『西洋骨董洋菓子店』 よしながふみ

西洋骨董洋菓子店 2 (WINGS COMICS BUNKO)

西洋骨董洋菓子店 2 (WINGS COMICS BUNKO)

西洋骨董洋菓子店 3 (WINGS COMICS BUNKO)

西洋骨董洋菓子店 3 (WINGS COMICS BUNKO)

友だちに借りて一気読み。
もともと二次創作の同人活動をしていた漫画家と聞けば、まるごと抱きしめたくなるような愛おしさを喚起させる作品世界や、いわゆる「キャラ立ち」のさせ方の巧さにも大いに納得がいくというものだが、「同好の士」的な熱狂や排他性はみじんも感じられない。やはりこの作品でも性的にあるいは社会的にマイノリティである人々が中心になるのだが、作者はつねに感情的になることなく、俯瞰して冷静に、一定の温度で描いているように思える。

ディテールの緻密さ、設定の妙や張り巡らした伏線はきちんと回収していくなどの特性は、他の作品でよく承知していたけれど、完結している作品をこうして初めて読むと、あらためて感服。なんてスマートな作家なんだろう。

あれだけしっかりとした設定があれば、登場人物たちの過去なんかももっと長々と描き込みたくなりそうなもんだけど、それはしない。人気漫画って(読者の支持のもとで)どうしても冗長になるきらいがあるけど、よしながふみの場合、話を前に進めていく推進力がつねにはたらいている。それでいて、遊びの部分もちゃんとある。絶妙なバランス感覚。ナイーブなテーマを扱っておきながら、主張くさくないというか、押しつけがましくないのも昔からなんだね。絵柄も垢抜けてるし、とにかく読みやすい。 

話の筋も、ぶっとく一本通っている。第1話、冒頭のシーンが、その後も折にふれて繰り返し挿入され、その周辺事情が少しずつ明かされ結末につながっていくあたりは、ぞくぞくすらした。賛否両論あるみたいだけど、これしか考えられないくらいにぴたっとくる着地だと思ったなー。ケーキが嫌いなのになんでケーキ屋なのか、ラスト、彼にとって結局ケーキとは? 変わること、変わらないこと、忘れられないこと、忘れること、憎しみ、許し。読み終わってすぐにまた最初から読みたくなるという、すてきな物語ならではの法則が発動したよ。橘ラヴ☆

この作品で“特別”を彩るケーキを描いたあとに、『きのう何食べた?』で生きることそのものである日々の食事を描くのは作家として必然の流れだなと思ったりもした。あと、フジでドラマ化されたときは、橘じゃなくてエイジが主人公だったり、同性愛関係の設定は希薄化されたりだったようで、やっぱり地上波にはいろんな絡みがあるんだな、と。見てなかったけど、藤木直人が出てた記憶はあったので、てっきり橘だと思ったら小野か〜!と驚いた。でも、10年前だったらそうかもしんない。