『海馬 脳は疲れない』池谷裕二・糸井重里

海馬―脳は疲れない (新潮文庫)

海馬―脳は疲れない (新潮文庫)

ちょっと面積のある書店では、平積みになっていることが多い本。文庫化してのち、5年が経った今でもだ。それだけ人気があるんだろう。

よく見かけて、気にはなっていて、でも買うまでには至っていなかったこの本を、先月買った。そういうタイミングが来たのである。

私は基本的には「脳をよくはたらかせていたい」と願うタイプの人間で、そのとおり、これまではけっこう酷使してきた。「頭使いすぎてハゲる!」「総白髪になる!」と心配することすらしばしばで、(注:もともとそんなに頭のいい人間じゃありませんからすぐに沸点に達するのですよ)、「とにかく休みたい」「もうしばらく何も考えたくない」と真剣に思うこともあったぐらいだ。

しかし、仕事を辞めた今後、脳の“はたらき度”は急激に落ちる可能性があり、今はそれをちょっと恐れている。仕事のときと同じ方向性でなくていいが、質的量的にがくんと落とさずに、脳をはたらかせていたい。

そこでこの本に登場願ったわけだ。脳についての本。「脳は疲れない」というサブタイトルが頼もしい。それに、共著者として名を連ねている糸井重里は、「刺激的なもの」「おもしろいもの」、何より「肯定力にみちあふれたもの」を作る人としてのブランドイメージができあがっている。

読後の思いといたしましては、私の期待と信頼にみごとに応えてくれる本でした。「へぇーっそうなんだ!」てな、驚きの新事実が続出の本ではないんだよね。「うんうん、わかるわかる」というほうが多い。以下、抜粋。

  • 英語のうまい人はフランス語の上達も早い。ソフトボールがうまい人は、野球の上達が早い。というような、「前に学習したことを生かせる能力」は30歳を超えると飛躍的に伸びる。
  • 自分で試してわかることで生まれたノウハウのような記憶、「経験メモリー」の蓄積は、30歳を超えるとべき乗(!)で増えていく。
  • 脳は疲れない。だから、考えていて疲れても、いったん忘れないで、考えたまま違うことをするのがいい。「考え続けると、必ず答えが出る」。
  • 「やる気」を生み出す脳の場所は、ある程度の刺激がきたときに活動をはじめる。つまり、「やる気がない場合でもやりはじめるしかない」。
  • 考えた結果ではなく、考えのプロセスをアウトプットするのも大事。「やりかけに見えるけれどもここまでは考えた」という軌跡を残すのに、インターネット(HPやブログなど)は良い。

だいたい、大学受験のための勉強をしていたころよりも、社会人になってからの自分のほうが頭を使っているし、結果、頭がいいような気が、前からしていた。いやしくも(?)学生の頃は微分積分とかやっていて、社会人になってからは、「お勉強」的なレベルでいうと四則計算以上のことはしていないのに。

それに、自分より若い子に、仕事のパフォーマンスで劣ることは、まず、ないな、とも感じていた。逆に、4つ5つ年上の人にはどうしてもかなわない面があるな、とも。仕事といっても専門分野で優劣がつくのはあたりまえだが、なんというか、一般的な問題解決能力とか、いわゆる雑用みたいなことでも、だいたいにおいて年かさの人間のほうが勝っている。(10も20も年上の人については、だいぶ違う土俵で仕事をしているので、ちょっとよくわからない。)

どうしても合わないと思っていた数字も、考え続ければいつか必ず合うんだから、考えることをあきらめてはならないとか(でも、一晩寝かせることには効果がある。寝ている間に脳内で考えが整理されるから)。よりよいものを求めるには、どうしてもある程度の時間をかけなければならないとか。3ヶ月に1度しかしない難易度の高い仕事の感覚は、やりはじめてしばらくしないと思い出さないけど、やっているうちに必ず思い出すとか。仕事とは関係ないけど、日記(これね)を書き続けることが、かなり自己肯定につながっているとか。

たくさんのことが、これを読んで腑に落ちた。そして、なんだか、これまでがんばってきてよかったなーと思ったし、これからもがんばろうと思った。なんだ?この小学生みたいな感想は。でも、糸井重里の本だけあって、やっぱりとても肯定されたし、力が湧いてくるような気持ちになったのでした。