『ハングリー!』終わりました

まあ、とにかく何より、安易だったよね。向井理ありきの企画で、料理と音楽とドSキャラ、ていう発想をしたあとの何もなさ。脚本以前に、そこんとこの練り方、突き詰め方があまりに甘いままスタートしてしまった感じ。最終回もあまりのひねりの無さに泣けたわ…。ちょっとくらい予想の斜め上をいってよ…。

軽いノリのドラマだっていいんです。ファンタジーな成功譚だっていいんです。それならそれで、きっちり躍らせてくれなきゃ困るって話。30歳で音楽をあきらめて新たな夢へ…って、その設定自体が悪いわけじゃないんだけど、モラトリアム期の閉塞感とか挫折感みたいなのを変に織り込んでくるからいけない。

だって、バイトかけもちして何とか食いつないでるって感じでもなく、要は片平なぎさママの脛をかじって30歳まで喰えもしないバンド活動やってたわけでしょう。それで、「就職・結婚する奴らを見て劣等感」みたいな描写をされても、バブル期ならいざ知らず、全っ然共感できないわけですよ。向井(よびすて)がひがんでる周囲の奴らは、なんとなくレールの上を歩いて就職・結婚してるわけじゃない。グレたり女漁ったりバンド活動してるヒマあれば、その分、資格をとったり就活したり婚活したりするのが今の若者でしょう。

恋愛もようにしても、銀行員の恋人は超リアリストかと思いきや、「音楽の夢を追うのはOKだけどレストランは嫌」なんて謎なキャラだし、ヒロイン格の女子大生は、女子高生としか思えない恋に恋する純粋ちゃん(まあ美織ちゃんはその設定でこそ輝くわけだが)。

なんかねー、何を見せようとしてくれてるのか、よくわかんないんですよ。どういうスタンスで見たらいいのかわかんない。

これが21時枠なら、「中学生向けなのね」って割り切るんだけど、22時枠だし。フジには「花・男」とか「イケ・パラ(旧)」とかいうラブコメの名作があるわけですが、“ステディな関係”とか“30歳で夢破れて”の設定を見る限り、たぶん作り手側は、その路線を目指していたわけじゃないんだよな。いちお大人が見ることを想定してたと思う。中身が全然ついてこなかっただけで(泣

それでもこのドラマが、どーにかこーにか何とかなった(のか?)のは、見切り発車してしまって最早いかんともしがたりストーリーはおいといて、とにかく役者を前面に出していったからかなあ。あの設定にドはまりする美織ちゃんや、手堅い演技をする塚本くん、とにかく頼れる片桐はいり、初々しい演技力込みでキャラにしたケミ川畑。

そしてもちろん吾郎ちゃんである。テレビドラマの脚本は実際の放送と並行して書き進めていくもの。役者のあまりに確固たる人物造形や演技が、拙い脚本をも走らせることのあるのは、『天地人』の小栗さんや『江』の宮沢さんを見ても明らかなのですが、このドラマの吾郎ちゃんもその域に入っていたと思う。「怒ったら腹が減った、まずは食事だ」から、店の窓ガラス越しに浮かんでほくそ笑む顔まで、麻生という男は最後まで一貫して見事!

そこへいくと、「主人公だから料理がうまい」「主人公だから女にモテる」という補正ありきでしか魅力がつかめなかったところが、役者・向井くんの現在の限界…だと思えなくもない。書くほうも最後まで山手英介って男をわかってなくて、迷いながら書いてたんじゃないかな。

じゃあ失敗なのか、と言われれば、「こんなドラマ、よく毎週見てるね。なんだかんだ言いつつ、これが向井理じゃなくて上地雄輔あたりだったら、見ないんでしょ」と夫が看破したとおり、やっぱり向井くんの力は大きいと思う。

このドラマでの向井くんはあんまりかっこよくなかった。飄々としてる役、涼しい顔をしてる役のときはかっこいいけど、ガーガー怒ったりわめいたりする向井くんは、(演技力の問題ゆえに)今のところかっこよくないってことがよくわかった。でも、怒ったりわめいたりしながら悪戦苦闘する英介の姿は、この程度のドラマでも(失礼)、演技力が足りなくても(失礼)主役として最後までひっぱらなきゃいけなくて足掻いてる向井くんの姿と重なって、途中からなんか面白かった。

作品や役柄に恵まれ続けたとしたら、それはすごくラッキーなことなんだろうけど、こういうドラマでの経験もまた役者を成長させそう。これから伸びるにせよそうじゃないにせよ、ムカイリ史の中でけっこう意味のある作品になるんじゃないかという気がする。…ってなんでこのドラマにこんな長い感想書いてんだよあたし! もーやだ!