『アルプスと猫』いしいしんじ

アルプスと猫―いしいしんじのごはん日記〈3〉 (新潮文庫)

アルプスと猫―いしいしんじのごはん日記〈3〉 (新潮文庫)

“よろこびとかなしみのすべてがつまった特別な一年の記録”
オビに書かれた一文がこの1冊の日記を見事に凝縮していて泣ける。綴られた“かなしみ”の事実については前から知っていたけれど、読みながらほんとに嗚咽するほど今の私にはひとごととは思えなかった。

それでも、一日も欠かさずいしいさんの日記は続く。原稿を書き、園子さんとごはんを食べ、いい音楽を聴いたりお茶の稽古に行ったり阪神を応援したりしながら。

私は自分で日記を書くのはもちろん、人の日記(毎日愚痴っぽいのは苦手だが)を読むのも好きなんだけど、それは、日記を書く/読むことによって「毎日と向き合っている」感じを受けるからなんだろうなーとあらためて思った。人生には「このときのために!」と思えるような瞬間もあるけれど、それより前にも横たわり、それより後にも続いていくものだ。なにげない日のこともなにげないなりに愛したい、と思う。

いしいさんと園子さんの日々に幸あれ!と心から願うけど、私が願う願わないにおかまいなく、きっとふたりにはこんな日々が続くんだろうな、と思える。そのことに力をもらえる日記です。


あともうひとつ。この「いしいしんじごはん日記」シリーズが始まったとき、いしいさんは三崎という土地に運命的なものを感じていて、そこからもう離れないつもりなのかなと思っていた。けれどこの日記の時期のふたりは松本に住み、さらに現在(この日記は5年以上前のもの)は京都に暮らしているという。人生って、生々流転だ。“諸行無常”的ではなく、もっとフラットな意味でそう思った。