『シュミじゃないんだ』 三浦しをん

シュミじゃないんだ

シュミじゃないんだ

このエッセイの存在については知っていたんだけど、文庫版が出版されていないこと、および、全編通して語られている対象のBL(註:ボーイズラブ漫画)についてとんと門外漢であることを理由に購入に至っていなかった。しかしある日、我が家の最寄りのちっこい図書館の棚をぽやぽやと眺めていると、ぴきーん! こ、これは件の本ではないかー! しかも、「エッセイ・女性」なんて棚ではなく、ちゃんと「文学評論」の棚に収められている。やるな、わかってるよ、この図書館の職員は!

ということで喜び勇んでさっそく借りて、ホクホクで帰ってきました。けっこうなボリューム。期待が高まります。

なんでも、『小説とエッセイ集とを1冊ずつ出したばかりで毎日ぷらぷらしていた』頃に、新書館の編集者に声をかけられて始まった連載らしい。掲載誌は「小説ウイングス」。うん、正しいですね。

連載は足かけ5年も続いたというのだから、新進作家として、直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』や、かの傑作『風が強く吹いている』等々の作品を意欲的に執筆する傍らで、この愛情の対象(もちろんBL)についても、口角泡を飛ばす勢いで語り続けていたのであるなあ…と思い、胸熱である!

単行本化にあたり、初期のものはだいぶ書き直してはいるらしいけれど、デビュー間もないころから、やっぱりうまい。時事雑事や作者の身辺を絡めながら、愛情の対象(繰り返しますがもちろんBL)について、なぜ愛すべきなのか、なぜ讃えるべきなのかを巧みに読者に訴える。これはもちろん文章力、構成力でもあるが、やはり、他の人の手による作品に対しての深い理解力、洞察力、豊かな感性のなせる技だろう。面白い書評って、該当作品をまったく知らないのにもかかわらず、面白く読めるもんなんだよな。巧すぎて、読んでもいない作品のすばらしさのカナメをしをんさんの評だけでわかったような気になってしまうのが玉にキズ、ってぐらいだ。

「BLは"関係性"を描くのに適している」というのがしをんさんの持論で、連載の最終回に「では私はどんな関係にグッとくるのか」について書いてあるのだが、その説明が、まんま、のちに書かれた『仏果を得ず』の健&兎一郎で、ぷぷぷ、となった。「風が強く…」もこの亜流と思えんこともない、ぷぷぷ。そして、「最終回という割に、ページがまだ残ってるよな…あとがきが長いのか? どなたかBL漫画家さんと対談でも?」と思っていると、なんと、しをんさんによる書き下ろしBL小説が! これがまた、すごくマジメなもので、ぷぷぷとなりつつ、「そんなしをんさんが好きだーーー!」と咆哮。