『マラソン・ウーマン』 甘糟りりこ 

マラソン・ウーマン (幻冬舎文庫)

マラソン・ウーマン (幻冬舎文庫)

42才で初めて走ったフルマラソンについてのエッセイ。図書館で見かけて借りてみました。

世界三大市民マラソンといわれるロンドンマラソンが、著者のフルマラソンデビュー。足首の手術がきっかけでマラソンを志したこと、女性ファッション誌で人気のエッセイストらしく(私は全然存じあげなかったが…)、出版社や、アディダスや、スポーツジムの公私にわたっての支援・叱咤激励を受けていること、いわゆる「ギョーカイ人」っぽく、もともとの生活が派手で刹那的であること…など、いわゆる普通のフルマラソンデビューとはちょっと違うな、という感じはある。

でも考えてみれば、初めてのフルマラソンのスタートラインに立っている人たちにインタビューしたら、年齢だって職業だって生活だって、それぞれ全然違うはずだよね。大人になってから自発的にスポーツをやると、そういう、まったく千差万別な人々と、同じ喜び・苦しみを共有することができるという楽しさもありますね。

たとえば、こんなの。

心の持久力もついた。ランニングは、地道に一歩ずつ足を前に進めて行かないと、ゴールまでたどりつけない。そんな当たり前のことを、日々身をもって実感すると、その一歩一歩が貴重なものに感じるし、楽しくもなった。(中略)小説も付け焼刃で何とかしようという悪い癖はずいぶん直った。調子が悪くても走っているうちに身体にリズムが出てくる、という経験を何度もしかたら、何も思いつけなくても、とにかく何でもいいから字を書く、というようになった。そうすると、書いているうちに思考が活発になってきたりもする。

そして、これまで最高で18kmくらいしか走ったことがない私には、誰の筆によるものであっても一様に、「人が初めて42.195kmを走るときの身体、それに伴う心情の、これまで味わったことのない感覚とその変化」の描写を読むことが、すごく興味深い。