『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

力作。正直、ここまでの読み応えとは予想していなかった。かつて『DIVE!』を読んだときは、「中高生向けの青春スポーツ小説か〜」という以上の感想は出てこなかったものだが、ほんとにあれと同じ作者が書いたのかと狐につままれたような気分ですらある。

まるで、本当にあった話を聞き書きしているんじゃないかと思えるような自然さ。もちろんそれが作者の手腕だ。すごくよく調べて書いている。その確かなディテールの中で息づく登場人物たちのリアリティ。スピーディな展開。多彩な色合い。すべての物語に、ある人生の、あるいは人生のある時期の痛みや苦しみがあり、且つ、それを乗り越えようとする希望のかけらが描かれる。

最初の『器を探して』の「“仕事と男とどっちを選ぶ?”系か〜」と読みながら、だんだん違和感を覚え、オチにアッと驚いたのを皮切りに、オタッキーな内容がテンポよく書かれた『守護神』、ツウ好みの『鐘の音』、石津くんのユーモラスな魅力も相まってお気に入りの『ジェネレーションX』と読書はどんどん進む。そして、タイトルも印象的な最後の表題作。慟哭しながら、こうも壮大で、かつ個人的な話を短編で書けるのかと驚かされた。

短編小説集がもちうる美点のすべてが詰まっているといっても過言ではない! 直木賞も納得だ。ていうか、作者も編集者も、絶対狙ってきてるよね。ちなみに、三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』と同時受賞だったとのこと。