『平清盛』 第8話「宋銭と内大臣」
吹石一恵演じる舞子、阿部サダヲ演じる高階通憲、玉木宏演じる源義朝、松雪泰子演じる得子、深田恭子演じる時子…どの人物をとっても、物語への登場が非常に印象的なこの大河ドラマ。
今回は、「悪左府」というインパクト大の異名をもつ藤原頼長がもってってくれました〜。ご存じ新選組!副長、土方歳三の前世の姿です(?)。パロディーも大好きなのね、このドラマ。「粛清する」って、どう考えてもわざと言わせてる。
この山本耕史が、白塗りにつぶし眉・お歯黒で登場してんのに、少しのコミカルさもない。超クール。盃に浮かぶ気に喰わねー菊の花びらは、扇子の要の部分で丁寧に掻きだします。剪定にほんのちょびっと(推定2cm)飛び出ちゃってるとこがあるだけで、庭師は即クビです。書物を重ねるときも無意識のうちにきっっっちり揃えてます。怖いです。ちびります。
そんな、せりふもない細かな所作で、苛烈な人物像があッちゅー間に屹立したわけですが、それだけじゃ終わらず、いきなり主人公と対峙です。電話やメールでするするやりとりできるわけでもなかろーに、大宰府やら神埼やらに人をやって調べ上げ、きっっっちり裏とってから密貿易について問いただす悪左府。パパ盛が偽造した公文書を「読んでみよ」などと清盛に音読させるあたり、折り紙つきの性格の悪さです。
身分といい捜査力といい、悪左府・頼長の圧勝かと思いきや、ここで清盛、反撃に出ます。「呆れてなんも言えねー」。ひらきなおって「商売くらい好きにやらせろ!」と立ち上がり、調度品のすだれをぶっ壊しながら、「だいたいおめーら上の人間が適当ばっかやってるから、こんなに国が乱れてるんだろーが! おめーも自分の足で博多に行って、市場の活気見て来いや! そしたら外国の素晴らしさがわかるっつーの! 日本を豊かにするのがおめーらの仕事だろゴルァ!」と口角泡を飛ばして極論ぶちかますのです。
ここ最近のクサレ大河なら、これで一発逆転、「清盛、恐ろしい子・・・!」と目の色変えられるところです。しかし悪左府、口を開いて「なんとまあ…」と言う声が震えている。これが、びびるなんてとんでもない、嘲笑してるんです。笑けてしょうがなくて声が震えちゃいました。続く言葉は「気の遠くなるほど愚かな奴だ」ですよ。くぁーッ、しびれる!
清盛のせりふは、翻訳すれば「事件は会議室じゃない、現場で起きてるんだ!」って意味で、これが手を替え品を替え、どれほど多くの作品で使われてきたことでしょうか。まさに葵の御紋並みに効力のある決まり文句を、大河ドラマ『平清盛』は、笑止千万とばかりにぶったぎってくれたのです。
いわく、「博多の市場を見ただけで、海の向こうの国を理解した気になってるのか、この阿呆。話にならん。とっとと帰れ」
いやぁ、アンタは正しいよ頼長! 私も大学時代、社会学概論をとったとき、最初の講義で教授に言われたもん。「“悪しき経験主義”に陥ってはいけない」と。
や、もちろんここには、「国を変えたい」という理想をもつ清盛と、あくまで「乱れを正したい」だけの頼長だったら、長い目で見たときどっちが大人物になりそうだい?っていうシンボライズも含んでいるわけよ。でも、今の時点で、何の実績もない若造(まあ頼長だって相当若造なんだけどね)が吹く理想論があっさり通用するわけないやん?
そんで、すごすごと帰る清盛も良かった。「今の俺じゃ、あの男には歯が立たない…」なんて言ってね。ちゃんと己を客観視できるようになった清タン。日々成長だな!
