『上京十年』益田ミリ

中日新聞に連載のエッセイ集。

上京十年 (幻冬舎文庫)

上京十年 (幻冬舎文庫)

きちんとした収入はあるし、長年つきあっている恋人と同棲を始めたり、作者、とんだリア充じゃねえかよ! 

『結婚しなくていいですか』を読んだ後だと、思わずそんなふうに突っ込みたくもなるってもんですが。や、でも、それで安心したというのもあります。そこはあの本の作者なので、生きていくことの心もとなさ・・・みたいなものは、やはり通低音として流れているのだが、『結婚しなくていいですか』はあくまでフィクションだからこそ、それを突きつめて肥大させていったんだな、と思えたというか。実際の生活は、怒れる出来事や所在無い正月があったとしても、ちょいちょい自分なりのガス抜きをやって、ほっこりやっていってるんだなあ、そうだよな、そうじゃなくちゃな、と思えたものでした。

・・・と、ちょっと過去形で書いてみたのは、震災の前に読んだものを、今、思い出して書いているから。

被災していない私でも、震災の前後では、やはり生きることに対する感覚そのものが変わってしまっているところがある。私の人生って、私の将来って、、、、という不安でがんじがらめになるよりも、いま生きているという奇跡に集中すべきなんだ、というか。

そういえば、この本には「おばあちゃん」というタイトルのエッセイも収められていたのだった。私はおばあちゃんになりたい。おばあちゃんになるまで生きたい。世の中には、なりたくてもおばあちゃんになれずにこの世を去る人だってたくさんいるのだ、と。

イラストともども、ほんの手すさびみたいに見せかけといて、やっぱりなかなか地力のあるものを書く益田ミリさんなのだった。この方、物書きになるきっかけは、エッセイでもイラストでもなく川柳の応募だったとかで、この本にもいろいろ収められている。以下、特に琴線に触れたものを。

大きくも小さくもなく等身大
強くなる汚れるわけじゃないと思う
あと何回母の料理を食べるだろう
重ねぬりペディキュアみたいな毎日だ
お年玉さほどお礼も言われない
悲しみがない怒りならまだマシだ
母の日じゃない日も遠く想ってる
宅配便用紙の父の字じっと見る