僕の心のありったけ

8月某日、好日。夫と息子に「行ってきます」を言ってバスに乗る。めざすは自動車免許試験場。免許更新に必要な講習はものの30分で終えることができる、私は完全無欠の優良運転者である。なんたって、前回の更新から5年、一度たりとも運転してない。事故を起こしようがないのだ。

この数日、梅雨と錯覚するほど降り続いた雨も上がり、空は明るい。朝8時半の心地よい空気を感じながら試験場の中に入り、視力検査の長い列に並んで、ポケットのipodをまさぐって再生。キリンジの弟こと堀込泰行の涼やかなボーカルが、耳の中を撫でまわすかのような親密さで聞こえてくる。これがほんとの『ペーパードライヴァーズミュージック』*1だな、なんてくだらないこと思ったり。

ここ最近、彼らに関する本やら読んでいるうちに、聴き逃しているアルバムがあることに気づいた。『For Beautiful Human Life』。さっそく楽天レンタルで音源を入手したのが昨日の話。

アルバムにずらっと並んだ曲名だけで楽しませてくれるバンドだ。「ニュータウン」とか「五月病」とか「口実」のように、そっけないまでにシンプルなものもあれば、「君の胸に抱かれたい」「地を這う者に翼はいらぬ」「千年紀末に降る雪は」のような、ちょっとした文構造・句構造を為しているものもある。

『FBHL』のM3、「僕の心のありったけ」も、いったいどんな曲だろう?とわくわくさせるタイトルである。始まった。♪新しい街の見知らぬ風景〜♪ 良き季節の良き朝を思わせるさわやかな始まりから、サビに向けて曲は徐々に盛り上がっていく。やがてタイトル・フレーズが繰り出される。

この心のありったけ、ありったけを

今夜は君の中の宇宙に
放ちたいのさ
放ちたいのさ

・・・ってそういう歌かい!

2回も言うか、と。どんだけ放ちたいのか、と。

いや、わかってる。こんなにストレートにエロを表現するほど、これ作った兄はわかりやすい男じゃない。この「心の」ありったけ、って、ちゃんと言ってるじゃないか。

とは思うものの、あのさわやかな始まりはなんだったんだ、というぐらいに「君の中・・・放ちたいのさ〜」の部分が、メロディーといいコーラスといい、妙に不穏にも、ばかばかしいほど壮大にも感じられてしまって。

そうこうしているうちに、曲は2番を終えていわゆる大サビに入った。

この心のありったけ、ありったけを

ありったけを ありったけを
今夜は君の中の宇宙に
放ちたいのさ
放ちたいのさ

もうね、だから、いったい、どんだけ放つつもりだ?っていう。。。。

列は進み、私は眼鏡をかけて視力検査台の前に立った。

*1:彼らのメジャーデビューアルバムのタイトル。