『架空の球を追う』 森絵都

架空の球を追う (文春文庫)

架空の球を追う (文春文庫)

『風に舞い上がるビニールシート』で驚かされたので、また何か読んでみたいと思っていたところ、書店で目についた。こんなふうに人目を引くべく、なんともきれいな装丁と凝った帯が施してあるのだよ。出版社としても押してるってことがよくわかる。

11の短編集。短編よりももっと短い掌編も含んでいる。そのすべてが、ほとんど同じ文体で語られ、しかもこの文体で一人称、というのにやや戸惑いは感じた。や、羨ましいほどの文章力なんだけどね。で、やっぱり巧い。たった一度しか読まず、何ヶ月か何年か経っても、タイトルを見たらどんな話だったか思い出せそうな気がする、そんな鮮やかな印象を残す作品ばかり。「日常のふとしたシーンを切り取った短編」なんて、いくらでも書けるんだろうなこの人、と思わせる。しかも、世界中のいろんなところを舞台にして。

好きなのは、「銀座か、あるいは新宿か」や「ハチの巣退治」のように、生き生きとした会話が楽しめるものや、「二人姉妹」のすっとんきょうなオチ。「ドバイ@建設中」のシュールさもすごいんだが、ラストがいきなり非現実的に思えてなじめなかった。

これでこの人の本を3冊(『DIVE!』は上下巻だったが)読んだことになるわけですが、「ユーモラスなものも書けるまじめな人」なのか、「ユーモラスな人がまじめに書いている」なのかがまだわかりません。エッセイ集出してないんかな絵都さん。

少数民族の難民キャンプを舞台にした「太陽のうた」は11編の中でも異色作。ある意味、浮いている。これがあるのとないのとでは、作品集全体のイメージががらりと変わる。心楽しく読めるものではないし、鼻につくという感想を持つ人もいる気がする。きっと、承知の上での収録だろう。『風に〜』にも難民キャンプが出てくる短編があった。作家としてのテーマのひとつなのかな。そうだろうな。