生を、崇徳院は生ききった」という、頼朝のナレーション。「生ききった」という表現。そして、はかなくも、同時にワイルドでも(笑)、今までで一番といっていいほどに、息をのむほどに美しい姿。あたりで遊ぶ子どもの笑い声と、「遊びをせんとや」のテーマソング。これは崇徳院に対する最大の敬意だと思う。彼は自らの意思で怨霊になったけど、自らの力で人に戻り、そして果てたのだという感じがした。ほんで、誰もが思ってるでしょうが(特にNHK高松の方々がw)、井浦新という役者が崇徳を演じたことを私は忘れないだろう。

ま、同時に、藤木直人という役者が西行を演じたことも忘れないがwww や、いいです、西行さん。第三部でも、ちょいちょい出てきて楽しませてね。で、「都の隣に博多を持ってくる」案が、いかにして「都=俺が作った博多(神戸ですが)」になるのか、その経緯も見守りたいと思います。予告で映ってた遠藤憲一の扮装にまったく違和感がないことに驚嘆しました。あれが北条時政かって言われたら今はそういうイメージないけどさ、第三部まできてこうも期待してるってこと自体がうれしいのよ。