おっと、この対決、ここで終わったわけではありません。なぜか同席していた、こちらも天下の博学・阿部サダヲ演じる高階通憲が「公文書偽造っていっても、鳥羽院は平氏の密貿易に乗っかってるも同然だから、とがめても意味ないやん。アンタほどの切れ者ならわかってるよね?」と牽制します。
悪左府は答えず…そう、安易にせりふで言わせないのがいい。その表情から、清盛を軽侮してはいるけれどもなんとなく小骨が喉にひっかかったような心地、ついでに、身分の低い貴族であるサダヲのことも、こいつ馬鹿じゃねーな、と察知している感じ、だからって俺は粛清だ粛清粛清、っていうゆるぎない信念、など、いろんなものが想像できるわけです。
そもそも清盛には、自分を元凶扱いする叔父さんがいて、清く正しいライバル・義朝(野人化なう)がいて、実の父たるもののけが残していった腐った王家があって…なんですよ。それが今回、子犬のようにかわいかった血のつながらない弟も、なんだか思うところがありそうなところに加わって、この悪左府。
しかも、言ってみれば、コイツですらまだ前座ですからね。予告で初お目見えした後白河=ラスボス=翔太〜! 童形、つまり角髪(みずら)姿の登場人物って、私、大河で見るの初めてかもしんなーい! きゃいきゃい。あの、両耳の横で結ってる髪型のことよ。
男子、外に出れば、七人の敵がいる、ってわけでね。いや〜清タン大変だ〜。前も書いたけど、清盛 vs それぞれ ってだけじゃなくて、敵は敵でそれぞれ敵対したり擦り寄ったり、いろんな動きがあるのもいいよね。
周りが強烈だから、やや影の薄い感のある主人公で、特に、愛読してるブログを巡回する限り、どうも40代以上の女性に人気のない清タンなんだけど、私は小雪寄りのせいか(年がね。ええ、ほかは何も寄ってませんよ、美貌とか)、かわいくてしかたないですよ〜松ケン。
位だって従四位下だっけ?相当高いし、いっちょまえに、院に陶磁器やら献上するようになってるくせに、相変わらず汚いナリしてるのが微妙に疑問*1なんだけども、そんな清盛の新妻…加藤あいを見ると、これまたキュンとくる。こんな世にも綺麗な奥さんが、むっさ苦しい若造を愛し、愛されることに、心底喜びを感じてるんだなーって様子を見ると、清盛の価値が上がるわけですよ。ところで、加藤あいってこんなにきれいだったっけ? 見とれちゃうんだけど。
しかもさ、悪左府にこてんぱんにやられて、それなりに落ち込んで帰ってきておきながら、妻が顔を見せると、そんなクサクサはおくびにも出さず(まぁそれだけ美しい奥方にメロメロなのかもしれぬ)にっこり笑って、「唐船は当分無理でも、川舟にでも乗ろう」なんて言っちゃってさ、いい男じゃないか。明子さん早速のご懐妊オメデトー! 自らは実の親の愛情に接することなく育ってきた清タンだから、己の血を引く子どもが生まれるのは、どんなにうれしいことでしょうか。
さて、その他、
- 「美しく生きたい」なんて涼しい顔でうそぶいていた藤木直人・佐藤義清が、いつのまにやら禍々しい腕々にからめとられてがんじがらめになっている
- お歯黒三兄弟ならぬ親子、忠実(国村隼)、忠通(堀部圭亮)、頼長(山本耕史)が一室に会するシーン、ヤマコーに対して耳を疑うような猫なで声を出す国村さんと、冷めきった様子の堀部さん
- 姿を消した水仙を恋う姿が、院の寵愛を失った悲しみを暗喩しているともとれる、たま子(壇れい)。なり子(松雪泰子)に言われて根こそぎ菊に植えかえておきながら、水仙を忘れられない姿で暗喩される、鳥羽院(三上博史)の妄執
- 一言のせりふもないままの冒頭/ラストの逢瀬シーンを通じて、純粋無垢だった少年から、平氏の男となっていく様が描かれた弟・家盛
- かわいさとかわいくなさの狭間をわざと演出しているのであろう由良姫(田中麗奈)のギャグパート
- 出来杉くんかと思いきや、意外なおしゃれ感覚を見せる鱸丸あらため盛国
などなど、今週も、うまいなーと思わされるシーン続出でした! あと、今回のサブタイトルも好きです。非常にそっけなくて謎めいていて、悪左府の登場にぴったり。<<追記>>
清盛と明子、大河のお約束と化している初夜のシーンがなかった。寝室で与太話ばっかりしてた『江』を思い出すと、このふたりの描き方ってとても爽やかでなかなか好感がもてるんだけど、もしかして、初夜は時子とのときにとっておくパターンなのかしら? それはそれで楽しみ、ウフ。