『森崎書店の日々』八木沢里志

森崎書店の日々 (小学館文庫)

森崎書店の日々 (小学館文庫)

恐れずに言うなら、本当に、なんてことない物語。これなら私にも書けるんじゃないか?

まあ、もちろんそれは錯覚だよね。文章も構成も登場人物も、何ひとつ際立ったところはないようで、「これが“ちよだ文学賞”とやらの大賞受賞作?!」と思ってしまうくらいなんだけれども、裏返すと何ひとつ破綻や逸脱がない。叔父が営む古本屋で多少ぶざまな失恋の痛みを癒す若い女の子の日々、という、とっつきやすい設定に、展開も結末も、もちろん文体もエピソードもすべてがフィットしている。背伸びしたり奇抜さを狙ったりしてるところがひとつもない。なにげにすごいんじゃないかと思う。

読後感も読み心地と同じで、ものすごい驚きとか感動とかはないんだけど、ささやかに元気が出てくる感じがいい。こういうの、嫌いじゃないなと思った。小説を読んでしまった今、わざわざ映画を・・・というほどじゃないけど、文庫本の表紙のカットなんかから見て、きっと映画も「ちょっといいな、これ」って感じじゃないかな。主人公の女の子(菊池亜希子さんというらしい)かわいいし、叔父さんが内藤剛志ってことで、変にこじゃれてなさそうな具合に仕上がっているのではないかと期待する。